北陸新幹線延伸「集落存続に関わる」、京都の住民に不安

3月中旬でも所々に雪が残る南丹市美山町田歌地区。雪解け水がとうとうと流れる由良川を背に「京都府は本気で新幹線の問題に向き合ってほしい」と語る鞆岡元区長

 希少な動植物を育む「芦生の森」に近く、透き通った水を運ぶ由良川が流れる京都府南丹市美山町の田歌地区。人口約50人のうち約30人を移住者が占め、360年以上続く神事「田歌の神楽」を守り伝えている。住民は、地域に降ってわいた北陸新幹線の延伸計画がはらむ問題点を、京都府内でいち早く取り上げた。

 2019年12月、工事を担う鉄道建設・運輸施設整備支援機構(横浜市)が同町で開いた説明会に同地区の一部住民が出席したが、トンネル掘削などで出る膨大な残土の処分法や生態系への影響などに関する懸念は解消されなかった。

 ルート選定の理由や、長期工事が集落や観光に与える打撃など、いくつもの疑問が浮上。20年春に北陸新幹線問題対策委員会を立ち上げ、同年8月、機構による環境影響評価(アセスメント)の受け入れ見合わせを全戸一致で決めた。

 その後、府に質問を投げ掛けた。同町などに広がる京都丹波高原国定公園の静穏な環境を脅かす大規模工事の妥当性や、ヒ素などを含む恐れがある残土の処分の在り方をどう考えるのか-。いずれも住民としての素朴な問いだった。府は「(国や機構に)環境の保全について適切な対応を行うよう求めていく」と答えた。20年前に移住した鞆岡誠元区長(59)は「私たちにはゼロ回答。だが、行動を通じて広く府内に問題点を訴えられている面はある。体を張ってやってきた自負はある」と話す。

 今年3月の住民集会では移住者で元区長の長野宇規さん(51)が問題点を整理。美山町がルートになれば、移住を検討する人が遠ざかり「集落の存続に関わる」と危機感を募らせた。

 行動が周囲の関心を高める。同地区にほど近い、国の重要伝統的建造物群保存地区「かやぶきの里」の保全に取り組む「北村かやぶきの里保存会」は21年末、南丹市の西村良平市長に計画の白紙撤回を機構などに促すよう申し入れた。同保存会の中野忠樹会長(68)は「不安が払拭(ふっしょく)されない現状では、計画を受け入れるわけにはいかない」とする。

 府内の首長が延伸計画に懸念を示す場面も出てきた。「(新幹線は)できたら来てほしくない」。21年9月の南丹市議会で、延伸計画の是非を問われた西村市長は答えた。残土問題や由良川の汚染などへの不安をにじませた。

 今年3月の亀岡市議会では桂川孝裕市長が「残土も、環境先進都市として注意していく」と答弁した。同市に新駅を設けるルートを要望してきた経緯があり、延伸計画には賛成の立場から「亀岡市(を通るルート)は諦めたわけではない」とも述べた。

 与党や財界などは23年春の着工を求めているが、延伸計画を危惧(きぐ)する住民らは、府民の認知が広がっているか疑問符を付ける。田歌地区の鞆岡元区長は「公共事業は情報公開とセットでなされるべきだ。府が機構などに働きかけて情報を引き出し、府民に示してほしい」と強調。その上で「新幹線整備は京都の暮らしや文化に影響を及ぼす可能性がある。府には、水や自然、環境を守るため、住民の不安に寄り添って本気で新幹線問題に向き合ってほしい」と訴える。

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