独学でNPO法人を設立!子供も大人もつながるトカイナカを作る社会起業家 E-LINK 日向 洋喜さん【第2回】

北海道札幌市で、民間学童保育とフリースクールを経営するNPO法人 E-LINK代表理事の日向さんに起業エピソードをお伺いしている連載第2回。

第1回では、起業までのエピソードをお伺いしました。今回は「起業してから編」として、起業直後に失敗したことや、個人事業主から法人化するに至ったきっかけなどをお伺いしました。

(インタビュー/文:ロカプレ編集長 原くみこ)関連記事はこちら(全3回)
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独学でNPO法人を設立!子供も大人もつながるトカイナカを作る社会起業家 E-LINK 日向 洋喜さん【第2回】(この記事)
独学でNPO法人を設立!子供も大人もつながるトカイナカを作る社会起業家 E-LINK 日向 洋喜さん【第3回】

NPO法人 E-LINK 代表 日向洋喜(ひむかい ひろき)

1992年生まれ札幌育ち。北海道教育大学札幌校卒業。
2017年に札幌にてゲストハウス併設型学童保育「アドベンチャークラブ札幌」を開業。2019年9月フリースクール「LIKEPLUS」を開始し、2019年10月に NPO法人E-LINK設立。現在はゲストハウスから移転し、「こどもも大人も、なまらツナガル、トカイナカを作る」をミッションに、親子交流やお寺でのリアル寺子屋も運営するコミュニティ型学童保育として展開中。

ビジネスモデルをイチから考え直すことに

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原:**最初はゲストハウスの中で学童保育を行われていたということですが、どうやって収益をあげていたのでしょうか?

日向:一番最初は本当にどうやって稼ぐかを考えるのが大変でしたね。そもそもはゲストハウスを作りその運営で収益をあげるつもりでした。

原:なるほど、キャッシュポイントもそこで計画されていたということですものね。

日向:ゲストハウスの運営ではなく場所を借りて子供と関わることになり、やりたいことはできそうだけど、それは本当にお金になるの?というところ、生きていくためにはやっぱり考えなくてはなりません。かといってStaylink(WAYA・yuyuの運営会社)に雇用されるわけではなかったので。

原:ビジネスモデルを一から考え直す必要があったのですね。

日向:そうなんです。ゲストハウスの空気感を子供たちが体感しつつきちんとお金をいただける形として考えたのが、学童保育か塾。

原:たしかに放課後の子供たちの居場所として「塾」や「習いごと」の場という可能性も考えられますね。

日向:でも塾だと1時間くらい来て帰るぐらいですよね。それだと、ぼくが子供たちに提供したかった「体験」とか「交流」とかそんなにできませんよね。ゲストハウスという場も全然活かせない。一方、学童保育だと小学生の放課後預かりとして家の代わりとして過ごす場所にできる。休みの日だったら朝から晩までほぼ1日を過ごす子も多い。

そんな流れで自然と、自分のやりたいことでお金をいただけるベストな事業として学童保育の運営を開始しました。

ロカロウフリースクールは学校で授業をしている時間、学童保育はその後の時間、とちょうど良かったんだね。

原:ではいま法人としての収益源は学童保育などの利用者さんの月謝ですか?

日向:はい、基本的には学童保育とフリースクールの月謝と利用料が、法人の収益となっています。フリースクールに関しては今年から札幌市からの補助金も出ることになりました。

原:なるほど、公共性の高い事業だと活用できる補助金も色々とありそうですね。

日向:ですね、ただ学童保育のほうは一切補助がないので、すべて自己資金でまわしています。あとは去年から地域の保育園からのご依頼で「地域資源コーディネーター」という、保育園と人・街を繋げるという仕事もしています。この2つが事業の柱で、あとはぼくたちの活動を応援してくれる方たちに月500円からの月額サポーターとして支援していただく仕組みもあります。

原:そういった寄付の仕組みはNPO法人ならでは、ですね。

日向:あと他には、今年から2名のスタッフを正社員雇用することになりキャリアアップ助成金も活用しています。

原:助成金や補助金は、交付されるまで時間がかかるもの多いですが、その間に関してはどのようになさっていますか。

日向:はい、早くても一年後くらいの入金ということで、そのために今回初めて融資を受けました。

原:融資も活用されながら、助成金や補助金交付を見越して計画的に資金繰りをされているんですね。開業資金はどうされましたか?

