『長崎の鐘』初のロシア語訳 永井博士に感銘 露男性「核の悲劇 語り続けて」

電子出版サイトで公開されているロシア語版「長崎の鐘」。タイトルはロシア語で「コロコル ナガサキ」=長崎市内

 被爆医師、故・永井隆博士の著作「長崎の鐘」が、ロシア人男性(米国在住)らの手でロシア語に翻訳された。3月には電子出版サイトで公開しており、8月9日の長崎原爆の日までに製本を目指す。長崎市永井隆記念館によると、永井博士編著の17作品でロシア語版が出るのは初めて。
 同作は1949年刊行のベストセラー。爆心地から約700メートルの旧長崎医科大付属病院で被爆した永井博士が、救護活動の中で目の当たりにした街の破壊や死傷者の様子を克明に記録した。永井作品を多数出版する聖パウロ修道会サンパウロ(東京)によると、英、仏、スペイン、中国など9言語に翻訳されている。

1950年代から、フランス語やスペイン語、ベンガル語などさまざまな言語で出版されてきた「長崎の鐘」=長崎市上野町、市永井隆記念館

 ロシア語訳をしたのは医療関係の研究者マルク・トゥルチンスキーさん(51)。サンパウロ編集部や同記念館との橋渡しをした長崎大助教の高橋純平さん(54)によると、トゥルチンスキーさんは2018年に長崎を旅行した際、永井博士の功績を知って感銘を受け、英語版「長崎の鐘」の翻訳を始めた。
 20年夏に訳し終え、元日本語教師の知人女性に校正を依頼。同編集部からも日本語の最新版「長崎の鐘」(アルバ文庫、初版22刷)の文字データなどを提供してもらった。今年3月下旬、国際的な電子出版サイト「Bookmate」のロシア語版で「コロコル ナガサキ」として世界に発信された。製本後は同記念館などにも寄贈する予定。
 高橋さんを介して取材に応じたトゥルチンスキーさんは「単に原爆被害者の証言日記ではなく、専門家による放射線障害とその治療の記録で、非常に興味深い」と振り返り、「人類に核兵器を利用しない知性が備わっていると信じたい。核兵器がどんな悲劇をもたらすか多くの人に語ったり、書物を残したりして教育をしなければ。世界中の全ての人が『長崎の鐘』を読むべきだ」と答えた。
 図らずも、ロシアのウクライナ侵攻で核危機が高まる中での出版。かつてロシアで暮らした高橋さんは「現地では原爆被害の詳しい実相はあまり知られていない。ロシア語版で核大国に『核兵器が使われると何が起こるのか』を知らせる意義は大きい」と強調する。
 永井博士の孫で同記念館の永井徳三郎館長(56)は「戦争の真っただ中にある国の言語で、永井の代表作が伝わる。ロシアの人たちにも長崎と広島の惨状を二度と起こしてはいけないと思ってほしい」と願った。


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