2020年は日本の「フードテック」元年 :「食 × テクノロジー」で得られる効果を解説

みなさんは「食の進化」について考えることがありますか?

フェムテックフィンテックシビックテックなど「~テック」について解説する記事はデータのじかんでもたびたび登場していますが、今回取り上げたいのは食べ物に関するテック、つまりフードテックです。

テクノロジーで「食」のあり方を進化させるフードテックでできることや2020年がフードテック元年といわれる日本の現状などについてまとめて解説いたします!

INDEX

2020年の日本は「フードテック」革命前夜

フードテックとはその名の通り「食×テクノロジー」で、食糧不足、環境問題、高齢社会における健康維持などさまざまな問題解決を図る取り組みです。その投資額は2014年ごろから急増し続けており、2018年には世界で2兆円規模に達しています。

引用元:農林水産省フードテック研究会中間とりまとめ┃農林水産省 フードテック研究会参加者一同

そんな中で日本の投資額は海外に比べてあまりに小さい(投資額はアメリカの1%程度:97億円)ことが農林水産省フードテック研究会により2020年7月に発表された資料で指摘されています。同時期にフードテックを国内向けに紹介する『フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義』(以下、『フードテック革命』)が発売されました。同書の序章のタイトルは「フードテック革命に『日本不在』という現実」です。

ここから以下の2つの状況が推察されます。

・日本はフードテック分野において世界に後れを取っている

・その点について危機感を覚える声が大きくなり始めている

以上から、2020年はフードテックへの取り組みが本格的に始まった年だといえます。21年からその活動はより加速するでしょう。だからこそ、今のうちに「フードテックとは何ぞや」という初歩を修めておくことをおすすめします。

食のあらゆる場面に現れるフードテックの可能性

さて、ここからは「フードテックではどのようなことが出来るのか」について詳しく見ていきましょう。生み出す、調理する、献立を考えるなど食にまつわる行為ごとにその概要を具体的な例とともにご紹介します!

生み出す


培養肉や昆虫食などこれまでになかった食物を生み出す・一般化するのがフードテックのひとつの役割です。新たな食物を生み出すことで、2050年には97億人、2100年には112億人に達するといわれる世界の人口増に伴う食糧不足に対抗します。また、牛のゲップ由来のCO2排出といった畜産環境問題の低減やより美味・健康的な食材の発明、ヴィーガンの選択肢の増加などの効果も見込まれています。

【例】

・大豆ミート:植物肉の中では最もポピュラー。ハンバーガー・喫茶チェーンなどですでに導入が進む

コオロギせんべい:無印良品から発売され、話題を呼んだ

調理する


調理法によって大きく食の可能性を広げ、食材の見た目を保ったまま咀嚼・嚥下能力の衰えた方でも食べやすいようにしたり、3Dフードプリンターでマグロの握りずしやかぼちゃの煮物などさまざまな食材を再現したりします。

また、調理を補助・代行してくれるテクノロジーも勃興しており、IoTにより料理の焦げ付きを防いだり、個人の状態に合わせた料理を自動調理したりすることが可能になります。

【例】

デリソフター:料理の見た目を保ったまま柔らかく変化させる調理器具

ヘスタンキュー:レシピアプリと連動し、センサーで計測した温度と照らし合わせて加熱時間を調整するクッキングシステム

献立を考える


テクノロジーによってさまざまな分野で進むパーソナライゼーションはフードテックの世界でも進んでいます。その人のアレルギーや健康目標、嗜好に合わせて最適な献立を提案する取り組みはすでに実現しています。個人の体質や好みだけでなく、「人とのつながりを感じたい」「家族を喜ばせたい」といった食事が心に及ぼす影響にも注目が集まり、開発が進められています。

【例】

このみるきっちん:個人の“食意識”を6つの質問で分析するニチレイの献立提案AI

Lify Wellness:気分や体調に合わせてブレンド茶が抽出されるお茶メーカー

ふるまう


おいしい料理を提供する方法をロボットやアプリの力でアップデートする取り組み。ロボットが給仕や配膳・レジ業務を代行するテクノロジーは、新型コロナウイルス流行の影響によりかつてない注目を集めています。同様にコロナ禍で加速したデリバリーサービスを支えるシステムや、提供商品の幅を大きく広げた進化版自動販売機などもこの分野に該当するフードテックといえるでしょう。

【例】

OriHime:人間がリモートで操作しコミュニケーションがとれる分身ロボット。モスバーガーで実験導入された

クックパッドマート:アプリで注文した食材が出荷当日に配送され指定のロッカーで受け取れる非対面小売りシステム

Food for Well-being

前述の『フードテック革命』で忘れてはならないものとして強調されていたのが「Food for Well-being(幸福のための食)」という考え方です。

フードテックにより、より便利に食をアップデートした結果、かえって楽しみが失われてしまう可能性は大いに存在します。

例えば米国で「水と混ぜるだけでつくれるホットケーキミックス」を売り出したところ全く売上が伸びず、「卵と水を混ぜるもの」に変更したところ改善されたという逸話があります。これの背景には、自分のつくったものに価値を見出すイケア効果や手抜き料理だと思われるのではないかという懸念があると言われています。

「食」は生きるための営為であるとともに人生の楽しみでもあり、単純に効率化するだけでは本質的な“幸福”につながりません。また、幸福の形には食文化や個人の嗜好ごとに違いがあり、自宅で料理をする理由について調査したところ、日本では「食費を抑えるため」という回答が突出して多かったのに対し、アメリカやイタリアでは「家族とコミュニケーションを取れるため」「料理自体に関心があり、知識を身に着けられるため」といった回答が経済的メリットと並んでたくさん見られたそうです。

テクノロジーを単純に活用するだけでは真の目的は達成されず、目的に立ち返って人間が判断することが重要だというのはフードテック以外の分野にも通じるでしょう。そのための強い味方としてデータを活用していきたいですね。

終わりに

食のあらゆる分野に革命をもたらすフードテックについてご紹介しました。

前述の通り日本は他国にフードテックに関して差をつけられている状況です。しかし、世界に先駆けて高齢社会に突入し課題先進国といわれるこの国においてフードテックのもたらす効果は他国以上のはず。

食へのこだわりが強いといわれる国民性をフードテックに向け、この分野においても先進国の仲間入りを果たしたいですね!

【参考資料】
・『<a href="https://cuisine-kingdom.com/magazine-202012/" rel="noopener noreferrer" target="_blank">料理王国 2020年12月号 みんなのフードテック</a>』
・田中宏隆 (著), 岡田亜希子 (著), 瀬川明秀 (著), 外村 仁 (監修)『<a href="https://www.amazon.co.jp/dp/B08DFXTMLB/ref=dp-kindle-redirect?_encoding=UTF8&btkr=1" rel="noopener noreferrer" target="_blank">フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義</a>』日経BP、2020
・<a href="https://newswitch.jp/p/24826" rel="noopener noreferrer" target="_blank">日清×東大も培養肉で参入!「フードテック」の進化が止まらない</a>┃ニュースイッチ
・<a href="https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/15/080600214/" rel="noopener noreferrer" target="_blank">2100年の世界人口は112億人、国連予測</a>┃NATIONAL GEOGRAPHIC
・<a href="https://www.maff.go.jp/j/kanbo/foodtech/foodtech_kenkyukai_torimatome.pdf" rel="noopener noreferrer" target="_blank">農林水産省フードテック研究会中間とりまとめ</a>┃農林水産省 フードテック研究会参加者一同

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