日向:開業資金はかかっていないんです。0円起業ですね。ゲストハウスの場所を使わせていただくにあたって、家賃というかたちではなく事業収益の1-2割を場所代としてお支払いすることでやっていましたから。だから売り上げが0円だったら場所代も0円。それも本当にありがたかったですし、だからここまでやってこれたとも言えますね。場所代がかかりすぎていたらやっぱり続けるのはどうしても難しかったと思います。

原:収益がまだあがらないときの固定費をできるだけ低く抑える工夫をするというのは、起業初期に事業を継続させるひとつのポイントかもしれません。

日向:はい、でもこの話、他の方が真似しようと思っても難しいですよね(笑)

原:いやいや、日向さんの発想と自らの行動力によって得た人脈によってそのチャンスにつながったのだと思います。何もしないでその機会が転がっていたわけではないですよね。

開業1年目の収益はわずか5万円、その理由とは

原:ここからは集客についてのお話をお伺いしたいのですが、学童保育オープン時にはどのように集客されましたか。

日向:近隣の小学校や保育園にビラを配りに行ったりしましたね。あとはオープンの時だけは新聞社に情報提供をして、それで北海道新聞に載って、テレビ・ラジオでも紹介していただきました。

原:北海道で事業をされている方は、北海道新聞での掲載をきっかけに他のメディア掲載も連鎖する流れって多いですよね。北海道新聞への情報提供はご自身でプレスリリースを出したんですか?

日向:そこはゲストハウスのオーナーがサポートしてくれました。ぼくの個人事業ではありましたが、ゲストハウスの中で行うというのが事業の特色でもあったので、オーナーが知り合いの北海道新聞の記者さんに話をしてくれたのが紹介につながりました。

原:メディア露出が結構あったということで、順調に人は集まりましたか。

日向:それが最初の1年目は全くでした…。

原:あらら、何か考えられる原因はありましたか。

日向:今考えると開始する時期がまずかったですね…7月にオープンしたのですが。

原:7月!ちなみにわたしの子供も学童保育に通っているのですが、学童って子供が小学校に入学する年の4月1日から通い始めるものなので、早い人だと卒園前の12月くらいには「春から子供の放課後の預け先どうしよう」って調べ始めたりして、2月には申し込みしてましたね。

日向:そうなんですよ、当時はそんなこともわかってなかったので、いざ蓋を開けてみたら誰もこない。「2年後に小学生なんですけど」っていうお問い合わせがあったくらいで。

原:継続契約のお客様はなしで、スポットでの預かり保育だけ?

日向:そうです。夏休み全体で2人とか、経営者交流会などで知り合った方が子供を連れて遊びに来てくれるくらいでした。

ロカロウうーん、それはなかなか厳しい!

日向:だから1年目の収益としては5万円くらいでした。「いつ遊びに来てもいいよ」というスタイルで案内していたので、オープン後は当日になるまで子供が来るかわかりませんからバイトに出ることもできなくて。暇だし、まぁほぼニートですよね(笑)

原:実店舗を構えるタイプの事業だと、お客様が来ないと暇だけれど店を離れることはできない、という課題は常にありますよね。その空き時間にはどんなことをしていましたか。

日向:ずっとチラシ作り直したり、配る場所を見直してみたり、そういうのをコツコツとやってました。

原:ちなみにその期間の生活費はどのようにされていましたか。

日向:実家暮らしだったこともあり、なんとか貯金を切り崩して生活していました。でももう最後ギリギリ本当にお金がなくなってしまったので、午前中だけコールセンターの仕事をして、午後からは学童を開ける、ってやっていました。

原:事業が軌道に乗り始めたのはいつくらいからでしょうか。

日向:そうですねぇ、オープン翌年の2月くらいかな。その頃から急にお申し込みが増えて、民間の学童保育ということで札幌市のHPや冊子に載ったのを見てくれた方や、保育園などに置いたチラシを見て来年の4月から小学校に入るのでという方から連絡が来たり、月に1・2回行っていた親子向けイベントに参加した方などからちらほらと、「来年度から来たい」とお声がかかるようになりました。お申し込みいただいた方がさらに知り合いのお母さんを紹介してくださったりして。

原:ではオープン翌年の4月から、売り上げが安定した感じですね。

日向:はい、4月からは実家も出て、家賃25,000円の家でなんとか一人暮らしができるくらいの収益が出るようになりました。

原:オープンから9ヶ月くらいですか、そこまであきらめずに地道に続けるの、大変でしたね。

日向:ただ卒業してから1回もきちんと就職せずに事業を始めたので、給料が毎月きちんと入ってくるというような経験をしていなかったから、まぁそういうものかという感覚で、当時はお金の面ではそれほどキツいと思っていなかったんですよね。

あ、いまここから1年間売り上げゼロになってもくじけずに頑張れるかというと、難しいなと思います(笑)

ロカロウ若い時の苦労は買ってでもしよう、ってやつかな?## お客様ファーストを貫く経営スタイル

原:その後の集客は順調に?

