【橋下徹研究①】橋下徹と中国資本との長い歴史|山口敬之【永田町インサイド WEB第1回】 「いまウクライナは18歳から60歳まで男性を国外退避させないっていうのは、これは違うと思いますよ」「どんどん国外退避させたらいいんですよ。だって西側諸国は武器しか供与しないんですから」。ウクライナへの暴言を繰り返す橋下徹氏。彼の真の狙いはいったいどこにあるのか。

「ウクライナ降伏論」で大炎上!

このところ橋下徹氏の周辺が喧しい。きっかけはウクライナを巡るテレビでの発言だ。

3月3日、橋下氏はフジテレビの朝の情報番組に出演した際、ウクライナ人の出演者を前にこう言い放った。
「いまウクライナは18歳から60歳まで男性を国外退避させないっていうのは、これは違うと思いますよ」
「アンドリーさん、日本で生活してていいでしょう。未来が見えるじゃないですか。あと10年、20年、頑張りましょうよ。もう1回、そこからウクライナを立て直してもいいじゃないですか。プーチンだっていつか死ぬんですから」
「プーチン大統領はいま70歳(編集部注:69歳)ですよ。あと30年も生きられませんよ」
「ロシアが瓦解するまで、ちょっと国外へ退避してもいいじゃないですか」
「どんどん国外退避させたらいいんですよ。だって西側諸国は武器しか供与しないんですから」
と述べた。

発言内容云々以前に、今まさにロシアからの侵略に苦しんでいるウクライナ人に対して上から目線で説教を垂れるその姿勢に、多くの視聴者や有識者から抗議が殺到。大いに炎上した。

4月6日、橋下氏自ら創設した地域政党「大阪維新の会」と、橋下氏が代表を務める法律事務所が、党との法律顧問契約を「今年3月末」で解消していたことが判明した。

要するに、3月末までは維新の法律顧問を務めながら、国内政局を含む森羅万象についてテレビ局でコメンテーターを務めていたのである。

橋下氏側は「党運営に関する法律上の相談を有償で請け負っていたが、民放番組などに出演するなかで政治的公平性を期す必要があると判断した」とコメントを出した。

橋下徹と維新は本当に無関係なのか

大阪維新の会の兄弟政党である「日本維新の会」は昨年の解散総選挙で議席を4倍に増やし、夏の参院選でも躍進が噂される注目の国政政党だ。

私は25年にわたって中央政界を取材しているが、昨年来、日本維新の会が永田町に与えているインパクトは、ある意味では前代未聞とも言える。

与党の政策批判とスキャンダル追及しか能のない他のリベラル野党とは一線を画し、自公政権の枠組みの外にいて与党としての各種の旨味を享受していないにも関わらず、憲法改正や積極財政など建設的提案と保守的な立ち位置を明確にしたことで、今年7月の参院選に向けてその存在感は高まるばかりだ。

野党第一党も視野に入ってきた日本維新の会だが、政党としての権力構造や主張の本質については不明な点が多かった。

表向き政治家を引退した「創業者」の橋下氏は、事あるごとに「日本維新の会」や「大阪維新の会」とは無関係であるとの立場を表明した上で、テレビに頻々と出演して自由な発言を繰り返していた。

ところが、今年元日にはMBS毎日放送の正月番組に吉村洋文大阪知事、松井一郎大阪市長と一緒に3人で出演した。

これは本人の好むと好まざるにかかわらず、橋下氏が「維新」に強い影響力を維持していることを認めたようなものだ。

さらに今回3月末までは大阪維新の会から顧問料を受け取っていたことも明らかになったのだから、「精神的支柱」のみならず金銭の関係も含んだ一心同体とも言える関係だったのである。

今回顧問契約を終わらせたからといって、それで橋下氏と維新の関係が完全に終結するはずはない。

「外交素人」に外交は語れない

これまで私個人としては、政治家ではない橋下氏の発言についてはあまり興味はなかった。しかしウクライナ情勢を巡る橋下氏の発言についてネット番組などでコメントを求められることが少なくないので、関連発言を全てチェックしてみたところ、いくつかの発見があった。

まず、橋下氏は国際情勢の基本知識が欠如していることがわかった。

例えばウクライナのNATO加盟問題について繰り返し発信しているが、NATOがどのような手順を踏んで意思決定するかや、紛争が進行中の国はNATOに加盟できないことなど、基本的な知識のないままに書いていると思われるツイートが少なくなかった。

