セレッソが王者川崎を圧倒 積み上げてきた戦い方で大勝

J1 川崎―C大阪 前半、先制ゴールを決めガッツポーズするC大阪・乾=等々力

 連覇しているチャンピオンチームでも、展開や試合の流れによって大敗を喫することもある。その典型のような試合だった。4月2日のJ1第6節。川崎フロンターレ対セレッソ大阪の一戦は、ある意味で衝撃的な内容となったのではないか。絶対王者が次々とゴールを割られて終わってみれば1―4。まさかの大敗を喫したのだ。

 ホームの等々力では川崎は圧倒的な強さを発揮する。それは、この試合にJ1の「ホーム連続無敗」の新記録が懸かっていたことでも分かる。2005―07年の浦和レッズ、2006―07年のガンバ大阪とホーム連続無敗25試合で並んでいた川崎は単独1位に躍り出るはずだった。ところが、それを阻んだのは昨季12位のセレッソだった。このオフに右サイドで強烈なドリブル突破を見せていた坂元達裕、若くして守備の要となっていた瀬古歩夢が海外に移籍。その穴を埋める目立った補強もないままだったので、必ずしも注目される立場にはなかった。

 しかし、戦いぶりを注視していれば、ある程度の予想はできたのかもしれない。リーグでは前節まで1勝3分け1敗と1勝しか挙げていなかったものの、ルヴァン杯では3戦全勝。今季の公式戦では8戦してわずか1敗と好調を維持していた。

 連覇を果たした昨季、川崎は1試合平均失点が0.7点台の堅守を誇った。ところが、今季は前節までリーグ7試合で7失点。ジェジエウ、登里享平、車屋紳太郎ら守備陣に故障者が多く出て、安定感を欠いている。これに対し、セレッソは上り調子。これが立場を逆転させた。どちらが王者なのか見間違えてしまいそうな試合内容だった。

 セレッソは見事なサッカーを見せた。桜(スペイン語でセレッソ)の季節と重なったからだろうか。アグレッシブで攻守にメリハリがある。守備では二つの面を見せた。前線からの激しいプレスを見せたかと思うと、川崎が深くにボールを運ぶとゴール前に分厚いブロックを敷いてペナルティーエリアに侵入させない。一方、攻撃では自陣前に引いていた選手がためらわずに攻め上がる。人数を多くかけるので、川崎の守備陣も相手をつかまえるのに苦労する様子が見えた。

 とにかく川崎はミスが目立った。もちろんセレッソの効果的なプレスがミスを誘発した面も大きい。なかでも日本代表の活動から戻った川崎のキャプテン、谷口彰悟にとってはアンラッキーデーだった。セレッソの先制点は開始13分。谷口の判断が遅くなったところをチェックしてボールを奪い、こぼれ球からのパスをつなぎ、山田寛人がシュート。DFに当たってから右ポストに当たったところを乾貴士が押し込んだ。

 勢いに乗るセレッソはさらに効果的な攻撃を繰り出す。前半28分には左サイドの山中亮輔からのボールを中央で受けた中原輝がスルーパス。乾が冷静に決めて2点目。そして、勝敗をほぼ決する3点目は前半36分。セレッソは自陣からのクリアボールをコントロール、浮き球のパスを送る。反応したのが、またも谷口とセレッソの山田だ。バウンドして浮き上がってくるボール。ヘディングで処理しようとした谷口に対し、山田は足を出してさらう。谷口と入れ替わるようにして、そのまま独走。最後はGK鄭成龍(チョン・ソンリョン)との1対1を制し、左足で丁寧にシュートを決めた。

 前半で思いもしない3点のビハインド。川崎の慌てようはハーフタイムの選手交代にも表れた。交代5枠のうち4枚のカードを一気に切ったのだ。コロナ禍になって拡大された交代枠。一度に4人も代えるのは、私には記憶がない。もちろん、そこには鬼木達監督のショック療法という意味も含まれていたのだろうが、それだけ出来が悪かったともいえる。後半、川崎が少し盛り返す場面もあった。ただ、またも得点したのはセレッソだった。後半23分、山田が再びゴールを決めて4―0。その発端もまたフロンターレの中盤でのパスミスだった。

 川崎は後半41分、小林悠のヒールキックのラストパスからマルシーニョが一矢を報いた。王者のプライドを保つ最低限の反撃。冷静に見れば、この日の川崎が「ホーム無敗記録」を更新するのは難しかった。あまりにもミスが多すぎたのだが、同時に気づいたのは、いかに普段の川崎のサッカーが正確な技術の上に成り立っているのかということだ。皮肉なことにミスが目立ったために川崎の偉大さを再認識させられた。

 セレッソが王者のホームで大勝。多くの人が予想を外したことだろう。ただ、セレッソの小菊昭雄監督の言葉を聞けば、この勝利は準備のたまもので、偶然ではないことが分かる。

 「川崎相手にゴールを守る守備をしてしまうとやられてしまう。今まで積み上げてきたサッカーで、勇敢に、アグレッシブに、ボールを奪いにいく。そして、常にゴールを目指してボールを動かす」

 この言葉は森保ジャパンにも当てはまるだろう。スペイン、ドイツという強豪と同組になったW杯の組み合わせ。そこで日本が番狂わせを起こすのは、希望的観測に基づいてもかなり難しい。だが、ジャイアントキリングには万全の準備だけは欠かせない。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材は2018年ロシア大会で7大会目。

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