辺野古移設は本当に「唯一の解決策」か?米軍の本音は「普天間でも困らず」 完成後も普天間に居座る最悪シナリオも

米軍普天間飛行場の移設先、沖縄県名護市辺野古沿岸部。右は軟弱地盤が存在する海域=2月(共同通信社機から)

 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古移設を巡り、政権幹部や関係閣僚が使う決まり文句がある。「日米同盟の抑止力維持と普天間の危険性除去を考えれば、辺野古移設が唯一の解決策だ」。その響きは、沖縄の反対の声に対し「議論の余地はない」とする政府側の強い意思を感じさせる。ただ、果たしてそう言い切れるのだろうか。辺野古の埋め立て予定海域では軟弱地盤が見つかり、移設計画は混迷の一途をたどっている。防衛省は工事計画の変更を沖縄県に申請したが、玉城デニー知事は認めず「工事は絶対に完成しない」と明言する。

 一方、米軍の本音は「唯一の解決策」とは異なるとの見方も。「辺野古移設が実現しなくても普天間を継続して使えれば困ることはない」。背景にあるのは、辺野古の代替施設の能力不足に対する懸念だ。仮に完成しても、施設の機能が充実した普天間に米軍が居座り続けるという最悪のシナリオも現実味を帯びる。5月15日で沖縄の日本復帰から50年。普天間移設問題をどう見るのか、さまざまな専門家に聞いた。(共同通信=池田快)

 ▽防衛省の工事計画を疑問視する専門家2人

 

 眼前に美しい海が広がる辺野古沿岸部。軟弱地盤は埋め立て予定海域の東部分で見つかった。

 防衛省の対応策はこうだ。砂を締め固めたくいなど約7万1千本を海底に打ち込み、水面下約70メートルまでの地盤を改良する。同様の工法は羽田空港の工事で実績があり、問題ないとの理屈だ。

 ただ、目算通りに進むかどうかは見通せない。日本に存在する作業船の能力は深さ約70メートルまでで、限界ぎりぎり。そこで、専門家2人に意見を聞いた。地盤工学が専門の鎌尾彰司日本大准教授と、地質や地盤の専門家でつくる「沖縄辺野古調査団」代表の立石雅昭新潟大名誉教授(地質学)だ。両氏は専門家の立場から沖縄県に助言もしてきた。

 鎌尾氏は辺野古の埋め立てについて「格段に難しい工事になる」と解説する。同時に「軟弱地盤の深さは約90メートルある」として、約70メートルまで工事をすれば済むという防衛省の見立てのおかしさを批判した。

鎌尾彰司日本大准教授

 立石氏も同様の見解を示し「政府は軟弱地盤を放置し、計画は科学的検証なく進んでいる。本当にできるのか」と疑問を投げ掛ける。完成にこぎ着けたとしても「施設の沈下は続く。滑走路を平たんに保つため、絶えず維持・管理が必要になる」と警告した。

立石雅昭新潟大名誉教授(本人提供)

 ▽2・7倍に膨らんだコスト、工期は30年代半ばまで延びる恐れも

 コスト面ではどうか。安全保障が絡むとはいえ、辺野古移設も税金を投入する点で一般の公共工事と変わらず、コスト無視はあってはならないはずだ。だが、総工費は当初の約2・7倍の約9300億円に膨張。最終的には、それで収まらない可能性も消えない。

 工期も地盤改良のため延びるのは避けられず、移設完了時期は2030年代半ば以降にずれ込む見通しとなった。まだ10年以上も先。沖縄の強い反対の中、30年代半ばという最速シナリオも実現は困難との見方がもっぱらだ。

 

「新外交イニシアティブ(ND)」の猿田佐世代表

 米議会で移設反対の政策提言を続けるシンクタンク「新外交イニシアティブ(ND)」の猿田佐世代表は「国の政策であっても、どれだけお金をかけても良いというわけではない」と強調し、移設計画の中止を求める。