しかし、国会議員になったことがない橋下氏は、職業として外交を担当したことがないのだから、知識が正確でないことは驚くには当たらない。

そんなことを言ったら、いまテレビ番組でウクライナ問題を語っている「コメンテーター」の多くが、外交経験も外交取材の経験もないタレントやお笑い芸人なのであって、橋下氏もそうした「外交素人」の1人なのだから、コメントが正確であるはずもない。

責められるべきは、人間の命がかかっている戦争を扱う番組で、「外交素人」に外交を語らせているテレビ局である。

「炎上商法」の本当の狙い

しかし、いま祖国が戦禍に見舞われている最中のウクライナ人に「降伏すべき」と言ったら、ウクライナ人のみならず日本人の視聴者からも強烈な反発を買うことくらいは、橋下氏は予測できたはずだ。

政治家時代の橋下氏と仕事をしたり会食したりした経験のある人たちに聞くと、ほとんど例外なく「礼儀正しく低姿勢な好人物」「頭の悪い人物ではない」という答えが返ってくる。

その一方でカメラの前で意見が異なる人物を血祭りにあげ、時には維新の所属議員ですら罵倒する際の橋下氏は、自身の制御の効かない凶暴な人物のようにも見える。

しかし橋下氏をよく知る関係者を取材すると、炎上発言をする時も橋下氏は、
・「有権者の注目を集める」という第一目標と、
・「自分の利益になる展開」という第二目標を明確に設定し、
・落とし所を意識して発言を変えていく
という戦略を持っているという。

そして「今回のウクライナ発言も炎上させるという第一目標は見事に達成した。それならば炎上という手段によって本当の目的である第二目標も達成している可能性が高い」と解説する関係者が少なくなかった。

要するに、橋下氏の過激発言は計算されたものであって、TPOに応じて自分を演じ分けているクレバーなタイプの人間だと見るべきなのかもしれない。

しかし、一連のウクライナ情勢をめぐる発言は、一見するとクレバーには見えない。

家族や友人が祖国防衛のために戦い、国民の1割に当たる400万人が国外に逃れているという悲惨な戦禍の犠牲者であるウクライナ人を目の前にして、聞きかじりの情報を元に上から目線で説教する行為自体、言論人として明らかに愚かといえよう。

維新とロシア大使館との不自然な関係

かつて維新に所属していた元議員はこう断言する。
「橋下徹は、自分が愚かだと見なされても達成したい、『別の目的』がある」
この人物が指摘したのが、維新とロシア大使館との不自然な関係だ。

2019年5月11日、維新の所属議員だった丸山穂高前衆議院議員が北方領土のビザなし交流日本側訪問団に同行した際、旧島民に対して、
「戦争でこの島を取り返すのは賛成ですか、反対ですか」と質問した上で、
「戦争しないとどうしようもなくないですか」と発言したことが問題となった。

この時、日本維新の会の代表で大阪市長を務めている松井一郎氏は、
「党として一切そういう考えはない」「武力で領土を取り返す解決はない」とコメントした上で、丸山穂高議員を厳重注意。さらにその他のスキャンダルとも併せて丸山氏を除名とした。

ここまでは所属議員がスキャンダルを起こした際の政党のよくある対応だった。世間を驚かしたのが、問題発覚の6日後の5月17日、日本維新の会の片山虎之助共同代表と馬場伸幸幹事長が東京・港区のロシア大使館を訪れ、ミハイル・ガルージン大使に面会して直接謝罪したことだった。

国政政党の代表が除名した議員の発言について大使館にまで行って謝罪するのは、極めて異例の行為だ。

この1か月後にはロシアとの深い関係で知られる鈴木宗男衆議院議員が日本維新の会に入党したこともあり、永田町では、「維新とロシアの間には、世間では知られていない深い関係があるのではないか」と噂された。

意識しているのはロシアではなく中国か

しかし仮に維新とロシアの間に公表されていない深い関係があったとしても、橋下氏の「ウクライナ降伏論」はロシアを利するという意味では婉曲に過ぎる。

すでに始まってしまった戦争について、日本にいるウクライナ人に日本語で降伏を勧めたとしても、橋下氏の発言を聞いて降伏を選択するウクライナ国内の人は皆無と言っていいだろう。こんな発言ではロシアが喜ぶはずがないことは、橋下氏なら重々承知だろう。

そもそもロシアが日本を侵略する可能性は限りなくゼロに近いのだから、「侵略時に降伏すべき」と主張してもほとんど意味はない。

しかし、橋下氏が仮に中国を念頭に発言していたとすれば、俄然意味が深くなってくる。

中国は日本をターゲットとした核ミサイルを千基以上実践配備している国であり、尖閣などの沖縄海域で挑発行為を繰り返している。

昨年7月1日、習近平国家主席は中国共産党創建100周年記念式典で1時間にも及ぶ長演説でこう叫んだ。
「台湾問題を解決して祖国の完全統一を実現することは、中国共産党の不変の歴史的任務であり、中華民族全体の願いだ」

