「こども庁」論議に欠落している「教育の論理」|高橋史朗 「こども庁」創設、「こども基本法」制定の根拠とされている国連の子どもの権利委員会の対日勧告は左派団体の一方的な主張が対日勧告に色濃く反映されている。

自民党の「こども・若者」輝く未来創造本部が「こども庁」創設と「こどもまんなか基本法(仮称)」制定に向けて準備を進めている。近く有識者会議が発足し、年内にも取りまとめが行われ、同庁設置法案を含む関連法案が来年の通常国会に提出される見通しである。これまであまり議論されなかった問題点を指摘したい。

「家庭」軽視は不当

第一は「こども庁」という名称である。山田太郎参院議員(自民)の公式サイトによれば、当初案は「子ども家庭庁」であったが、「家庭」を削除したのは、被虐待経験のある勉強会講師から、家庭で虐待された子供は「家庭」という言葉で傷つくので名称を変えるべきだという指摘があったためだという。子供の人格形成に重要な役割を果たす「家庭」をこのような不当な理由で削除するのは不見識である。「こども庁」という名称の再考が必要である。

第二に、子供の自律権を全面的に認めると、子供の「保護を受ける権利」や親の権威、家族の権利を侵害するとして、子供の権利条約を批准していない米国や、批准に際して子供の「保護を受ける権利」に留保した旧西独の論点も参考にする必要がある。

第三に、世界人権宣言の解説をしたフランスの心理学者ジャン・ピアジェは、子供の発達段階は教育的指導を受ける「他律」から「自律」へと進むが、発達段階に応じて教育的配慮を加え、「子供の精神的機能の全面的発達と道徳的価値の獲得を保証する」ことが人権の尊重および「人格の完全な発展」をもたらすと指摘している。

近年の小学校における暴力件数の急増に伴い、教師による懲戒を含む組織的指導は必要不可欠である。子供の発達段階に適合する仕方で教育的配慮を加え、子供の発達段階に応じて他律から自律へと導くという「教育の論理」を踏まえる必要があり、子供の「人権」尊重と「人格」の育成をセットで議論する必要がある。

第四に、「こども庁」創設、「こども基本法」制定の根拠とされている国連の子どもの権利委員会の対日勧告は、日本の左派NGOから提出されたレポートに基づいて予備審査が非公開で行われ、日本政府に対する質問票が作成され、日本政府の回答を踏まえて、同NGOが追加情報を同委員会に提出し、本審査が行われるというプロセスを経たものである。つまり左派団体の一方的な主張が対日勧告に色濃く反映されている。左派団体が国連勧告を利用して日本政府に圧力をかけてきた慰安婦問題等と構造が類似している。

人格育成こそ子供の利益

何が子供の「最善の利益」になるかについては深い洞察が必要である。目先の利益を否定し、自己を管理できる「人格」を育てることが「最善の利益」に繋がることを忘れてはならない。日教組に事務局を置く「子どもの人権連」、部落解放同盟を中核とする「反差別国際運動」、さらに「子どもの権利条約NGOレポート連絡会議」が30年以上国連詣でをして積み重ねてきた議論の問題点を踏まえて、有識者会議の冷静でバランスの取れた議論を期待したい。( 2021.09.27国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)

高橋史朗

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