「高校生のAV出演被害が止められない」成人年齢引き下げが招く悲劇

AVへの出演強要を巡り、国会内で開かれた集会=3月

 4月1日から、成人年齢が20歳から18歳に引き下げられた。これにより、若年女性をターゲットにしたアダルトビデオ(AV)出演強制の被害が増えると懸念する声が上がっている。なぜリスクが増すのか。性的搾取の被害者を支援する特定NPO法人「ぱっぷす」理事長、金尻カズナさんに話を聞いた。金尻さんが説明したのは、あらゆる手段で若い女性につけ込むAV関係業者の周到で執拗な手口だ。事実であれば、政府が言う「消費者教育の充実」程度では防ぐことができない。議員立法による抜本的な対策の必要性を訴えている。(共同通信=宮川さおり)

 ▽つけ込まれるモデルへの夢

 ―引き下げの問題の前に。被害や出演強制とは具体的にどういう意味ですか。

 

NPO法人「ぱっぷす」理事長、金尻カズナさん

 金尻 典型的なケースについてお話します。業者は若い女の子の夢につけ込む形で、繁華街で「モデルになりませんか」「アイドルとしてデビューさせてあげる」と、言葉巧みに近寄ります。そして別の場所に連れて行き、大勢で取り囲んで逃げられない状態にして、いろいろ言葉を並べ立て契約書へのサインを迫ります。「水着姿の撮影だから」とだまして撮影現場に連れて行き、ふたを開けてみたらグラビア撮影ということで服を脱ぐよう強要されたとか、AVの撮影だったということもあります。

 ―本人は断りたくても怖くて言い出せない状況になるのですね。

 金尻 言い出したとしても「君のために大勢の大人が動き出しているんだよ」「多額の違約金を払えるの?」と、後戻りできない状況に追い込まれるのです。そもそも18歳くらいの女の子が大人に、しかも周到に計画を練っている大人に抗するなんてできないですよ。

 ▽暗黒の春が来た

 ―なぜ成人年齢が引き下げられたら、被害が増えるのですか。

 金尻 これまで20歳未満の未成年であれば、親の同意を得ずにAV出演契約をさせられたとしても、民法5条で認められている『未成年者取り消し権』を盾にして契約を解除したり、AVの販売を止めたりすることができました。ところが1日以降は、18歳以上は大人として扱われます。親の同意がなくても、取り消し権が使えなくなったんです。暗黒の春です。

 ―成人になったら、事実上強制された契約を破棄することはできないのですか。

NPO法人「ぱっぷす」理事長、金尻カズナさん

 金尻 未成年の場合、強制されたとか、だまされたとか立証しなくても無条件で契約破棄、販売差し止めをすることができます。ですが成人になれば、これらを証明しなければなりません。それは事実上不可能です。業者もその辺りは分かっているので「頑張ります、ってLINEに送ってみて」とか、「主演できてうれしいですってカメラの前で言ってみて」と周到に、有利になるような工作をします。

 ―業者もそこを狙ってくるというわけですね。

 金尻 残念ながら、AV業界においては『出演者が若ければ若いほど価値がある』と考えられています。18歳、19歳の出演はこれまでもニーズはありましたが、取り消し権が一定の抑止力となっていました。ぱっぷすが2021年度に受けた性的搾取の被害相談件数は619件。AV出演に関連するものは81件で、未成年はそのうち20件程度でした。取り消し権を主張されたら、業者にとってはリスクでしたが、1日からはそのたがが外れた。業者は、18歳、19歳の“参入”を、口を開けて待っていたんです。

 ▽デジタルタトゥーを刻まれて

 ―18歳というと、高校生も含みます。

 金尻 そうです。同級生にAV出演がばれてしまうことも少なくありません。クラスのグループLINE(ライン)に「活躍しているね」と、AV画像を投稿された人がいます。映像、画像はインターネットを通じて拡散し続け、消し去ることのできない「デジタルタトゥー(入れ墨)」となって被害者を苦しめ続けます。日々「バレるんじゃないか」「もうバレているんじゃないか」とおびえ、精神をむしばまれたり、耐えられずに自ら命を絶ったりする人もいます。AV出演の被害者と言うと、女性を連想する人が多いと思いますが、実際は若い男の子の被害者も大勢います。

 ―金尻さんたちの活動について教えてください。

 金尻 被害にあった子達からの相談を受け付けていて、法的対処ができるケースは弁護士に紹介します。さらに、被害を未然に防ぐため、アウトリーチ活動も行っています。専門のスタッフが定期的に、おもに新宿・歌舞伎町に出向いて、路上にいる女の子たちに声を掛けます。「スカウトにこんな言葉で誘われたりしていない?」と具体的な誘い文句を挙げて尋ねたり、マスクや弁当と一緒に啓発チラシを配ったりしています。チラシは勧誘から被害までの典型的な例をマンガで紹介しています。

ぱっぷすが路上で配布しているチラシ

 ▽穴をふさげるのは特措法

 ―与野党にも対策を働きかけていますね。

 金尻 今すぐにでも、成人年齢引き下げによって生まれた民法の“穴”を防ぐ必要があります。とにかく今は特別措置法を作って、AVのような性的画像・映像記録に関連する20歳未満のあらゆる契約は、原則的に取り消すことができるようにする必要があります。そのためには議員立法が不可欠です。一日も早い対策が求められます。

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