台湾有事となればわずか170キロメートルしか離れていない日本の無人島である尖閣諸島が無傷で済むはずがない。

中国の日本侵略は「あるかないか」ではなく「いつ」「どの位の規模か」が問われているのである。

「ありがたい」発言のオンパレード

ここで、もう一度、橋下氏のウクライナ発言を読み直してみる。
「祖国防衛で命を落とす、それしかないんだって状況にみんななってしまうと国外退避することが恥ずかしいことだ、やっちゃいけないことなんだ、売国奴なんだっていう批判を恐れてしまう」
「政治的妥結をすべき」

こうした「降伏論」に類する橋下氏の発言の文脈を整理すると、日本を侵略しようと考えている外国の指導者にとっては実に「ありがたい」発言のオンパレードだったことがわかる。

日本人はあまり自覚していないが、世界では「日本人を怒らせると怖い」「本気になった日本人は手がつけられない」という認識が広く浸透している。

記者として住んだイギリスやアメリカには多くの知人友人がいるが、「カミカゼ」「ハラキリ」という言葉を知らない者はひとりもいない。

国家のために死を覚悟して飛び立って行った特攻隊の精神は、「日本を侵略したら、カミカゼの母国の日本民族が徹底抗戦する」という侵略者側の恐怖心となり、目に見えない抑止力として現代日本を守っている。

裏を返せば、橋下氏の発言はそうした「国に殉じる」という日本精神を過去のものにしたい侵略者の意向に、ピッタリと寄り添っているとも言えるのである。

上海電力とカジノプロジェクト

大阪湾の人工島「咲洲」(さきしま)のコスモスクウェア地区では、上海電力株式会社によるメガソーラー事業が始まっている。

大阪市は、「おおさか環境ビジョン」等に基づき、平成32年度までに太陽光発電18万キロワットの導入を目標とした巨大メガソーラー事業を展開中だが、それを始めたのが2011年から大阪市長を務めた橋下氏だ。

そしてその主たる事業者が「上海電力日本株式会社」。資本関係から言って中国共産党に直結する「中国国営の企業グループ」なのだ。

中国のメガソーラー事業が進行している咲洲の北隣の「夢洲」(ゆめしま)では、カジノプロジェクトが進行中だ。

橋下氏の「降伏論」が大炎上していた3月29日、大阪市議会は大阪府と市が誘致を目指すカジノを含む統合型リゾート(IR)の区域整備計画を大阪維新の会と公明党市議団の賛成多数で可決した。

府議会は計画を24日に賛成多数で可決している。両議会での同意を得られたことで、府・市は申請期限の4月末までに国へ認定を申請する。

IRでは他に和歌山県と長崎県が誘致を目指しているが、議会の同意を得られたのは3地域で初だ。ただ市議会では自民党市議団が計画に反対。市が液状化防止など人工島・夢洲にある予定地の環境対策費に約788億円を負担することを問題視している。

大阪のカジノ構想は、アメリカのMGMリゾーツ・インターナショナルに関西企業など20社の共同グループからなる「大阪IR株式会社」が運営し、2029年秋~冬の開業を目指している。初期投資額は約1兆800億円、年間の売上高は約5200億円を見込む大阪府最大の巨大事業だ。

そして、カジノの運営などIR関連プロジェクトについても、中国系企業の様々な形での関与が取り沙汰されている。

このカジノ構想を2008年の大阪維新の会発足時から強力に推進してきたのが橋下氏本人なのだ。
「維新」の創立者であり、しかも3月末まで有償で法律顧問を務めていた橋下氏。

橋下氏は、テレビ番組のレギュラーコメンテーターとして、維新とは無関係との立場を強調する一方で、自分が関与した事業の環境整備や利益誘導に繋がるような発言をしていないか。

この疑惑は、橋下氏個人とテレビ局の倫理の問題に止まらない。

野党第一党に躍り出ようかという日本維新の会という国政政党がどのような権力構造のなかでどのように運営されているのかを解明する、重要な視点でもある。

現在、私の元には、維新の様々な関係者から多くの情報が寄せられている。この「Hanadaプラス」と、私のメールマガジンを中心に、橋下徹氏に関する取材成果を逐次公表していくつもりである。

著者略歴

山口敬之

© 株式会社飛鳥新社