【特集】学校運営はPTA会費など保護者の「私費」頼み? 高松市の公立小中学校で問題に

保護者から集めたお金で、いすやロッカー、清掃用具なども購入していました。
公立の小中学校の運営費は自治体の予算「公費」で賄うのが原則ですが、高松市では、PTA会費など保護者の「私費」が多く充てられていたことが明らかになりました。一体なぜ。そして何が問題なのか? 学校現場の声や教育委員会の対応を取材しました。

保護者の負担頼み? 「学校運営費」の実態は

高松市立多肥小学校。児童数1200人を超える市内一のマンモス校です。

(荻津尚輝リポート)
「子どもたちが使う傘立て。こちらは学校の予算で買っていますが、新しく買ったこちらの傘立ては保護者からのお金で買っているそうです」

多肥小では、校舎を増築した際に必要となった追加の傘立てを「教育後援会費」という、保護者から集めた金で2020年に購入しました。

(多肥小学校/溝内哲也 校長)
「6クラスあって3組まではきれいなんだけど残り3クラスは……っていったら『うちの子は?』って子どもの保護者が思う。じゃあ、そこは皆さんの分(保護者の私費)を少しずつ使わせていただきますっていう感じでしています」

学校運営法や地方財政法により、学校を運営するための経費は自治体が学校に割り当てる予算、「公費」で賄うのが原則です。

「公費」は、教科書や机、建物の改修費など学校運営に必要不可欠なものに使われます。

一方、夏休みの宿題などで出されるドリルや部活で使う道具など「より良い教育」のために必要なものには、保護者から集めた「私費」を充てることができます。しかし、これらの負担区分があいまいになっているのです。

「私費」使用は年間総額1億円以上

2021年、高松市議会の植田真紀議員は市立の全小中学校69校を対象に、2018年度から20年度にPTA会費などの保護者から集めた金がどのように使われているか調査しました。その結果、使われていたのは69校中66校で、年間総額1億円以上。

使い道は、PTA活動に直接関係する費用だけでなく職員室の机やロッカー、清掃用具などの備品も多く含まれていました。2020年度は体温計やアルコール消毒液など新型コロナ対策用品も目立ちます。

(高松市議会/植田真紀 議員)
「保護者はそのお金が何に使われているんだろうと疑問を持ちながらも、子どもたちのためだからいいだろうって毎年毎年済まされてきたけども、私費を使う方が使い勝手が良かったり、すぐ使えたりするので全て悪いとは思わないがその額があまりにも増えている」

(保護者は―)
中学生の母親「当然集められるべきものだと思って払わなければいけないから払っているみたいな。(PTA会費について)考えたことないです」
小学生の母親「学校運営費で足りないから(私費で)チョークを買いましたとか。その使い道ってのは別に遊んで使っているわけじゃないので、ダメって言えるものかどうかってのは判断がつきかねます」

学校運営が「公費」ではなく保護者の「私費」頼みになっている理由について、教育委員会は――。

教育長の定例会見(高松市 3月)

(高松市教育委員会/藤本泰雄 教育長[当時])
「公費と私費の区別が十分ではないのではないかとか、公費にしても運用に時間がかかって学校としてはなかなか扱いにくいとか、そもそも公費が足りないだとか」

学校運営に保護者の「私費」 高松市教委の対応は?

多肥小学校では、年度の途中で傷んだりしたボールを新しく購入する際、市の予算ではなく保護者から集めた金を使っていました。

(多肥小学校/溝内哲也 校長)
「今使いたいものがすぐに手に入らないので私費に頼っている、そういうことは正直あったと思います。無駄なことをしているとか不要なものをして(買って)いるっていう意識は誰もなかったから」

(高松市教育委員会/藤本泰雄 教育長[当時])
「学校徴収金の管理取り扱いに関するルールが統一されていない。これはきちんと統一すべきではないかな」

高松市教委は学校運営の経費負担の線引きを明確にするため、2021年5月に検討会を設置。学校徴収金についての取り扱いマニュアルを作成し、2022年度から試験的に運用を始めました。

教科用の図書や備品購入、施設の修繕費などは「公費負担」。児童・生徒個人の所有となる教材や調理実習、部活動などの経費は「私費負担を求める」と明記しました。

さらに、市は2022年度の一般会計当初予算で学校運営費約3億6000万円を計上しました。2021年度に比べ、7000万円近い大幅な増額です。

教材となる消耗品の購入は従来、年に2回しか申請できませんでしたが、より柔軟に公費が使えるよう、別の予算も用意されました。

一方、課題もあります。マニュアルでは支出の分類として「公費負担」「私費負担」に加え、善意・自発的な申し出がある場合は「PTAなどから支援を受けることが可能な経費」が設けられています。

植田市議は、この「第3の区分」があることでマニュアルが形骸化し、私費負担は減らない恐れがあると指摘します。

(高松市議会/植田真紀 議員)
「義務教育の学校運営経費は法令に基づき公費で賄うといった当たり前のことが根付かなくなってしまいます」

これに対し高松市教委は、「公費と私費の判断がつきにくいものもあるため、第3の区分の扱いについて今後慎重に決めていく」としています。

教育現場と行政の関わりなどを研究している岡山大学大学院の高瀬淳教授は、学校側には私費の使い道について保護者が納得するような説明が求められると指摘します。

(岡山大学大学院 教育学研究科/高瀬淳 教授)
「結局、保護者は断れないですよね。『子どもたちの教育のためにお金を払ってください』といったことは断れない。ちゃんと合意ができるのであればそれ(第3の区分)は問題ないと思いますけど『第2の税金』みたいに扱われてしまうのはそれはよろしくないと思う」

マニュアルの運用に合わせ、高松市立小中学校では2022年度から私費で負担してもらう教材などの一覧を示し、保護者に「同意書」の提出を求めています。

高瀬教授はこの問題は高松市だけではなく全国共通だとした上で、今後、それぞれの学校が予算の使い方についてしっかり考える必要があると話します。

(岡山大学大学院 教育学研究科/高瀬淳 教授)
「市がマニュアルとして作ったということはその通りにやればいいということではなくて、各学校が本当に必要な教材を選ぶきっかけになってほしいですし、それが教員の自腹の問題ですとか保護者の過剰な負担を解消するといったところにつながるのではと思う」

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