金沢21世紀美術館で体感する気軽な“現代アート”に片桐仁が笑顔

TOKYO MX(地上波9ch)のアート番組「わたしの芸術劇場」(毎週金曜日 21:25~)。この番組は多摩美術大学卒で芸術家としても活躍する俳優・片桐仁が、美術館を“アートを体験できる劇場”と捉え、独自の視点から作品の楽しみ方を紹介します。1月15日(土)の放送では、「金沢21世紀美術館」で“青の世界”を堪能しました。

◆金沢21世紀美術館でめくるめく"青”の世界へ

今回の舞台は、石川県・金沢市の中心部にある金沢21世紀美術館。誰もがいつでも立ち寄ることができ、さまざまな出会いや体験が可能となる公園のような美術館を目指し、2004年に開館。現代アートを気軽に体感できる場所として、人気のスポットです。

そんな金沢21世紀美術館では、2022年5月8日(日)まで、現代アートの"青”の表現に着目した展覧会「コレクション展2 BLUE」を開催中。各展示室には、青にまつわるタイトルが銘打たれ、絵画や彫刻、映像作品など、それぞれの作家の世界が広がっています。そんな"青の世界”に、片桐がどっぷりと浸ります。

同館のアシスタント・キュレーター横山由季子さんの案内のもと、最初に訪れた展示室は「青の時間」。ここには現代日本を代表する彫刻家・舟越桂の「冬にふれる」(1996年)が。

舟越桂といえば、独特の存在感を放つ肖像彫刻で高い支持を獲得していますが、なぜ「青の時間」に置かれているのか。その理由は作品タイトルにあり、「ファーブル昆虫記」で知られるアンリ・ファーブルが、動物が眠りについてから目覚めるまでの時間を"青の時間”と呼んでいて、つまり"冬”を指しているから。

また、クスノキに色を塗り、ブリキを貼り付けるなどして作られた本作の目に注目してみると、そこだけ大理石が用いられています。

そのため一見静かで穏やかな作品に見えるものの、目からは生命感が感じられ、それが青という色彩が持つ「静」と「動」の二面性を秘めていることから、今回の展覧会の最初の作品に選ばれました。舟越桂が大好きという片桐は、「BLUEというテーマで、いきなり舟越桂さん(の作品)がくるとは思わなかった」と驚きつつ、「でも、"静”と"動”の話を聞くと、なるほどなと思った」と納得の様子。

次に向かったのは「展示室5 青のプリズム」。そこには、ガラスと金属を使い、大自然のリズムや気配を表現する岐阜県出身のガラス作家・塚田美登里の「Colony」(2002年)が展示。

そのシチュエーションに「すごいですね……この部屋がまずすごいし、このガラスに囲まれた部屋にガラスの作品が」と感動する片桐。

本作には青い筋のようなものが刻まれていますが、それは「銅箔」。本来、銅箔は青くはありませんが、ガラスのなかに埋め込み、熱によって銅箔が溶けることで色が変化するそうで、その色合いに「こんなキレイな青になるんですか!」とうっとり。

さらには"月の満ち欠け”を意味する作品「Wax and Wane」(2003年)も。大自然を感じさせるダイナミックさと繊細さが共存した作品となっており、金色に見える部分は"銀箔”。塚田が試行錯誤の上に編み出した、独自の技法が駆使されており、「この技をどうやって編み出したんでしょうね?」と食い入るように見詰めます。

◆西洋と東洋、静と動、相反する2つが融合した作品とは

続いての展示室は「静寂の青」。そこにはさまざまな青が用いられた、ベルギー出身の画家リュック・タイマンスの油絵「No.7 針」(1972年)が展示されており、片桐は「静寂の青というタイトルで油絵!?」と首を傾げます。

さらには、「『針』というタイトルなんですか? 『穴を掘るおじさん』じゃないんですか? 目が点で、針のようですが(笑)」と戯けながら言います。

この「針」というタイトルは、片桐の言う通り、目が針穴のようだから。点のような目によって見ることの不可能性や私たちの見ている現実が実は幻影に過ぎないというようなことを表現しているとか。

さらに進み、今回の展覧会で一番広い展示室「展示室6 異界への開かれ」へと足を踏み入れると、その壁面にはイギリスの作家ピーター・ニューマンによる映像作品「フリー・アット・ラスト」(1997年)が投影されています。

