大阪と東京の高等裁判所で国に賠償命令 旧優生保護法訴訟・宮城県の原告女性の思い

障害がある人たちに不妊手術を強制していた、旧優生保護法を巡る裁判についてです。2月と3月に大阪高裁と東京高裁では、意見と認定し国に賠償を命じる判決が相次いで出されました。
今後の裁判の行方を大きく変える可能性のある判決。25年も前から被害を訴え続けている、宮城県内の女性の思いを取材しました。

仙台市に住む飯塚淳子(仮名・70代)さんです。16歳の時、旧優生保護法の下、軽度の知的障害を理由に、不妊手術を強制されました。国に損賠賠償を求めている原告の一人です。
手術から半世紀以上。今も苦しみを抱えて生きています。

被害を訴え続ける女性

飯塚淳子さん(仮名・70代)「みんな苦しい思いできているのに、国がやった問題なので、やっぱりきちんとしてほしいという思いが私たちはある。戦います。でも、それまで生きていられるかどうか」

障害者を淘汰しようとする「優生思想」に基づいて、1948年に制定された旧優生保護法。国が知的障害がある人などに不妊手術を強制する根拠となっていた法律です。
不妊手術を強制された人は、1996年に改正されるまでの間、全国で約2万5000人、宮城県内では全国で2番目に多い約1400人に上っています。

宮城県の女性が全国初の提訴

この法律を巡っては、2018年1月に県内の60代の女性が全国で初めて提訴。これをきっかけに、これまでに宮城や北海道など8都道府県の25人が提訴しています。

しかし、原告たちの前に立ちはだかったのが、不法行為が行われて20年で、損害賠償を請求する権利が消滅するという民法の除斥期間という規定です。これまでに一審判決が出された裁判は6件。いずれも損害賠償を請求できる期間を過ぎているとして、全て棄却されています。
飯塚淳子さん(仮名・70代)「本日の判決は、損害賠償請求を認めない不当判決でした。国の責任が認められないのは納得できません」

その流れが変わったのが2月。大阪高裁が「除斥を認めることは著しく正義・公正に反する」として、一連の裁判で初めて国に賠償を命じたのです。
全国被害弁護団の共同代表を務める仙台弁護士会の新里宏二弁護士は、この判決をこのように評価しています。

大阪高裁が国に賠償を命じる

全国優生保護法被害弁護団共同代表新里宏二弁護士「違憲な法律による極めてひどい人権侵害に対して、時の壁で救済を拒んで良いのだろうかという、そういう価値判断が高裁の裁判所の中にあってそれで論理をうまく作ってくれた」
国に賠償を命じる判決は3月、東京高裁でも。

弁護団や支援者たちは、国に対し、上告しないよう求めるおよそ6600人分の署名を提出しました。
署名は、旧優生保護法の被害者を支援したいと活動している、仙台の大学生が中心となって集めたものです。
署名を集めた大学生池沢美月さん「今度こそ優生保護法裁判、東京高裁判決に上告しないでください。上告しないこと。被害者に対して謝罪を補償をすること。これを私たちは求めます」
しかし国は、大阪高裁に続いて東京高裁の判決でも「不服がある」として上告。最高裁に判断を委ねました。

提訴から4年。飯塚さんの裁判は仙台高裁で続いています。この日は、飯塚さんら原告や支援者らによる集会が開かれました。
法律の改正直後から、25年以上にわたって手術の被害を訴え続けてきた飯塚さん。
飯塚淳子さん(仮名・70代)「私を含め被害者はみんな高齢化しており、死亡する方も出ています。皆さまと共に一刻も早い対応を要請していきたいと思います」

支援の輪が広がる

最初は耳を傾けてくれる人はほとんどいませんでした。今では、支援の輪は広がりを見せています。
飯塚さんの裁判は、2022年中にも判決が出される可能性があります。弁護団の新里弁護士は、大阪と東京の高裁の判決は、各地の裁判に影響を与えると考えています。
全国優生保護法被害弁護団共同代表新里宏二弁護士「基本的には影響すると思う。特に、東京と大阪の高裁の判断は非常に高裁の中でも重い。裁判所に対して、事実と向き合わなくては駄目だというメッセージにつながったと思う」
飯塚淳子さん(仮名・70代)「大阪と東京が良い判決が出たから、私らの裁判も引き続いて良い判決であってほしいな。確かに上告はされてますが、上告を止めて良い方向に他の人たちも向いてもらいたいと思う」

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