 ▽軟弱地盤の下に活断層の可能性、米議会も問題視

 問題はコスト面だけではない。政府が行う工事である以上、透明性確保は欠かせないが、軟弱地盤を巡る政府対応は、国民の目に「情報隠し」と映っても仕方がない側面がある。政府が軟弱地盤の存在を認めたのは19年1月。それより前の15年の段階で、把握済みだったことを示す資料が共同通信の情報公開請求で判明したからだ。「政府は都合の悪いことは伏せるのか」と不信感が増す要因ともなった。

 政府は軟弱地盤を認める直前の18年12月、軟弱地盤がある地点とは別の海域で土砂投入に着手した。反対派を中心に「政府は軟弱地盤を認める前に埋め立てを始めた。移設工事の既成事実化を進める狙いがあった」との見方が広がる。

 立石氏は軟弱地盤以外にもリスクがあると指摘する。「海底には活断層が存在する可能性がある」というのだ。活断層である危険性については、米議会でも20年に取り上げられ、軟弱地盤とともに問題視された。地震が発生すれば、埋め立て地の代替施設は大きな被害を受ける恐れが高い。

 ▽「辺野古で良いという海兵隊員に一人もあったことがない」

 

ロバート・エルドリッヂ氏

 一方、米軍は辺野古移設の進捗状況をどんな思いで見つめているのか。普天間を拠点とする在沖縄米海兵隊の政務外交部次長を務めた経験を持ち、海兵隊の事情に詳しいロバート・エルドリッヂ氏は「辺野古の代替施設では普天間の機能を維持できない。辺野古で良いという海兵隊員に一人も会ったことはない。文民統制があるからのんでいるだけだ」と断言。「辺野古移設はベストでもベターでもなく、ワーストだ」と言い切った。

 普天間は約476ヘクタールの広大な敷地に、約2700メートルの滑走路を有する。多くの軍用機の離着陸が可能だ。沿岸部に立地する辺野古の代替施設とは異なり、津波で大きな被害を受ける事態は考えづらい。

 対する辺野古の滑走路は約1800メートル(オーバーランに備えた補助部分を含む)と短く、大型機の運用は制限される。基地としての機能は極端に低下し、台風などの災害にも脆弱だ。

 エルドリッヂ氏は「人が住むところに飛行場を建設してはいけない。それは普天間の教訓だ」と話す。辺野古の代替施設予定地の近くでも住民は暮らしている。「新たな施設を造れば、移住者は増える。歴史がそう語っている」と指摘する。

2018年12月、海上での抗議活動が続く中、埋め立て用の土砂投入が始まった沖縄県名護市辺野古の沿岸部

 「持続可能な根本的な解決策にならない。辺野古移設は沖縄の負担軽減にも、抑止力維持にもつながらず、日本政府が何を解決しようとしているか分からない」と突き放した。

 ▽「有事に辺野古はほとんど役に立たない」

 辺野古で不十分となると、仮に完成させたとして、米国は普天間を約束通り返還するのだろうか。猿田氏は「多くの人が『辺野古ができても普天間は閉鎖しない展開はあり得る』と話している」と憤りを隠さない。

 日米が普天間返還で合意した1996年から四半世紀以上が経過し、日本を取り巻く安全保障環境は一変した。軍事力を拡大させた中国が日本全域を覆うミサイルを多数配備する中、緊張が高まっている。米軍の戦略も変わり、返還合意時には想定していなかった事態だ。防衛省筋は辺野古について「有事における海兵隊の運用を考えれば、ほとんど役に立たない」と打ち明けた。

2018年12月、政府による辺野古沿岸部での埋め立て用土砂投入が始まり、米軍キャンプ・シュワブのゲート前で抗議する人たち=沖縄県名護市

 米政府監査院(GAO)も2017年の報告書で、辺野古の滑走路の「能力不足」を取り上げ「代わりの滑走路が見つからないまま(普天間を)返還すれば、米軍の作戦能力が妨げられかねない」との強い懸念を明記している。

 防衛省幹部の一人は、米軍は中国軍に対抗するため、軍備を拡充させていくだろうと予測する。その上で口にしたのは、くしくも猿田氏と同様の見解だった。「米軍の最新装備が辺野古で使えず『普天間以外ない』という事態も起こり得る。普天間が確実に返ってくる保証はない」

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