日向:はい、いまはすでに来てる子や出身保育園の子たちの口コミで、来年・再来年の仮申し込みをいただくなどすぐに定員がいっぱいになってしまう状態です。2年くらいは営業も宣伝も一切していません。むしろいっぱいで新規の方をお断りせざるを得ないことも増えてきました。もうエリアに根付いた状態になったのかなと。

原:フリースクールの方もですか?

日向:フリースクールの方は学童保育とはまたちょっと事情が違って、あんまりガツガツと来いよ来いよ!って宣伝して来てもらう場所とはちょっと違いますよね。学校に行かない・行けない子たちの居場所としてやっているので、卒業もしくは学校行き始めたら来なくなるものですし。

あ、学校に行くことがゴールという訳でもないのですが。その子ひとりひとりで、来たいと思うタイミングや頻度なども全然違ったり、入れ替わりがあったりしますしね。

だから集客というよりは、ゆったりと「ここにあるよ」ってことをお伝えする活動をしている、という感じですね。

原:なるほど、宣伝ではなく広報的な。

日向:はい、それで興味をもっていただけたら来てもらう、という自然な流れでやっていますね。定員としてはあと3人くらい余裕ありますが、そんな感じでフリースクールのほうは人数にはあまりこだわらずに運営しています。

子供にも絶対に無理に来させたりはしません。入会金もありません。月単位での利用はもちろんできますが、ぼくたちとしてはまずは来た時だけ利用料を払うという単発での利用の方をおすすめしています。月謝制では週3回と毎日コースを用意していますが、最初にそれで契約してしまうと、ここに来ることが義務になっちゃうかなって。

原:たしかに「お金払ってるのに行かないのはもったいない」などと思ってしまいそうです。

日向:通ってみてどうなのかは子供も親もわからないし、「欠席になるから行かなきゃいけない」ってなってしまうのは一番健全ではありません。だから最初はまず、1回・2回、来てみたらどうですかって。

原:お子さんが来ることに慣れて「もっと来たい」となって初めて、月単位の契約という仕組みなのですね。

日向:もちろん本当はね、入会金をきちんといただいて、ちゃんと全員毎日来るようにってした方が運営はしやすいんですけどね。でも来てくれる子たちのことが一番なので、そういうやりかたをしています。

原:事業の目的である子供が無理せずに安心していられる場所をつくる、そのために顧客ファーストを徹底されているんですね。

事業が軌道に乗るまでの間、就職しようと思ったことは

原:事業が軌道に乗るまでの間、就職しようとは思いませんでしたか。

日向:いやあ、もちろん考えましたよ。特に、立ち上げのときに子供本当に集まらなかったっていうときに、他の子供に関わる職場に就職しようかなってちょっと思いましたけど、でもある事件があって、思いとどまりました。

原:その事件とは?!

日向:場所を使わせてもらうゲストハウスのオーナーたちから、始める前にひとつ条件が出されたんですよね。「やるだけのことやって、メディアにも出て、それでも人が集まらないってことは、自分の力不足か、そもそも需要がないってことだから、10人集まらなかったらやらないぞ」って。

ところがいざ、オープンまで2週間ってときに決まっていたお客さんは、たった1人。そんな状況の中で、ゲストハウスのメンバーと「さてどうする?」って話になりました。

そのときの僕は、プレッシャーと不安であまり前向きな行動もできていないという自覚があり、ちょっと弱気になっていたので、「オープンまでに目標の10人いかなければ、就職することも少し考えてます」と言ったんですね。

ロカロウ場所を使わせてもらえないとできないもんね。

日向:すると、ゲストハウスのメンバーの反応は「え?何で?」みたいな。

原:何で?ってそっちが言い出したのにー!って感じですよね。(笑)

日向:ですよね(笑)

そして、「まだ始まってないんだから、いま目標の人数が集まっていないからといって失敗でも何でもないと思うよ。でもいまのこの状況で『やめる』という選択を考えたってことは、本当にやりたかったんじゃないんじゃないの?」って言われたんです。

