インディカー初オーバルで実力を見せたNASCAR王者ジョンソン「テキサスでのすべてのラップがインディ500で役に立つ」

 NASCARのストックカーシリーズ最高峰で”キング”・リチャード・ペティに並ぶ史上最多の7回もチャンピオンとなったジミー・ジョンソンが昨シーズンからNTTインディカー・シリーズに参戦を始めた。

“オープンホイールのオーバルレースは危険過ぎる”という奥方の強い反対に合い、彼はストリートとロードコースだけに出走した。カリフォルニア生まれのジョンソンは、オフロードでキャリアをスタートさせてインディカーまで上り詰めたメアーズ兄弟(弟のリックはインディ500で史上最多タイの4勝)に憧れ、彼らと同じルートを辿ってレースの世界に入った。

 ジョンソンにオープンホイールへの道は開かれなかったが、代わりに手に入れたストックカーでの大きなチャンスを見事に活かし、NASCARの歴史に名を残すドライバーとなった。

 2020年でストックカーを引退することになったジョンソンは、子供時代からの憧れだったインディーカーへの挑戦を行うことを決め、大型スポンサーも発掘してシリーズ・トップのチームであるチップ・ガナッシ・レーシング入りを果たした。

 ガナッシからの出場ということはシリーズトップレベルのマシンで戦えるという意味だが、オープンホイールでのレースは45歳にして生まれて初めて。

 テスト日数が大幅に制限され、各レースウイークエンドのプラクティス時間も短い現代のインディカーということもあって、ジョンソンはマシンのパフォーマンスをフルに引き出すことができなかった。ストリート及びロードコース戦に出場してのベストリザルトは2回の17位。予選は21位が最上位だった。

インディカーは2020年からF1のHALOよりさらにドライバー保護能力の高いエアロスクリーを全レースで装着することとなった。2021年からインディカーに参戦し、安全性の大幅向上を間近で確認することができたジョンソンは家族を説得し、2022年にはオーバルでも戦うフルシーズン参戦を行うことになった。

 インディカーでの初オーバル走行はストックカーで走り慣れたテキサス・モータースピードウェイで行った。そしてシーズン終了後にはインディ500の舞台であるインディアナポリス・モータースピードウェイも走り、次第にスピードを上げていくインディ500用のルーキーオリエンテーションプログラム(いわゆるルーキーテスト)も完了させた。
 

インディアナポリス・モータースピードウェイでテストを行うジミー・ジョンソン

 
 2月、ジョンソンのインディカーでの2シーズン目がスタート。その2戦目が初のオーバルレースとなった。場所はテストで一度走っているテキサス。ここでの予選でジョンソンは18番手といきなり自己ベストを更新してみせた。

 セント・ピーターズバーグのストリートで行われた開幕戦では予選が最下位の26番手で決勝もトップから1周遅れの23位と前年とほぼ変わらないパフォーマンスしか見せることができていなかった。ストックカーとはまったくキャラクターの違うインディカーだが、オーバルでの豊富な経験は通用したということのようだ。

 レースでのジョンソンは予選以上の戦いぶりを見せた。この辺りはさすがにベテランらしく、アプローチが非常に良かった。高速オーバルでのレースでは小さなミスですべてを棒に振る。

 それを重々理解しているからこそ、レース前半は慎重に走り、コースの変化、それに影響を受けたマシンの変化などを把握することに努めた。その結果、ジョンソンはレースの終盤戦でハンドリングの良いマシンを手に入れることに成功、248周のレースをリードラップで完走した。そればかりか、彼はコース上で21台をパスした。

 順位を争ってのパスは17回あり、そのうち7回はトップ10圏内で、2回はトップ5圏内で実現してみせた。
 

徐々に順位を上げベストリザルトとなる6位フィニッシュを果たしたジミー・ジョンソン

 トップ5圏内でジョンソンはチームメイトのスコット・ディクソンをパス。シリーズチャンピオンに6回輝き、テキサスで5勝している強敵を上回る走りを見せたということだ。

「今日の私はスコット・ディクソンをパスした! おそらく彼はガックリしただろうが、私はとても興奮した。集団に追い着いて彼をパスした後、私は本当にそれがカーナンバー9だったのかを2、3回確認したぐらいだった。似たカラーリングの他のマシンじゃないかと思ってね」とレース後のジョンソンは笑顔で話した。

