2022年4月より「データサイエンス学科」を新設! データの付加価値化からビジネスモデルの構築まで。様々な現場で求められるデータサイエンティストを養成

日本工業大学では、2022年4月に先進工学部に「データサイエンス学科」を新設する。これまでも学部・学科横断で「データサイエンスとAI入門」の必修化を決めるなど、データサイエンスを学ぶ環境整備を進めてきた。新設されるデータサインエンス学科では、数理統計やプログラミングなどの基礎技術からSociety 5.0 超スマート社会を支えるAI、IoTなどの最先端技術を学び、実践的な演習でシステム構築力とデータ分析力を磨くことで「社会課題の解決や新たな価値を創出できる人材の養成」を目指す。

データサイエンティストとしての「見る目」を養う

多くの大学でも、データサイエンスを冠した学部学科の新設が相次いでいるが、日本工業大学の「データサイエンス学科」が特に力を入れるのは、データの収集、前処理を行う上流工程から下流工程まで扱えるデータサイエンティストを育成する点にある。つまり情報工学+データサイエンスで、現場で求められるデータサイエンスのスキルを持った人材を育成する。

今や私たちの生活にデータやシステムは欠くことができないものとなっている。しかし、データと一口にいっても、収集された膨大な生データから、まず統計的に不要なデータを取り除く前処理を行い、適切な方法で統計的に分析して意味のある情報を取り出すことで、初めてデータに付加価値を与えることができる。このようにデータを付加価値化することは、とても重要なフェーズだ。

しかし、データサイエンスで、この上流工程まで学ぶ場はそう多くはない。では、日本工業大学では、なぜそれをやるのか?

例えば、多数を占めるデータの中にいくつか、それとは外れてしまうデータがあったとき、それが意味のある情報を提供してくれるのか、それとも単に何かのエラーで出てしまったノイズ的なものかを判断して、そのデータを取捨選択する力がデータサイエンスには重要だからだ。

さらにいえば、あるデータをAとBの二つの指標でデータを見たときには、統計学上外れていると思われる点も、もう一つCという別の指標を加えることで、実は別の分布にのっているということもある。こうした指標を加えられる力があれば、そこから新しい知見の発見やイノベーションにつながっていく。

先進工学部情報メディア工学科の辻村泰寛教授は、「データサイエンスに必要なのは、基本的には統計学を中心とする数学的な力と、データを『見る目』だ」と言う。今あるデータから別の視点でモノを見て新しい情報を取り出していくデータを『見る目』がとても重要で、簡単にできる修得できるものではないけれど、好奇心を持って、分析結果を批判的な視点で眺め、自分で調べ、確かめるという過程を積み重ねていくことが『見る目』を養い、教育としても重要だと話す。

もちろん、加工された状態のデータからも得られる情報はたくさんあるが、それでは、自分で新しい知見を発見する機会は損なわれてしまうかもしれない。

米国のグローバル企業がAIプラットフォーム市場の大半を占める中で、ビジネスモデル自体はそんなに目新しいものではなくても、その対象を拡大したり、規模を大きくしたり、さらに複雑化したりと、多次元に分析して価値を出せることがこれからは重要で、企業ニーズも高い。

いろいろな方法を使って、情報をキャッチアップし新しい機会を創出していくことがデータサイエンティストには求められている。

→プロジェクト型学習と実践で体系化し修得する

プロジェクト型学習と実践で体系化し修得する

しかし、上流工程といわれるデータ加工ももちろん下流工程を知らないと作ることはできない。日本工業大学では、サービス工学や経営情報といった顧客やユーザーにサービスを提供するシステム、つまりサービスの付加価値化をプロジェクト型学習(PBL)で学ぶ機会を用意している。

これまで情報メディア工学科では、NPO法人や地域の特別支援学校、行政などから依頼を受けてシステム開発を行うPBL実習科目を必修で実施してきたように、データサイエンス学科でも3年生で顧客のニーズに合わせて役立つ情報として加工し、ビジネスモデルまで構築する作業をPBLの中で体験する実習科目を必修で配置する。そうすることで上流から下流工程までを体系化して身につけていく流れだ。

また卒業研究では、実データを使い個人情報の扱いやさまざま法律的な規制を守りながらデータを扱っていくということを実際に体験する。現在、先進工学部でデータサイエンスとして研究されているテーマには、環境保全や津波発生時の避難経路誘導、介護、リハビリなどといった社会課題もある。このような場合、必ずしも問題解決のために十分なデータが得られるわけではない、ごく限られたデータしかとれないことも多い。

その場合は、介護やリハビリなどは研修を受けて直接現場に入ったりもする。これは不十分なデータから正しい状態を知り、役立つ情報を取り出すために必要な作業なのだ。世の中には、そういう分野がたくさんある。たまにしかおこらないこと、データは少なくても社会的に意義のあること、それをシステムに反映させるというのもデータサイエンスの大切な役割で、ビッグデータを扱うことだけがデータサイエンスというわけではない。

前身となる情報メディア工学科でデータサイエンスを学んだ学生の多くは、データを扱う企業やネットサービスの企業に就職しているが、メーカーからサービス業までと業種は多種多様だ。

データ加工も含めて、データサイエンスの技術を修得すれば、業種を問わずさまざまな企業で活躍すること、社会課題解決に取り組むことなど、将来の選択肢は広がる。

データサイエンティストが裏で動かないと世の中が回らなくなる、また彼らが提供する情報は新しい仕事を創出するというクリエイティブな側面も持っている。いろいろな社会課題が解決されたり、経済活動が活性化されたりしていくためにデータサイエンティストが果たす役割は今後ますます重要になることは間違いない。

日本工業大学 先進工学部 データサイエンス学科

辻村 泰寛 教授

一般社団法人日本技術者教育認定機構(JABEE)理事、関東工学教育協会監事、公益社団法人私立大学情報教育協会産学連携推進プロジェクト委員会委員、経営工学関連学会協議会会長

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