映画『カモン カモン』 子どもから学び、子どもと成長する大人の物語

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ジョニーはニューヨーク在住のラジオジャーナリストだ。ひょんなことから9歳の甥と同居することになるが、育児経験がないジョニーは子どもに振り回され、戸惑いながら否応なしに自分と向き合うことになる。本作品から明快な育児の答えやヒントが見つかるわけではないが、モノクロで映し出された静かな瞳の子どもたちから学ぶことは多い。寡黙で内向的なジョニーは、第92回アカデミー賞主演男優賞を受賞したホアキン・フェニックスが演じた。(松島香織)

ガールフレンドと別れて地方に取材に来たジョニーは、ふと思い立ち妹のヴィヴに電話をする。ヴィヴとは母親の介護をめぐり口論して、母親が亡くなってから連絡を絶っていた。久しぶりの電話でジョニーは、精神的な病を抱えている夫の世話でヴィヴが疲れ果てていることを知り、ヴィヴが夫の赴任先に行く間、息子のジェシーを預かることにした。

父親が社会に適応できず苦しんでいることや、母親が看病に疲れて精神的に不安定なことを感じているジェシーは傷ついている。伯父であるジョニーを簡単には受け入れず、スーパーで突然姿を消して本当に信頼ができる人なのかを試したり、「どうしてお母さんと仲良くしないの?」「どうして結婚しないの?」と質問攻めにする。ジョニーは困惑して「わからない」としか答えられない。

子どもの「なぜ?」と繰り返される言動や思いがけない行動に大人がイライラするのは、忙しいからだけが理由ではない。「こうあるべき」という自分の考え通りにいかず怒り、怒った自分と向き合うことになるからだ。「心を開いて話を聞こうとすると冷たく拒絶される。自分が馬鹿に思えて傷つく」とジョニーはヴィヴへ電話する。

ヴィヴは母親らしい的確なアドバイスを返しながら、いらだち、ストレスが溜まってしまう育児の世界へ「ようこそ」と冗談を言うようになる。兄妹のわだかまりがだんだんと消えていくことがわかる心温まる場面だ。「自分の気持ちをきちんと話して、子どもには誠実に接して」というヴィヴの言葉が印象的だ。

国内では育児放棄や子どもへの虐待が大きな問題になっている。自分が子どもの頃の経験が大きく影響しているということを聞くが、一線を越えてしまうのはなぜなのか。

ジョニーは、「どんな未来になっているか」「自分はどうなっていたいか」など子どもたちにインタビューする。このシーンは台詞ではなく子どもたちのアドリブだという。「今のままでは悪い未来になっている」「大人は自分が偉いと思っていて、自分の考えを押し付ける」「父親に問題があることに妹は向き合わない。でもそれでいい。兄である自分が責任を負うから」と子どもたちは答える。大人が思う以上に子どもたちは世界を知っている。そして尊重されるべきひとりの人間なのだ。そのことを忘れてはならない。

『カモン カモン』
https://happinet-phantom.com/cmoncmon/
4月22日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
配給:ハピネットファントム・スタジオ

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