 ゴール前2周でディクソンはジョンソンを抜き返して5位フィニッシュ。ジョンソンのトップ5フィニッシュ達成は阻まれてしまった。しかし、その点については、「テレメトリーがトラブっていたので燃費の状況がわかっていなかった。慎重を期して燃料セーブモードでゴールを目指した……」とコメント。“燃費の心配がなかったら抜き返されることはなかった”との感触を得ていたようだった。

 テキサスでのガナッシ勢は、マーカス・エリクソンが3位、ディクソンが5位、ジョンソン6位で、昨年度シリーズチャンピオンのアレックス・パロウが7位だった。次の高速オーバル戦=インディ500でも彼らが速い。その見立ては決して間違っていないだろう。

 インディ500に初挑戦するジョンソンに優勝のチャンスはあるか?

 アメリカの気の早いメディアは、“インディーでは優勝候補だ!”と持ち上げていた。初出場で簡単に勝てるレースではない。それは昨年、初めて優勝争いをしたパロウが3勝のエリオ・カストロネベスに出し抜かれた点にも明らかだ。

 だがその一方で、ジョンソンがかなりの数のライバルたちよりも優勝に近い存在であることも事実だ。その理由は、優勝経験を持つトニー・カナーンというチームメイトも加わる5台体制のチップ・ガナッシ・レーシングからの出場であること。

 昨年のインディ500ではディクソンがポールポジション。レースではパロウが優勝争いの末に2位でゴール。マシンの戦闘力は今年も高いはずなのだ。クルーのクォリティも、作戦能力もガナッシには十分なものが揃っている。

 ジョンソン自身もテキサスでの自分の走りから大きな自信を得たようで、「自分たちのマシンが持っている戦闘力の高さを今回見せることができた。我々のチームの実力は誰もが知っている通り」

「ストリートやロードコースでは私自身に十分な速さが備わっておらず、パフォーマンスを発揮させるところまでマシンを持っていくことができていなかったが、今回は自分のよく知るオーバルコースで戦い、私はチームに貢献ができたと考えている。そのことがとても嬉しく、今シーズンにまだ何戦か残されているオーバルレースに向けて勇気づけられた」と語った。

オーバルレースでこれまでの経験を活かすジミー・ジョンソン

 最終ラップの大逆転でテキサスウイナーとなったジョセフ・ニューガーデン(チーム・ペンスキー)はジョンソンが6位でゴールしたことを聞き、「それは凄い。簡単ではないテキサスのレースで」と驚いていた。

 インディライツ出身ルーキーのデブリン・デフランチェスコ(アンドレッティ・スタインブレナー・オートスポート)は、この日に複数のアクシデントを引き起こしたが、ジョンソンは冷静に戦っていた。

「予選でも決勝でもトップ10に入ることを目標にしていた。予選での実力はまだ不足しているが、レース後半にはマシンを感じ取り、自然と操れるようになっていた」と彼は語り、デフランチェスコが3台並走の状態を作って巻き起こされたアクシデントをすぐ後ろで目撃した彼は、「ストックカーでの経験だが、ここでの“3ワイド”は成功しない。インディカーのドラフティングは凄くて、一気に吸い寄せられるように前車との差が縮まる、その誘惑に耐えるのは難しい」とも話した。

 インディ500は子供時代からの憧れ。そのレースに出場するだけでなく、勝てる可能性すらあるマシンとチームを手にしているジョンソンは目を輝かせてこう言った。

「テキサスでの経験は、この5月に初めて経験するインディに向けた大きな一歩となった。テキサスでの2日間で重ねたすべてのラップが、必ずやインディ500では役に立つ」

 ストックカー時代にテキサスで5勝しているジョンソンは、インディアナポリスでも4勝を挙げている。

 バンクが緩やかでコーナーはタイトなのがインディのコース。テキサスとのキャラクターはかなり異なるが、テキサスで学び取ったことがインディで彼の助けになるのは間違いない。

 まったく同じ方程式ではないかもしれないが、今回掴んだノウハウをインディに合うよう調整することをジョンソンはトライし、レースは今回と同じようにクレバーに戦うだろう。

 オーバルでの経験値は最も豊富で、トップレベルのオーバルバトルで勝利を重ねてきたのがジョンソン。インディ500は初出場となるが、決勝までにアクシデントによる負傷などをしなければ、決して侮ることのできないドライバーのひとりにカウントされることとなりそうだ。

5月のインディ500で期待がかかるジミー・ジョンソン

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