<北朝鮮内部>正恩氏肝いり豪華観光特区から若者が続々逃亡 「コロナで中国人ゼロ。食えない」 北部の三池淵 

2021年11月に三池淵を訪れた金正恩氏。労働新聞より引用。

◆当局は処罰で臨む

世界水準の国際観光都市を作る…。

2016年11月、金正恩氏は北朝鮮最北端の両江道(リャンガンド)の三池淵(サムジヨン)郡に、突然「山間文化都市」建設を命じた。

三池淵は白頭山麓に位置し、政権が「革命の聖地」を標榜してきた場所だ。2018年9月に北朝鮮を訪問した韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、この三池淵を経て金正恩氏と白頭山頂に立っている。

三池淵開発に熱を上げる金正恩氏は、度々現地を訪れて工事を突貫で急がせ、2019年12月に竣工した。中国からの観光客を当て込み外貨収入を得ようという目論見であった。

北朝鮮当局は、三池淵中心部の粗末な家をすべて解体してアパートや病院を新築し、新住民として多くの若者を配置、郡から市に昇格させた。だが今、その若者たちが競うように三池淵から離脱しているという。何が起こっているのか?

3月中旬、両江道に住む取材協力者に話を聞いた。

金正恩氏の肝いりで突貫工事により建設した三池淵の観光特区。国営メディアは大きく宣伝。労働新聞より引用。

◆新型コロナウイルスで中国人観光客ゼロ

――なぜ若者が三池淵から離脱しているのか

「こちらでは『(中国国家主席の)習近平が1億人の観光客を送ってやると言った』と言われていて、観光都市になって収入が増えると期待したのに、コロナで中国から観光客が1人も来ない。青年を集団進出させたが、山奥の暮しが辛くて適応できないのだ。」

――三池淵にはオール電化の立派なアパートが建てられ、電気供給も他所より格段に良いというが?

「確かに病院も新設され、電気も1日に15時間以上来ているが、観光客が来なくて当てが外れ収入もない。ジャガイモの産地だから配給はジャガイモばかり。商売もできず、コロナがいつ終わるか見通せず諦める人が多い」

――商売ができないとは?

「三池淵ではそもそも市場が許されていないのだ。市場は閉鎖されて、国営や協同組合の商店だけが運営している」

北朝鮮地図(アジアプレス製作)

◆強制配置された若者たちが離脱

――どんな若者たちが逃げているのか?

「高級中学(高校に当たる)や大学を卒業した若者に無理に、『三池淵に行きたい』と嘆願させて集団進出させた。本人が知らない間に当局が居住登録文書を勝手に移転させてしまうことも多くて、不満が最初からあった」

――三池淵から自由に離脱できるのか?

「もちろん理由がいる。嫁入り、病気治療、家庭困難などの口実を作ってどんどん逃げ出している」

◆当局は処罰厳格化 追放まで

――当局は規制していないのか?

「とんでもない。人民委員会(地方政府)の労働部が集中的に調査している。他地への出張を禁止にしているし、病気名目の場合は、病院の診断書がないと実家に戻っての治療も許していない。女性の場合、結婚を口実に三池淵から抜け出ようとする人には、市の労働課で食糧配給書類を移転してくれない。黙って出ていった人が大勢『労働鍛錬隊』に送られている。ひどい場合は、まったく別の僻地に追放までしているそうだ」
※労働鍛錬隊は短期の強制労働キャンプ。

三池淵開発は、金正恩氏直々の国家最優先プロジェクトである。労働党の指示で集団配置された若者たちの離脱は御法度だ。当局が厳しい処罰で臨むゆえんだ。

取材した協力者は次のように言う。

「三池淵に行った若者たちは『袋の中のネズミ』になってしまった。中で身動きもできず、外にも出られない」(カン・ジウォン/石丸次郎

※アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。

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