在宅勤務で新たな課題 新入社員が陥りやすい心身の健康リスクとは?

新型コロナウイルスの影響で、私たちの仕事・私生活が大きく変化し丸2年が経過しました。
コロナ禍前後で大きく変わったうちのひとつが、「働く場所」が柔軟になった企業が増えたことです。
総務省の「令和2年通信利用動向調査」(2020年8月末調査)によると、在宅勤務を導入している企業は、2018年で19.1%でしたが、2020年には47.5%と急増し、約半数の企業が導入しているという結果になりました。
また、新型コロナウイルス流行最初期は、完全在宅勤務の企業も多かったものの、現在は、出社と在宅勤務をあわせたハイブリット型を採用している企業が増えているようです。

仕事に慣れている従業員にとっては、働く場所の選択肢が広がることはメリットですが、コロナ禍真っ只中で新入社員となった世代にとっては課題も多いと感じます。
今回は「新入社員」が在宅勤務を行っていくなかでの健康リスクとその対処方法について解説していきます。

① 在宅勤務のメリット・デメリットは?

在宅勤務導入の最も多い理由が、「非常時(感染症の流行など)の事業継続」(「令和2年通信利用動向調査」より)です。
やはり企業側が在宅勤務を推進するきっかけに新型コロナウイルスが大きく関わっていることがわかります。
感染症予防対策として始まった在宅勤務ですが、メリット・デメリット両方あり、主として以下が挙げられます。

<メリット>
・ 通勤や移動時間を削減できる
・ プライベートの時間が増える
・ 業務効率が高まり、オフィスで仕事をするより集中できる
・ 働く場所の選択肢が増えることで働きやすくなる
・ 職場の人間関係の煩わしさを回避できる
・ 介護・育児と仕事の両立がしやすくなる
<デメリット>
・ 運動不足
・ 間食が増える、つい食べ過ぎてしまう
・ 社内コミュニケーションが減る
・ 仕事のオンオフが切り替えにくい
・ 通信光熱費が増える
・ チームや同僚、部下の仕事の進捗把握がしにくい
・ 紙ベースの仕事ができない

在宅勤務を有効に活用できる人は、メリットを多く感じられますが、一方で「仕事をする」ということすら初めての新入社員にとっては、メリットよりもデメリットばかりを感じてしまう人も多いのではないでしょうか。
デメリットのなかでも特に「コミュニケーション不足、運動不足、食べ過ぎ」は、心身の健康に大きな影響を与える可能性があります。

② 新入社員の在宅勤務による健康リスク

株式会社マイナビの「2020新入社員の意識調査」によると、「在宅勤務に対する不安や悩み」には、直接のやり取りができないことによる不安や悩みが著明に出ています。また、オンオフの切り替え、時間管理の難しさや仕事の進め方に悩むことも多いようです。

新入社員にとって在宅勤務に対する不安や悩みは、身体面よりもメンタル面に直結するものが圧倒的に多いのが特徴です。
私は産業保健師として従業員の面談をお受けしていますが、コロナ禍が始まってすぐの時に、新入社員から相談メールや面談希望をいただくなかで圧倒的に多かった悩みは、コミュニケーションに関するものでした。

<新入社員から受けた相談(一部)>
・ 在宅勤務中にわからないことをすぐに聞ける環境ではなく、質問したい時に上司や先輩が忙しいかどうか判断できず、悩んでしまった
・ いざ出社した時に聞こうと思っても、忙しそうにしていると声がかけにくい
・ 相談の仕方も正直わからない
・ 同期ともなかなか会う機会が少なく寂しい など

仕事の進め方がすでに確立している上司や先輩からみると、上記のような悩みや不安は少ないかもしれません。
しかし、「コロナ禍に新入社員として初めて仕事をする」という、今までにない大きな変化に必死についていきながら、仕事を進めていくのは悩みや不安がより起きやすくなります。

上記のような悩みを放置してしまうと、メンタル面の不調を訴える新入社員が増加、離職や定着率が悪化するという生産性に影響するリスクが高まります。
メンタル面の変化は潜在化しやすく、周りが気づきにくい場合も少なくないため、日ごろからフォローする体制を整えておくことが重要です。

③ 会社としての対策は?

不安を抱えながら在宅勤務に取り組む新入社員に対して、会社や上司ができる対策を大きく3つにわけて紹介します。

(1)コミュニケーションにメリハリをつけつつ、積極的に支援をする

私は産業保健師と言う職業柄、メンタル不調の方と話す機会が多く、面談後に「聞いてもらってすっきりした」「自分の頭の中を整理できた」などという言葉をもらいます。
この言葉は、問題は解決していないものの、「心のガス抜きができた」ことが感じられる言葉だと考えています。
最も重要なのは、「部下を理解するため、信頼関係を築くために話を聞く時間をつくること」です。
企業によってどの程度時間を割けるかにもよりますが、定期的に実施することが大切なので、月間の予定に組み込むなどして、部下に向き合う時間を作りましょう。

私自身も面談で特別なことはしていません。つい自分の意見や価値観で相手のことを見てしまいがちですが、自分の意見を押し付けないように、自分の価値観だけで物事を推し量らないように、相手の話を聞くという姿勢を大切にしましょう。

(2)在宅勤務時の連絡について決めておく

在宅勤務のデメリットにもあげたように、仕事とプライベートのオンオフの切り替えが難しい人も多いようです。また、在宅勤務は仕事の進捗状況がわかりにくくなる傾向にあり、心情もメールやチャットの文面だけだと伝わりにくいこともあります。
それらの対策としては、以下があります。

<メールやチャットで連絡し合う際の対策例>
・ 部下から上司に始業と就業時にメールで一報する
・ 連絡する時間帯を決める
・ 心情が伝わりにくい状況をカバーするために、部署内でのみ文面をカジュアルにする、絵文字などの気持ちがわかりやすくなるものを使用する

簡単なルールを作っておくと、全社員にも周知させやすく、コミュニケーションの量や質を維持できます。

(3)部下の様子を「みて」そして「つなぐ」

メンタル面の変化は潜在化しやすいですが、日々部下の様子を観察することで、得られる情報もあります。
上司としていつも見守っていることを態度で伝えることも重要です。

職場でみられるメンタル不調のサインのうち、主なものは以下です。

<メンタル不調のサイン>
・遅刻や早退、休むことが増える
・ミスが増える、仕事の進め方が遅くなる
・服装や身だしなみが乱れる
・感情の起伏が激しくなる
・顔色や声色が変化する

部下を「みて」、ちょっとした変化や違和感に気づくことができるようにしましょう。
日々の観察やコミュニケーションを通して、体調不良が続いていて心配な部下がいる場合は、産業医や保健師などの専門職に「つなぐ」ことも上司の大きな役割になるので、適宜情報共有する体制をとりましょう。

コロナ禍になり、これまで以上にコミュニケーションの重要性が高まっていると感じます。デメリットに焦点をあてて説明しましたが、新たな働き方に適応した組織を作る機会になると前向きにとらえ、社内全体で対策作りに取り組んでいきましょう。

<参考>
総務省「令和2年通信利用動向調査(PDF)」
株式会社マイナビ「2020新入社員の意識調査」

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