すばる望遠鏡が原始惑星を直接撮像! 惑星形成の理解が進むことに期待

【▲ すばる望遠鏡が撮影した「ぎょしゃ座AB星」周辺の赤外線画像。中央に位置する「ぎょしゃ座AB星」からの光はステラーコロナグラフを使って遮られている(Credit: T. Currie/Subaru Telescope)】

こちらは「ぎょしゃ座」の方向約520光年先にある「ぎょしゃ座AB星(AB Aurigae)」周辺の赤外線画像です。撮影には国立天文台ハワイ観測所の「すばる望遠鏡」が用いられました。中央に位置する「ぎょしゃ座AB星」そのものの光は遮られていて、その周囲に広がる塵やガスでできた「原始惑星系円盤」が捉えられています。

国立天文台ハワイ観測所のセイン・キュリー(Thayne Currie)博士を筆頭とする研究グループは、すばる望遠鏡を使って今まさに成長しつつある原始惑星の直接撮像に成功したとする研究成果を発表しました。この原始惑星は「ぎょしゃ座AB星b(AB Aurigae b)」と呼ばれていて、冒頭の画像では中央下側のひときわ明るい部分に位置しています。

発表によれば、原始惑星が撮像によって発見されたのは史上初とされています。「ぎょしゃ座AB星b」は太陽系の惑星とは異なるプロセスで形成された可能性があるといい、今回の発見は惑星形成に関する理論に重要な知見をもたらすと受け止められています。

■今も成長中の原始惑星を若い星の原始惑星系円盤で発見

【▲ 冒頭の画像に「ぎょしゃ座AB星b」の位置や同スケールの海王星公転軌道(半径約30天文単位)などの注釈を加えた図(Credit: T. Currie/Subaru Telescope)】

「ぎょしゃ座AB星」は誕生からまだ200万年程度しか経っていないとされる若い星で、これまでにもすばる望遠鏡やヨーロッパ南天天文台(ESO)の「超大型望遠鏡(VLT)」などによって原始惑星系円盤が観測されてきました。

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人類はすでに5000個以上の太陽系外惑星を発見していますが、そのなかには親星のすぐ近くを公転する巨大ガス惑星「ホットジュピター」のように、太陽系の8惑星とは性質が大きく異なるものも数多く含まれています。

惑星形成の現場だと考えられている原始惑星系円盤を観測することは、このように様々な性質を持つ惑星がどのようにして形成され進化してきたのか、そして地球のように生命を宿す惑星が誕生する条件は何かといった謎に迫ることにつながります。

研究グループは今回、すばる望遠鏡の「SCExAO(スケックスエーオー)」および「CHARIS(カリス)」と呼ばれる観測装置(※)を用いて「ぎょしゃ座AB星」を観測しました。その結果、親星から約93天文単位(太陽から地球までの距離の約93倍)離れたところを公転する原始惑星「ぎょしゃ座AB星b」を発見するに至ったのです。

※…SCExAO:大気のゆらぎによる影響を打ち消す補償光学を利用して得られた像をさらに改善し、惑星からの光を保ちつつ親星からの光だけを遮ることができるコロナグラフ超補償光学系。CHARIS:惑星の詳しい情報(大気の温度・圧力・化学組成など)を得ることができる近赤外線撮像分光器。

【▲ ハッブル宇宙望遠鏡の「近赤外カメラ・多天体分光器(NICMOS)」と「宇宙望遠鏡撮像分光器(STIS)」を使って2007年と2021年に撮影された「ぎょしゃ座AB星」(Credit: Science: NASA, ESA, Thayne Currie (Subaru Telescope, Eureka Scientific Inc.); Image Processing: Thayne Currie (Subaru Telescope, Eureka Scientific Inc.), Alyssa Pagan (STScI))】

この原始惑星の存在は「ハッブル」宇宙望遠鏡を用いた観測でも確認されました。「ぎょしゃ座AB星」はハッブルの「近赤外カメラ・多天体分光器(NICMOS)」を使って2007年にも撮影されています。NASAによると、2021年にハッブルの「宇宙望遠鏡撮像分光器(STIS)」を使って取得された画像は、原始惑星が時間の経過とともに反時計回りに移動している様子を示しているといいます。

発表によると、推定される「ぎょしゃ座AB星b」の質量は木星の約4倍(国立天文台など)または約9倍(アメリカ航空宇宙局など)とされています。ただ、すばる望遠鏡の可視光偏光装置「VAMPIRES」を用いた観測では多量の水素ガスが降り積もっていることが示されたといい、「ぎょしゃ座AB星b」はまだ成長途中の段階にあるとみられています。

また、「ぎょしゃ座AB星」の原始惑星系円盤では隙間(ギャップ)や渦巻状の構造が過去の観測で見つかっていますが、こうした円盤の構造が惑星の影響によるものであることも実証されたといいます。

■ぎょしゃ座AB星bは“円盤自己重力不安定モデル”の証拠となるか

【▲ 原始惑星「ぎょしゃ座AB星b」の想像図(Credit: NASA, ESA, Joseph Olmsted (STScI))】

今回の発見は、惑星の形成に関する理解をよりいっそう深めることになりそうです。形成期の太陽系では原始惑星系円盤のなかで塵が集まって微惑星に成長し、微惑星が集まることで形成された岩石質の原始惑星がコア(核)となり、円盤のガスを急速に取り込むことで木星や土星のような巨大ガス惑星が形成されたと考えられています。このプロセスは「コア集積モデル」と呼ばれていて、標準的な惑星形成のモデルとされています。

ところが、「ぎょしゃ座AB星b」のように親星から遠く離れた場所では岩石質のコアが形成されるとは予想されておらず、仮にコア集積モデルで惑星が形成されるとしても非常に長い時間がかかるはずだといいます。また、惑星は形成後に外側や内側へ移動することもあるとされていますが、今回の「ぎょしゃ座AB星b」の発見は、惑星の移動が起こるような段階よりも前に巨大な原始惑星が形成され得ることを示しているといいます。こうした点を踏まえて、研究グループは「ぎょしゃ座AB星b」が別のプロセスで形成されたのではないかと考えています。

前述のように、コア集積モデルでは原始惑星系円盤の中で塵が少しずつ集まって惑星に成長していくと考えられていますが、これに対して、原始惑星系円盤の一部が自身の重力で分裂・収縮して比較的速やかに惑星が形成されるという別のプロセスも提唱されています。これは「円盤自己重力不安定モデル」等と呼ばれています。研究者たちは円盤自己重力不安定モデルの証拠を得ようと観測を続けてきましたが、今回ついにその強力な証拠が直接撮像によって得られた可能性があるのです。

当初は「ぎょしゃ座AB星b」の存在について非常に懐疑的だったというキュリーさんは、「ぎょしゃ座AB星bは太陽系の木星型惑星とは異なる惑星系形成モデルの証拠となります」と語っています。今後の「ぎょしゃ座AB星b」の観測や、同じような原始惑星の新たな発見を通して、惑星形成の“多様性”が明らかになっていくかもしれません。

関連:「太陽系外原始惑星同士の衝突」により剥ぎ取られた大気の痕跡を発見

Source

  • Image Credit: T. Currie/Subaru Telescope; NASA, ESA, Joseph Olmsted (STScI)
  • 国立天文台ハワイ観測所 \- すばる望遠鏡が捉えた、生まれつつある惑星
  • NASA \- Hubble Finds a Planet Forming in an Unconventional Way
  • Curie et al. \- Images of embedded Jovian planet formation at a wide separation around AB Aurigae

文/松村武宏

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