直訳すると"遂に自由になる”というタイトルの本作は、スカイダイビング中の様子を収めた映像で、そこに映るダイバーは落下しながら「ヨガのポーズ」を実践。西洋で最も過激なスポーツと言われるスカイダイビング中に東洋の精神の探求するヨガを重ねることで、西洋と東洋の対比を表現。

片桐が、「すごい速さで動いているけど静のポーズも」と言う通り、究極の動であるスカイダイビングと静のヨガを同時に見せており「相反することを同時にやってみせることがアートなんですね」と感心しきり。なお、この作品は今回の展覧会のなかでも人気を博しているそうです。

◆作家の情熱を体感…現代アートの魅力を堪能

次なる展示室は「青い空虚」。ここは展示室自体がひとつの大きな作品となっており、その名も「L'Origine du monde」(2004年)。見るものの視覚に影響を与える作品を得意とするインド出身の現代彫刻家アニッシュ・カプーアの手によるものです。

その空間に足を踏み入れると「なんだこれ? えっ!? えっ!?」と狼狽する片桐。部屋の一部には真っ黒な穴のようなものがありますが、実はそこには青い塗料が塗られています。片桐も「青には見えないですね、黒にしか見えない」と話していましたが、ずっと見ていると微かに青みが感じられてくる方もいるとか。

その一方で「どこまで穴なのか全くわからない。それに動くと形が変わる。自分が動いているのに穴が動いているように見えるというか、不思議だなぁ……あるのにないっていう感じが面白い」と興味を示します。

この作品はフランスの写実主義の画家ギュスターヴ・クールベの絵画作品からとられたもので、「L'Origine du monde」とは"世界の起源”を意味しており、言い換えれば"生命の起源”と言えるような非常に観念的な作品。よくよく鑑賞した片桐は「確かに青になった気がしてくる。ここから生命が生まれてくるような……確かに深みがあるんですね、『青』ならではのね」とすっかり魅了されていました。

最後は中庭へ。そこにはプールがあり、水の中には歩いている人が。レアンドロ・エルリッヒの「スイミング・プール」(2004年)というこの作品は、水の下は空洞になっており、そこを歩くことが可能で、非日常的な感覚を体感できる楽しい作品となっています。

上から見た片桐は「不思議ですね……(下の人たちは)映像で映っている人みたいに感じますね」と反応。かたや下から見ると、「こういう見え方するんだ~。すごい……水流があるから影が動いているんですね。よく考えられていますね」と感嘆。

こちらは金沢21世紀美術館の恒久展示作品で水の「青」を象徴する作品でもあり、今回「BLUE展」の一環として紹介されているそうです。

日本で最も人気の現代美術の美術館で、その奥深い世界をたっぷりと堪能した片桐は「現代美術というと堅苦しかったり、どう見ていいかわからないという人が多いと思いますが、作家の情熱みたいなものを美術館で体感できたのは良かった。エンターテインメント的にもわかりやすいのが良かったと思うし、ぜひ足を運んでもらいたいと思いますね」とその魅力を語ります。

そして、「現代アートをわかりやすく体感させてくれた金沢21世紀美術館、素晴らしい!」と称賛し、表現の可能性を追求し続けるアーティストたちに拍手を贈っていました。

◆今日のアンコールは、ヤン・ファーブルの「雲を測る男」

金沢21世紀美術館の展示作品のなかで、今回のストーリーに入らなかったものからどうしても見てもらいたい作品を紹介する「今日のアンコール」。片桐が選んだのは、ヤン・ファーブルの「雲を測る男」(1998年)。

「ロマンチックですよね」と感慨深そうに語る片桐。この作品は屋外、それも屋根の上にあるため、時として見逃されがちとあって「見逃さないようにしてくださいね」と視聴者に注意を促します。

そして、最後はミュージアムショップへ。まずは"21”がモチーフになった金沢21世紀美術館のピンバッジに「これは良いですね!」とテンションが上がる片桐。さらにはトートバッグを物色しつつ、オリジナルキャラクター「ざわざわ君」のバッジに興味津々の片桐でした。

※開館状況は、金沢21世紀美術館の公式サイトでご確認ください。

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<番組概要>
番組名:わたしの芸術劇場
放送日時:毎週金曜 21:25~21:54、毎週日曜 12:00~12:25<TOKYO MX1>、毎週日曜 8:00~8:25<TOKYO MX2>
「エムキャス」でも同時配信
出演者:片桐仁
番組Webサイト:https://s.mxtv.jp/variety/geijutsu_gekijou/

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