【interview】はるな檸檬が描く「ハイファッション」の世界とは?

宝塚歌劇団の熱狂的ファンを描いた『ZUCCA×ZUCA』でデビューし、『ダルちゃん』『れもん、うむもん!』などでも人気を博してきた漫画家・はるな檸檬さん。
現在連載中の最新作『ファッション‼︎』ではハイファッション業界のリアルな実態が赤裸々に描かれており、先の読めないストーリー展開がSNSでも話題になっています。

BOOKOUTでは『ファッション‼︎』第2巻発売を記念して、はるな檸檬さんに特別インタビューを行いました! どうしてこの作品が生まれたのか、この作品に込めた思いなどを語っていただきました。

『ファッション‼︎』あらすじ

服をこよなく愛し、ファッションショーの演出からセレクトショップのバイヤーまで様々な業種を経験してきたが、現職はテレビの電飾という”ガチなファッションオタク”の主人公 新道開。漫画家の妻や子どもと暮らしていたある日、ものづくりに真摯な新進デザイナー ジャンに出会う。ジャンの熱意に心を打たれ、次第に自分が持っているアイデアや人脈、時間の全てを捧げ、一緒に東京コレクションに参加していくことになるが、ジャンの裏の顔が段々と明らかになっていき……。「文春オンライン」「週刊文春WOMAN」で連載中。
文春オンライン  https://bunshun.jp/

▲『ファッション‼︎』第2巻より。©️はるな檸檬/文藝春秋

――『ファッション‼︎』第2巻、発売おめでとうございます。今回は作品について色々お話を聞きたいのですが、そもそも『ファッション‼︎』という作品の着想はどこからきたのでしょうか?

10年くらい前にルームシェアをしていた友人が、ハイファッション誌の編集という仕事をしていたんです。その友人の仕事を手伝う機会があり、そのときの経験がきっかけになっています。撮影に使う洋服のピックアップでハイブランドのプレスルームに出入りしたり、ショーの受付などの手伝いをしたりと、ハイファッション業界の人と交流することが増えていく中で、ファッション業界というものが、あまりにも自分が思っていた世界と違ったことに衝撃を受けまして……。そのときに自分が感じたことを、いつか作品にできたらいいなとずっと考えていたので、構想自体はかなり前からありました。

――「ファッション業界は自分が思っていた世界と違った」とのことですが、どんな部分に衝撃を受けたのでしょうか?

ハイファッションの世界は、とても華やかでキラキラした世界を見せてくれていますが、実際にその世界で働いている人たちは、本当に泥臭く頑張っていて。それこそ、地べたを這いずり回るくらいの努力をしているということが見えたんです。表面的に華やかに見せるための裏側での泥臭さや、ハイファッション業界特有の慣習や常識などもとても新鮮に感じて、興味を持ちました。そして、知っていけば知っていくほど、面白い世界だな、と思ったんです。ファッション業界を描いた作品はこれまでもたくさんありますが、ここまでこの世界を身近に見た漫画家は、私しかいないのではないかな? と思うくらいどっぷり知ることができたので、それを描きたいと思いましたね。具体的なことは今後のネタバレになっちゃうので言えないのですが……(笑)。

▲『ファッション‼︎』第2巻より。©️はるな檸檬/文藝春秋

――『ファッション‼︎』は、ハイファッション業界のリアルが見えるというお仕事漫画的な楽しさもありますが、登場人物たちの人間模様や心理描写の描き方も、ときにゾッとするくらいリアルに感じられます。いわゆる明るく楽しいお仕事漫画だけではない雰囲気や人物像は、どこからきているのでしょうか?

ハイファッション業界を知っていく中で、もうひとつ大きく興味を引かれたのは、ファッション界の人たちの人間臭さです。すごくカッコつけててツンとしてるのに、子供っぽい闘争心とかが剥き出しだったりして、大人なら隠すようなある意味“カッコ悪い”部分が丸見えなところも面白いな、と。でもそういう人たちも少し離れたところから見るとカッコ良く見えるし憧れられていたりする。“ファッション”という言葉には洋服や流行り、おしゃれという意味の他に“見せかけの、うわべだけの”という意味もあります。インスタなどで見える姿と、少し近づくだけで露わになってしまう本質の乖離も”ファッション“=見せかけ、として非常に面白いと思っていて、そこに感じる興味や違和感も作品に反映させたいと思っています。ハイファッション業界のリアルを描こうと思ったときに、いわゆる明るく楽しいお仕事漫画にするという選択肢もありました。ただ、私が作家として一番興味を持っているのは、「人間そのもの」「人の心の動き」なんです。人なら誰しも、明るく楽しい部分だけじゃなくて、怖さや暗い部分も持っていて、それこそが人間らしさだなと思うので、そこも描き出したいと思って描いています。