そのときに、自然と、ぼろくそに泣いてしまって。口から自然と出たのは「いや、違います、本当にやりたいんです!やらせてください!」と。

すると「それならやればいいじゃん。自分がやりたいんだよね?じゃあ、来てくれた1人のために、やったらいいんだよ。」って。

原:弱気になり揺れていた気持ちが、そこでぐっと前に向かって固まったんですね。

日向:そうですね。このタイミングでもしもひとりだったら、くじけていたかもしれません。だから、自分の気持ちを冷静に確かめることができたこの機会があったことに、すごく感謝しています。

ロカロウ挫折の経験を通じて、日向さんの本気が引き出されたってことだね。

日向:ゲストハウスのメンバーたちからは、いまだにこの時のことを馬鹿にされますけど(笑)

個人事業主から法人化したタイミング、そのきっかけは

原:個人事業主で始めてから2019年の10月にNPO法人設立ということで、NPO法人にしようと思われたきっかけを教えてください。

日向:街のイベントとかもやっていたし、地域の繋がりも増えてきた、そんな風に活動を広げていく中で、ゲストハウスに来る人たちと関わるだけじゃなくて、やっぱりもっと地域に根付いた存在になっていきたいと考え始めました。

「日向個人でやってます」ではなく、子供の団体として、子供のために社会と繋がるためにやってますっていうのを、もっとたくさんの人に知ってもらい、もっと地域の皆さんにも協力してもらえるかなと思った時、個人の名前よりは「NPO法人」になっていたほうがいいんじゃないかと。

原:法人化することで活動の幅をもっと広げられそうだ、というのが見えてきたのですね。

日向:札幌市からいろんなお話を聞いてみると、NPO法人になると市からも様々なサポートをしてもらえるといいますし、やっぱり一種の信頼を得られますよね。メンバーも今後増やしていきたいタイミングだったので、法人化を決めました。

原:法人化を考えたときに、株式会社など色々な形態がありますがその中で「NPO法人」を選択した際の決め手となった理由はありましたか?

日向:株式会社などと比較し、NPOだと資本金0円で設立できるということで、お金がかからずに法人登記できるという点が決め手でした。

原:他に考えた形はありますか。

日向:事業内容から、社団法人も少し考えましたが、NPO法人は設立する際に、関わるメンバー10人に入ってもらうことが必要なんです。この10人は有給雇用でなくても良く活動内容に賛同してくれる人でOKですが、立ち上げ当初から少なくとも10人の信頼する人たちが関わってくれる団体なんだって表明できることがすごいですよね。色々な人が関わっている組織です、って外からも見えることでさらに繋がりが広がりそうだなと思いました。

原:一般社団法人の場合は社員2名以上で設立可能ですが、NPO法人の場合は設立者10人以上が必要、という点が大きな違いですね。

日向:そうです。あとNPO法人は「社会課題を解決する法人」と言われています。僕らがいまやっている学童保育とフリースクールだけでは、直接影響を与えられるのはその顧客だけかもしれませんが、将来的にはもっとプラスアルファ…街や地域のことにも関わっていきたいと考えています。

原:例えばどんなことをイメージされてますか。

日向:今、家庭以外で大人と子供が関わる機会って減っています。でもそういった触れ合いが増えた地域って、今より絶対優しくなれると思うんです。子供のためだけじゃなく、大人にとっても子供から学ぶことは多いので良い機会になります。そんな風に社会のあり方を少しでも変えられたら、という想いもあります。そういった理由からNPO法人を選択しました。

原:株式会社などの法人化に関する情報はたくさんあると思うのですが、NPO法人の設立については情報が少ないイメージがあります。設立準備は、自力で行われたのですか。

日向:そうです、ネットとかで調べて、自力で。意外と簡単…ではなかったですけど(笑)

原:行政書士さんなどに頼まなくても、自力でできるものなんですね。

日向:とにかく行政の方たちが優しかったです。とりあえず様式とか見て出したら、修正箇所を丁寧に教えてくれて。真っ赤になって返って来て、全部で何回出し直したかはわからないほどで、本当にありがたかったです。面倒くさいことは多かったですが、難しいことではなかったなと思います。

原:では時間がある方なら、自分たちで設立準備をしてみるのも良いかもしれませんね。

日向:そう、僕はフリースクールを始めるまでは午前中空いている時間が結構あったので、その時間を使って提出書類を作成しました。これも当時だからできたって感じですね。

第3回は…ひとりからチームへ、組織化した際に苦労したこととは。

第3回では、ひとり会社から採用をし組織化していく中で大変だったことなどをお伺いしました。お楽しみに!

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