「ぶつかったんだけど千円払って」面倒避けたい心理につけ込む当たり屋の手口

 栃木県など4県で発生した交通事故被害者を装った男による治療費の連続詐取事件は、千円~2万円という比較的少額を要求する手口で事件を重ねていた。栃木県警が確認した被害は2年4カ月で計70件に上った一方、被害総額は約38万円にとどまる。捜査関係者らは男が金額を抑えることで、運転手側が要求に応じやすくし、警察への申告や自動車保険料の増額などを避けようとする当事者心理につけ込んだとみている。県警は事故の有無の確認やトラブル回避のため、速やかな通報を呼び掛けている。

 県警によると、詐欺容疑などで逮捕、起訴されたのは住所不定、無職男(60)=詐欺罪などで公判中。

 「そこの角でぶつかったんだけど」。男は視界が悪くなる夕方~夜にかけて被害者を装い、車で帰宅した住民らに声を掛けていたとされる。運転手の死角になりやすい「左折時に巻き込まれた」とうそをつくことが多かったという。

 右手の古傷を一瞬見せて人身事故だと訴え、「もしかしたら少し当たったのかも」と当事者の不安をあおり金銭を要求した。「病院代を払ってくれればいい」。“治療費”として求めたのは1千~2万円で、数十万円といった高額は求めなかったという。

 運転手側の心理について、損害保険関係者は「警察を呼べば聞き取りがあり、人身事故なら違反点数の加算、保険料の増額がある。軽微な事故ならその場で示談にしたほうが早いと思う人もいたのではないか」と分析する。

 公判などによると、男は通報しようとする人には「大ごとにはしたくない」と言ったり、しつこく金銭を要求せずに立ち去ったりしていたといい、警察に申告されないようにしていたとみられる。

 県警は栃木県の3市2町を含む埼玉、茨城、千葉の4県で2019年4月~21年8月に計70件の被害を確認。捜査関係者によると、男はだまし取った現金で、ホテルで寝泊まりするなどしていたという。

 県警は「交通トラブルがあった場合、通報してもらえれば相談に乗れる」として、迅速な通報を呼び掛けている。

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