――確かに、お話を読んでいくと、登場人物のジャンくんの明るさと、時々見える怖さの対比が、とてもリアルに感じられます。

でも、ジャンくんはそこまで特殊な人ではないと思っています。誰しもこんな人になる可能性がある、ぐらいの気持ちというか……。なんなら、ファッションオタクな主人公・開くんの方がだいぶ特殊だなと。私の中では2人ともモンスターで、モンスター同士のぶつかり合いだと思っていますね(笑)。この2人だけじゃなく、登場人物の心の動きをリアルに描いていきたい。華やかなハイファッション業界を舞台に、泥臭く実直に仕事をしている人たちや見せかけの“ファッション”な人たちが織りなす人間のリアルさを見せていけたらと思っているので、今後の展開もぜひ楽しみにして欲しいです。

――これまで子育てエッセイ漫画や宝塚ファン漫画などを描いてきたはるな檸檬さんですが、今作はかなり作風が違うな、と感じたのですが……。

『ファッション‼︎』は、はるな檸檬としての初チャレンジだと思っています。これまでの作品は、テーマを編集さんからオーダーされて描くことが多かったのですが、今作は「このモチーフを描きたい!」「エンタメとして読者の人に楽しんでもらいたい!」という気持ちが自分から出てきて始めた作品なんです。元々、ストーリー漫画を描きたいという気持ちはあったのですが、どう作ればいいのか悩むことも多く、なかなか筆が進まなくて。そんなとき、尊敬する漫画家の先輩から、「みんなが当たり前だと思っていることに対して、自分が疑問を感じたことを漫画にしている」とお聞きしたんです。その言葉が今回の作品につながっていますね。ハイファッション業界に感じた自分の疑問や驚きが作品のベースになっているので。

▲『ファッション‼︎』第2巻より。©️はるな檸檬/文藝春秋

――漫画家・はるな檸檬先生の初チャレンジ作なんですね! すでに2巻発売されていますが、先の展開が読めないドキドキやワクワクがあるので、まさにエンタメとして楽しませてもらっています。この先はどうなるんでしょうか?

ヒューマンホラーという触れ込みで連載が始まったので、怖い話なのかな、と思われる方も多いでしょうし、実際そういう側面もありますが、決してそれだけの作品ではなく、この先はもっと面白くなっていきますので、ぜひ読んで欲しいですね。おそらく、今考えている分だけでもコミックス10巻分くらいかな? と思いますが、まだ増えるかも……分かりません(笑)。まだまだ思いもよらない展開になる予定なので、ぜひ、コミックスを買って欲しいです!!
『ファッション‼︎』はWEBメディア「文春オンライン」と雑誌「週刊文春WOMAN」で連載しているのですが、WEBでどんなに見られていても、厳しいことにコミックスの売れ行きが良くないと連載打ち切りの可能性もあるんです……。正直な話、1冊でも多く売れてほしいです(笑)。命をかけて描いていますので、どうぞよろしくお願いします!

――はるな檸檬先生の熱意、すごいです。もう絶対に買います。この先の展開も、楽しみにしています!

はるな檸檬先生の新刊『ファッション‼︎』は、現在2巻まで発売中。
ハイファッション業界のリアルな人間模様から目が離せない注目の作品です。
ぜひ、みなさんも読んでみてください!

文/大久保亜季乃

\好評発売中/
ファッション‼︎ 2
著:はるな檸檬

はるな檸檬

1983年宮崎県出身。漫画家 東村アキコのアシスタントを経て、2010年に宝塚歌劇団の熱狂的なファンの日常を描いた『ZUCCA×ZUCA(講談社)』で漫画家デビュー。主な著者は『れもん、うむもん!(新潮社)』『ダルちゃん(小学館)』『タクマとハナコ(文藝春秋)』など。現在は「文春オンライン」「週刊文春WOMAN」にて『ファッション‼︎』を連載中。既刊2巻(文藝春秋)。プライベートでは2013年に結婚し、現在は2児の母。
Twitter @haruna_lemon

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