<南風>サンゴ礁の彩り

 帰宅時の西海岸でグリーンフラッシュを見た。快晴の夕暮れ時、海面に長く尾を引く太陽が水平線に沈む刹那、赤い太陽が緑の輝きに化した。驚きと感動の後には、何事もなかったように夕暮れ色に染まった海面が静かに波打っていた。

 よく晴れた日に、飛行機の窓から眺める白波に縁取られた礁池(しょうち)は、堆積した白砂に裏打ちされてエメラルドグリーンに輝く。どこまでも澄んで南国の青空を映して青い外洋と、島の深緑とのコントラストが美しい。水中に目を転じると昼間の礁池は色に満ちている。青や緑のサンゴの間を、黄色や赤をまとった魚が泳ぎ交う。

 私たちの目を楽しませる色にも、生き物たちには都合に合わせた意味がある。浅瀬に暮らすサンゴやシャコガイは有害な紫外線を無害な蛍光色に変換することで、光合成にも利用しているという。極彩色の魚は仲間の認識や求愛を色合いに頼っている。

 南国の強烈な光の作り出すサンゴの影の暗がりに潜む魚の赤は、黒く影に溶け込んで見える。

 色は私たちに見えるものばかりではない。エビによく似たシャコやイカやタコは偏光を認識して、さらに広い世界を見ているという。色は光によって作られる。光が豊かであれば色が豊かで、生き物はさまざまな工夫でこれを利用する。

 サンゴが進化の歴史に登場して3億年、長く安定した温暖な気候の下で、多くの生き物が浅く澄んだサンゴ礁という光の世界で独自の進化を遂げた。

 世界の生態系で生物の多様性の高い生態系が二つ挙げられる。一つはサンゴ礁生態系、もう一つは熱帯林生態系である。どちらも熱帯域で長い時間をかけて形作られ、熱帯林もまた進化の成す光と彩の世界である。どちらの生態系も急速な気候変動で生命の彩りを失いかけている。

(中野義勝、沖縄県サンゴ礁保全推進協議会会長)

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