これでいいの?「静かな国会」で進む経済安保・改憲論議 迫る参院選、瀬戸際の立憲民主党

自民党大会で演説する岸田首相=13日午前、東京都内のホテル

 静かな通常国会が続く。夏に参院選が行われる年なのに、与野党が激しい論戦を交わす場面が見られない。今国会の目玉である経済安全保障推進法案は7日の衆院本会議で、立憲民主党も賛成して通過した。国会の力学の変化は、参院選後の本格政権を見据える岸田文雄首相にとってプラス材料になる。野党はこのままでいいのだろうか。(共同通信=内田恭司)

 ▽立民も法案に賛成した

 今国会の「無風」ぶりを象徴しているのは、岸田政権が最重要法案の一つに位置付ける経済安保推進法案の審議と、衆参両院の憲法審査会の議論だ。いずれも「すいすいと進んでいる」(自民党関係者)のだ。これまでの経緯からすれば考えられない展開だ。

 安倍政権時代の2015年、集団的自衛権行使を限定的に容認する安全保障関連法案が審議された時は、与野党が全面対決となった。野党陣営は「立憲主義の否定だ」と厳しく批判し、後に共産党を含む野党共闘の原点にもなった。

経済安全保障推進法案を賛成多数で可決した衆院本会議=7日午後

 だが、今回の経済安保推進法案は対決法案とならなかったばかりか、立民は与党との修正協議に応じ、主張を付帯決議に盛り込むことで折り合った。日本維新の会、国民民主党も賛成しており、先の自民党関係者は「今国会中の成立は確実だ」と安堵する。

 法案を巡っては様々な論点があった。規制強化による企業活動への関与や懲役を含む罰則導入の是非、保護する先端技術の範囲などだ。そもそも法案の狙いは、ハイテク分野での中国の急激な台頭を背景に、経済分野での脅威から国の安全を守るところにある。

 岸田政権は経済安保法制を土台に、今秋にも日米両国で経済版閣僚協議「2プラス2」を新設し、同盟強化につなげる構えだ。この動きは米国主導の「対中包囲網」形成や、バイデン米大統領が唱える「民主主義対専制主義の戦い」に通じていく。

 国際社会が激変する中、この法案が中期的な日本の針路を決定づけていくとも言えるが、今国会で議論が深まったとの印象は薄い。

 ▽「2、3年で発議あり得る」

 風景が様変わりしたと言えば、憲法審査会もそうだ。衆院は毎週、参院は隔週ごとの開催となり、衆院では自民党が党憲法改正4項目に掲げる「緊急事態」をテーマに議論が進む。枝野幸男氏が立民を率いた4年間に目立った進展がなかったのとは大違いだ。

 新型コロナウイルスの感染拡大やロシアによるウクライナ侵攻が重なり、自民党側の「必要不可欠な議論」との主張は説得力を増す。野党筆頭理事を務める立民の奥野総一郎氏が周囲に「止めるのは難しい」と話すように、審議は自民党ペースだ。

衆院憲法審査会=7日午前

 奥野氏は「論点はまだある。総括にはほど遠い」として、取りまとめに入りたい自民党側をけん制するが、会期末まで押しとどめるのは難しいだろう。

 仮に取りまとめまで進めば、森英介会長が細田博之衆院議長に見解を提出する流れになる。秋以降、立民が要求する国民投票に関するCM規制の議論が済み、参院の憲法審査会が足並みをそろえてくれば、いよいよ聞こえてくるのは「発議」の声だ。

 自民党は、公明党や維新が求めるように、緊急事態条項の新設を巡り「国会議員の任期延長」に絞った改憲案を提起してくると予想する向きがある。

 自民党のベテラン議員は「岸田首相が参院選で圧勝すれば、ペースは止まらない。さすがに来年の通常国会はないにしても、2、3年のうちの発議はあり得る」と読む。

 参院選を終えれば、次の国政選挙まで最長で3年の期間がある。自民党改憲実現本部は国民の改憲機運を盛り上げようと、2月に全国での対話集会をスタート。首相は3月13日の党大会で、党総裁として「改憲の党是を成し遂げよう」と訴えた。

 ▽岸田首相は「自公国路線」目指す?

 なぜ、国会の様相はここまで変わったのか。岸田首相の朝令暮改とも取れる「聞く力」による柔軟対応で、野党が機先を制されたということもあるだろう。

 だが、最大の要因は野党側にある。立民関係者が指摘する。「共産党と政権追及で共闘したが、昨年の衆院選で敗れ『失敗』と総括された。後任の泉健太代表は提案型の国会対応に舵を切ったが、国民の支持を得られていない」。まさにその通りだろう。

記者会見する立憲民主党の泉代表=8日午前、国会

 さらに影響が大きいのは、野党共闘の一翼を担った国民民主党が「与党寄り」になったことだ。憲法審査会が動くようになったのは、国民民主が常時開催を求めて維新と共に与党協議に加わり、立民が孤立したためとも言える。国民民主は2023年度予算に賛成した。

 国民民主に民間労組の組織内議員を送り込む連合と、自民党の「蜜月」も進む。安倍・菅政権での「官製春闘」の成果だ。岸田政権では、麻生太郎副総裁と小渕優子組織運動本部長が前面に出る。麻生氏は3月16日夜、芳野友子会長と東京都内のホテルで会食した。

 首相に近い自民党中堅議員は「岸田政権として参院選後に、かつて民間労組が支援した旧民社党との自公民路線の復活をにらんでいるのではないか」と明かす。

 首相にしてみれば、時に維新の協力を仰いだ安倍・菅時代の「自公維路線」とは打って変わり、新たに「自公国路線」の枠組みを構築できれば、政権運営の自由度は増す。

NATO本部で米国のバイデン大統領と拳を合わせる岸田首相(左)=3月24日、ブリュッセル(共同)

 立民の泉執行部はどうするのか。内閣支持率は60%前後を維持する。5月中のバイデン氏来日を調整中の首相は外交でもアピールできる。6月には大規模経済対策や政策パッケージを取りまとめる構えで、盤石の態勢のまま参院選に入っていける。

 だが、泉執行部に起死回生の方策は見当たらない。参院選で維新の後塵を拝し、国会のリベラル勢力はさらにやせ細ってしまうのか、まさに瀬戸際に立たされている。

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