【インタビュー】東京パラリンピックリポーター、美容家 三上大進さん【前編】


BOOKOUTジャーナルとは

知られざる想いを知る―。
いまいちばん会いたい人に、
いちばん聞きたいことを聞く、
ヒューマンインタビュー。


撮影/イマキイレカオリ
ヘアメイク/George
スタイリスト/FUKAMI
文/高木さおり(sand)

東京2020パラリンピックでNHKのリポーターを務め、チャーミングな人柄と真摯な語り口で人気となった三上大進さん。左手の先天性の障がいも、自身のセクシュアリティも、包み隠さず自然体で発信する姿が注目を集めています。
テレビのコメンテーターやスキンケアブランド「dr365」のプロデュースなど活躍の場を広げる三上さんに、前編・後編にわたってインタビュー。
前編では、三上さんの人物像が形作られるまでのストーリーをうかがいました。

幼い頃はどんなお子さんでしたか?

昔から「口から生まれたの?」なんて言われ続けてきましたが、母によると、まだ言葉を話せない幼少期から1人でずっと何かを喋っていたそうです。
おそらく根底にあるのは、左手の障がいの存在。幼いときは特に、なにかと「左手」で判断されて「かわいそうな子」だと捉えられることがコンプレックスでした。

なぜなら、私の主体は「左手」ではないから。障がいとは関係なくもっと私のことを知ってほしいし、相手のことも知りたい。その上で私を判断してほしいとずっと思ってきました。
……と、今なら整理して考えられますが、当時は幼心にそんな思いで躍起になっておしゃべりになったのかもしれないですね。

幼い頃から自分を積極的に表現しようと思われたのですね。

母の教育方針も大きかったと思います。普段から、あえて私にそこまで手助けをしなかったのです。なので、できないことは何でも自分で工夫してきました。
ですが思春期になった頃、自分には「足りない部分」があるから人より劣っていると感じるようになってしまいました。であれば自分は「人が持ってないもの」を積み重ねよう、この左手以外で常に100点を取り続けようと考えたのです。
大学の成績も、TOEICの点数も、就職先も……すべてを達成していけば、左手以外の「肩書き」が増えていく。そうやって自分を取り繕おうとしていた気がします。

それをすべて諦めずに成せたことも素晴らしいです。

そう見えるかもしれません。だけど、そのときはもう、それでしか自分のことを好きでいられなかったのです。

私は小学生の頃からハリーポッターが大好きで。なかでも完璧主義で成績優秀だけど、出っ歯と縮毛にコンプレックスがあるハーマイオニーに自分自身を重ねていました。
実は私、自分には絶対にホグワーツ魔法魔術学校から入学許可証の手紙が届くはず! と信じていたのです(笑)。それを母に言うと「向こうはオールイングリッシュだけど、あなた大丈夫?」って言われて「え! どうしよう(笑)!」と。急いで留学の資料を取り寄せて、中学生のときにイギリスに留学しました。

ちなみに我が家では、留学も志望大学も「お金を出すのは私達なので納得するようにプレゼンして」と両親に毎回言われてきました。少しでも矛盾があったら「筋道が通らないからやり直し」とか「納得できなかったので今回は無理です」と。
でも、逆に説得できたらお金がかかることでも頑張って達成させてくれて。この経験から、人を説得するには理由が必要で、その理由はまず自分自身が納得したものでないと成り立たないと知りました。この考え方は、その後のキャリアでも役に立っているので、今でも感謝しています。

現在の理路整然とした語り口にも表れていますね。卒業後はなぜ美容業界に就職を?

老若男女の日常に寄り添える「美容」の力ってすごい。そうずっと思ってきました。
これは、私自身も人生を通して感じてきたことです。左手以外で100点を、の精神で肌や髪を必死にケアしてきたからこそ、自信が持てないときも「大丈夫、私には綺麗な肌がある。綺麗な髪がある」と思うことができました。そのときは劣等感の裏返しであったとはいえ、それでも残りの部分を綺麗にしようとフォーカスすることで救われました。そうして私は美容を大好きになれたんです。

その後NHKのパラリンピックのリポーターという全くの異業種に転身されました。

最初は海外選手をサポートする言語ボランティアをやりたいと思って、オーディションを受けたらNHKからの返事は「リポーターとして採用したいです」と。

そこで人生を振り返ったとき、左手が理由で差別を受けたり、諦めたりしたことはたくさんありましたが、左手を理由に何かを突破できたことは一度もなかったと気づいたのです。
リポーターの仕事は左手の存在を自分で認めてあげられるチャンスかもしれない。ならば、挑戦してみよう。そんな思いでNHKに入りました。

リポーターの経験を通して三上さんの中で変化はありましたか?

自分と選手の障がいに向き合い続ける4年弱を過ごしてきたことで、「完璧じゃない自分こそが『完璧』なのだ」と、やっと思えるようになりました。こんな自分だからこそ出会えた個性、気づけた人の魅力がありました。そこでやっと障がいを、そしてありのままの自分を認めてあげることができたのだと思います。年齢を重ねるほどに生きやすくなって、人生がどんどん楽しくなっていると実感しています。

後編は、混沌とした現代で三上さんが伝えたいメッセージ、新たに立ち上げたスキンケアブランドなどについて伺います!

*後編はこちら

衣装協力:シャツ ¥17,600、パンツ ¥18,700(ともにCITY(シティ)/STUDIOUS カスタマーサポート 03-6712-5980)、アイウェア ¥39,930(Oliver Peoples(オリバーピープルズ)/ルックスオティカジャパン カスタマーサービス 0120-990-307)※すべて税込み

三上大進(みかみ だいしん)

大学卒業後、日本ロレアル株式会社、ロクシタンジャポン株式会社でマーケティングに従事。2018に日本放送協会入局。2018平昌、2020東京パラリンピックにてリポーターを務める。生まれつき左手の指が2本という、左上肢機能障がいを持つ。2021年11月には自身がプロデュースしたコスメブランド「dr365」をスタート。日々、インスタライブやYouTubeにて飾らない姿を配信しており、多くの人気を集めている。
Instagram @daaai_chan
Twitter @daishin_mikami
YouTube 『大ちゃんチャンネル

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