【レースフォーカス】GP21を走らせるバスティアニーニが作り出す“差”/MotoGP第4戦アメリカズGP

 MotoGP第4戦アメリカズGPではエネア・バスティアニーニ(グレシーニ・レーシングMotoGP)が2勝目を挙げた。ドゥカティの2021年型マシン、デスモセディチGP21を駆るバスティアニーニの強さの要因はどこにあるのだろう。

 アメリカズGPの予選では、ホルヘ・マルティン(プラマック・レーシング)がポールポジションを獲得し、2番手にジャック・ミラー(ドゥカティ・レノボ・チーム)、3番手にフランセスコ・バニャイア(ドゥカティ・レノボ・チーム)が並び、さらには4番手にヨハン・ザルコ(プラマック・レーシング)、5番手にバスティアニーニが続いた。つまり、5番グリッドまでをドゥカティが独占したのだ。中でもドゥカティのファクトリーチームのふたりにとっては、今季初めてのフロントロウだった。

アメリカズGPでフロントロウを獲得したマルティン(左)、ミラー(中央)、バニャイア(右)

 しかし、決勝レースで主役となったのはサテライトチームのライダー、バスティアニーニだった。レース後半までミラーがトップを走るも、バスティアニーニは大きく離されることなく3番手、2番手とじりじりとポジションを上げていった。バスティアニーニは特にセクター1で切り返しの多いサーキット・オブ・ジ・アメリカズのレイアウトを考え、タイヤと自身の体力を温存していた。そして残り5周でミラーをパスし、優勝を飾った。

 バスティアニーニにかわされた周はミラーにもミスがあったというが、それでもトップに立ったバスティアニーニは他の追随を許すことはなく、やはりバスティアニーニに分があったのだろう。一方のミラーはその後、アレックス・リンス(チーム・スズキ・エクスター)にかわされて3位でフィニッシュしている。ドゥカティのファクトリーチームとしては今季初の表彰台だ。

エネア・バスティアニーニ(グレシーニ・レーシングMotoGP)

 ミラーはファクトリーマシンのデスモセディチGP22を走らせる一方、バスティアニーニは昨年型のGP21を使用している。ただ、バスティアニーニが生むタイヤマネジメントの差は、バスティアニーニ自身、つまりライダーによるものだ、とミラーは決勝後の会見で語った。

「昨年、(バスティアニーニが走らせていた)GP19でもそうだった。彼はスロットルの開け方がほんとに素晴らしいんだ。ある意味、彼は旋回でリヤを使っていない。とてもスムーズに安定して、そして速く走ることができる。そのタイヤマネジメントは最高だ。だからつまり、(タイヤマネジメントの差は)彼自身によるものなんだよ」

「彼は今、とてもうまくバイクに乗っている。彼がかわしていくときは、楽々と走っているように見えるんだ。スタイルは特殊で、シートの真ん中に座り、そして頭を傾けている。バイクが動くのに任せて、すごく落ち着いて乗っているんだ」

 そうミラーに評価されたバスティアニーニは自身の強みはコーナー進入だとしながら、改善ポイントについてはコーナリングを挙げている。「データを確認すると、ジャックやマルティンに比べて遅いから、よくしていかないと」。ともあれ、2勝目によってバスティアニーニは自身の速さをさらに証明したと言える。

エネア・バスティアニーニ(グレシーニ・レーシングMotoGP)/2022MotoGP第4戦アメリカズGP

■得意の追い上げを披露し2位表彰台に上ったリンス

 そして、1列目と2列目に並んだ5人のドゥカティライダーに割って入ったのは7番グリッドのリンスだった。スズキといえば予選では3列目、4列目に沈んだとしても、決勝レースでポジションを上げていくレースを見せることが多い。今回のレースでは、今季もそうした強みが健在であることを物語るようだった。チームメイトのジョアン・ミル(チーム・スズキ・エクスター)は表彰台には届かなかったものの、4位でフィニッシュしている。今回の表彰台は、スズキにとって通算500回目。そしてまた、奇しくも今大会はロードレース世界選手権においてFIM、IRTA、MSMA、ドルナスポーツのコラボレーションが1992年に始まって以来、通算500戦目のグランプリだった。

 リンスはレース序盤に7、8番手付近を走行し、そのときトップを走っていたミラーとは2秒ほどの差があった。しかし、そこからじわじわとポジションを上げていき、最終ラップにミラーとの3番手争いを展開して、19コーナーでミラーをかわして2位を獲得した。

アレックス・リンス(チーム・スズキ・エクスター)/2022MotoGP第4戦アメリカズGP

 リンスは「表彰台に上がれるとは思っていなかった」と、ある意味で予想外のレースだったと振り返る。

「いつもなら1周目に少しポジションを上げられるんだけど、今回はそれができなかった。だから、ハードブレーキングでフロントタイヤにかなり負担をかけて前のライダーを抜いていったんだ」

「エネアもそうだったんだけど、ミラーもオーバーテイクするのが難しい相手だったよ。すごくハードブレーキングだったから。最後の2コーナーでは全力を出した。うまくバイクを止められて、表彰台を獲得できたんだ。僕にとってもスズキにとっても素晴らしい表彰台になった。スズキにとっては500回目の表彰台だ。うれしいよ」

 アメリカズGPでは2勝目を挙げたライダーが生まれ、ミラーが今季の10人目の表彰台獲得ライダーとなった。よく語られる話ではあるが、ミラーも「シーズンはまだオープンだ。本当のチャンピオンシップはヨーロッパから始まるだろう」と語る。そしてヨーロッパのグランプリは次戦ポルトガルGPから始まるのだ。

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