「保守分裂」とは何か?(オフィス・シュンキ)

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「保守分裂」とは何か?最近の選挙から考える

先日行われた石川県知事選挙で保守(自民系)候補が複数立つ選挙となったのを例として、ここ数年、福井や島根、徳島など全国各県で行われた知事選挙をはじめ「保守分裂」といわれる選挙が国政、地方を問わず目立つようになっています。その奥にあるものは何か、最近の選挙から探ってみました。

西宮市の場合

3月27日。この日、兵庫県西宮市で市長選挙が行われました。この選挙で元民主党衆議院議員の無所属現職を「保守」の自民党兵庫県連が告示の6日前に「支持」、自民党の一部市会議員がこれに反発し「(県連支持候補を)支持しない」として、市議会の会派を離脱して別の「保守系」候補を擁立する事態が起こりました。

西宮市は政令指定都市ではありませんが、4年前に当時の今村岳司市長が新聞記者に吐いた暴言が元で市議会から糾弾され辞職に至ったり、8年前には同市選出の県会議員だった野々村竜太郎氏の政務活動費を巡る「号泣会見」が日本のみならず、世界中の目にさらされたりしました。「住みよさ」ランキングで全国でも上位に顔を出すことが多く、兵庫県内でも有力な私学校が集中している文教の街であるにもかかわらず、政治的にはネガティブな面で注目を集める機会の多い中核都市となっています。その西宮市で行われたこの日の市長選では、3人の候補が立ち結果として現職が圧勝しました。しかし、これまでの「保守」分裂選挙と違った側面が見受けられたのです。

石川県知事選挙の場合

ここ数年の「保守(自民党)分裂」選挙というと、元五輪選手で元プロレスラーの元衆議院議員・馳浩氏が初当選した石川県知事選挙に代表されるように①地域での自民党勢力が他の国政政党を寄せ付けず盤石であること②期数を重ね過ぎた保守系現職がいたこと③国会議員と地方議員の関係が必ずしも緊密に保たれていないこと、のすべて、もしくは2つ以上あることが要因とみられてきました。

しかし今回の西宮市長選挙の場合、このどれにも当てはまっていません。その中で、特定政党の候補に対して、与党・野党を問わず国政では反目している国政政党同士が現職の無所属候補をそろって支持することで特定政党の勢力拡大阻止に動きました。これは大阪府内の国政・地方選挙で、ここ数年よく見られる光景なのですが、これに加えて西宮市の場合、別の動きがありました。

最近の「保守分裂」はこれまでと異なる?

「理念の違う者同士が、政策も関係なく集まっている」と「野合」を批判したのは、「市民に寄り添わない党利党略だ」と現職サイドにいわれた特定政党公認候補だけではなかったのです。自民党の一部市議までもがそれをいう形となり、前回の市長選で現職に僅差に迫った元県会議員を選挙公示直前に擁立することになって「保守分裂」が起こったのです。そして、公設掲示板に貼られた同候補のポスター左隅には『「○○(特定政党の名前)」も「野合」もあかん!』という文字が踊りました。

この西宮市長選挙のように過去にいわれてきた要因に必ずしも当てはまらない「保守」分裂選挙が、見受けられるようになってきています。西宮市を包括する兵庫県で昨年7月に行われた知事選挙でも、その一面が伺われました。ここでは、西宮市長選で公認候補が落選した国政政党と自民党内の県下の国会議員らが連帯して擁立した候補が、自民党兵庫県連が推薦を決めた候補を差し置く形で「自民党推薦」となりました。そして、そのまま両者が立候補する形で「保守分裂」で選挙に突入し前者が勝利。結果として、県議会の中で、自民党系の会派は分裂して2つあるままで現在に至っています。

「保守分裂」を政党レベルで考えると

この「保守分裂」ですが、国政政党内部のことと考えると異なる側面が見えてきます。国政政党に属する議員は、所属政党の理念を肯定していないと成り立ちません。これは国会議員も地方議員も同じです。そして、ほとんどの政党は内部での分裂を国、地方を問わず容認しません。意に反すると『除名』という形で、その議員と永久に縁を切る、という措置に出ることもあります。

自民党本部にこういった保守分裂選挙を行ったり、その後、同じ自治体内で別の自民党系会派を作ったりしたことで「除名」したケースがあるのか問い合わせをしてみました。その答えは「除名はありません。議員の方から『離党』の申し出があるときはありますが、『除名』はないですね」というもの。所属議員に対する最後の手段、ともいえる『除名』は少なくとも保守分裂選挙を行ったことではなされていないのです。

もう少し『除名』に焦点を当てて「保守分裂」をみてみます。河井案里氏の公職選挙法違反(買収)を巡る事象で今も注目されている広島。ここは、その河井氏の立候補した2019年夏の参議院議員選挙が「保守分裂」選挙となり、多くの地方議員が刑事事件となって起訴されたり、辞職したりしました。にもかかわらず、自民党広島県連に問い合わせを行うと「これらの件での『除名』というのは一人にも課していません。党紀委員会(注・3月30日に開催されるも、この時点で「除名」処分なし)が開かれることにはなっていますので、今後は分かりませんが」と、やはり「現時点(3月23日)では」の前置きこそあれ、『除名』処分は、持ち出されていないのです。

ここに「保守(自民党)分裂」選挙のひとつの答えがあるのではないでしょうか。「(知事選挙で割れた)石川は、選挙が終わったらノーサイドで、と聞いています」と党本部。所属議員に対して、よほどのことがない限り縁切りをしないのが自民党です。元の党に戻ることを考える際『離党』と『除名』とでは垣根の高さが格段に違います。日本共産党ように『除名』した者の党復帰に関して「前例がない」と回答する国政政党もあるぐらいなのです。

議員の身分をはく奪されるような刑事事件でも起こさない限り、いやそれでも河井夫妻が除名になっていないように、完全に縁を切らないのが自民党。「分裂選挙」ができる理由のひとつにこの党の「懐の深さ」が隠されていたのではないか、と思えるのは確かなのです。

(オフィス・シュンキ)

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