父は元プロ野球選手 名門チームで野球を続ける“兄弟”が受け継ぐ、仲間を思う気持ち

ヤクルトOBの度会博文さん【写真:編集部】

度会博文氏は4月開校のヤクルトベースボールアカデミーのヘッドコーチ

昨年、ヤクルトやアマチュア野球ファンの間で話題になった“一家”がいる。元ヤクルト内野手で現在、球団職員の度会博文さんの長男・基輝(もとき)内野手(現・JPアセット証券野球部)が中央学院大(千葉)で明治神宮大会の大学の部で初優勝を飾った。社会人野球ENEOSに所属する弟の隆輝(りゅうき)内野手は、その直後に行われた都市対抗野球のデビュー戦で本塁打をマークした。各カテゴリーの高いレベルでプレーする兄弟と父には、仲間を思う共通点があった。

【写真】お父さんそっくり? アマチュア球界で躍動する度会博文さんの長男と次男

兄・基輝内野手は現在22歳で今年から社会人野球に舞台を移す。船橋ボーイズ(千葉)から千葉の名門・拓大紅陵、中央学院大を経て、今年からJPアセット証券野球部に所属。3つ年下の隆輝内野手は佐倉シニア(千葉)から、神奈川の強豪・横浜高を経て昨年、ENEOSに入社し、野球を続けている。

父である度会氏は優しい表情が印象的なバイプレーヤーだった。今もその面影は残っている。小学生のNPB大会「東京ヤクルトスワローズJr.」では監督を務め、今春から始まる「ベースボールアカデミー」のヘッドコーチ。子どもたちの未来を明るく優しく、照らしていく。

現役時代、まだ小さかった2人を神宮球場やクラブハウスに連れて行ったことがあるという。

「まだ幼稚園生か小学生くらいだった頃の2人を入口に立たせてね、選手だけなく、裏方さんにも全員に挨拶してきなさい、と。当時はクラブハウスに行ってもよかったので、本当にたくさんの選手、スタッフによく遊んでもらったりしていました」

元気よく、全員に挨拶するのが“日課”だった。その光景を今でもよく覚えているヤクルトスタッフは多い。

「下の子の方がやんちゃだったから、試合前の主力投手に向かってぬいぐるみとか投げちゃったとかもありました。以前、ENEOSとヤクルトが練習試合をしたときに、ゴリ(現・石井弘寿氏1軍投手コーチ)に『おい、隆輝! ゴマちゃん(漫画・少年アシベのキャラクター)のぬいぐるみ投げつけたこと、覚えているか?』と聞かれて『はい、覚えています』と息子は答えていましたね(笑)」

2人の息子は父の背中を見て、野球を始めた。できる限り、練習に付き合ったが。シーズン中はなかなか時間が取れなかった。それでも夫人も懸命に2人の息子の練習相手としてバックアップしてくれていた。

「素振りやティー打撃……2人とも自分がいなくても、地道に練習をしていましたね。それが一番上手になる近道ですし、本人たちもそう思っていたと思います」

社会人まで野球を長くやれる秘訣は……

度会氏はヤクルト時代、スーパーサブとして、チームを支えた。2001年に入団したアレックス・ラミレス氏を公私ともにバックアップ。人気パフォーマンスとなった「ゲッツ」や志村けんさんのギャグ「あい~ん」を提案したのもそのひとつ。グラウンド以外でもチームを盛り上げることに徹するなど、必要不可欠な存在だった。

そんな度会氏に愛息たちがここまで、野球を長く続けられている秘訣について聞いてみた。

「野球が大好きで、楽しいのでしょうね。いつも試合を見に行っても、元気に声を出している姿を見ます。考え込んでしまうタイプではないですし、先日の社会人の大会でも人一倍、声は響いていました」

幼少時から、伝えてきたことがある。

「練習はきついだからこそ 明るく元気に!」

きつい練習や試合状況でも、みんなで声をかけながら頑張ればいい。子どもたちが小さいころから言い続けてきたことを、社会人になっても守っている。もう植え付けられているのだろう。

「キャッチボールひとつにしても、褒めてあげた方がいい。ナイスボール! ナイスバッティング! とかそういう声だしが大切。褒めてあげると、その子にとって自信がついたり、楽しくなったり。時には厳しいことも必要ですけど、声かけひとつでも盛り上がっていくと思っています」

基輝内野手も隆輝内野手も、今のチームでは年少の方になるが、先輩を敬いながら、“さん”付けで名前を呼び「ナイスプレー!」と声をかけていた。球場に響いた声を父はしっかりと耳にしていた。

大人になった息子たちへ託す思いは、常に感謝の気持ちを忘れず、体を大事にして、長く野球を続けて欲しいということだ。

「お互いに社会人野球にいますから、大きな大会で対戦してくれたら楽しいですね。練習試合ではあるかもしれないですが、大会でね。どこに座ろうかな……。真ん中か、こっそり外野席ですかね(笑)」

野球と向き合う親子の向き合い方は非常に難しい問題でもある。言葉は時として重要だが、関わり過ぎも禁物だ。大切なことは子に野球を嫌いにさせずに、自分で考えることができるように導くこと。そのように導くことができれば、子は自然と父の背中を見て、育っていくのかもしれない。ヤクルト黄金期のスター軍団を声とハートで支えた父のように……。

【写真】お父さんそっくり? アマチュア球界で躍動する度会博文さんの長男と次男

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(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)

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