ローマ教皇がプーチン氏に激怒した 「キリストの代理人」、キーウ訪問の可能性は?

マルタからローマへと戻る飛行機の中で記者会見する教皇=4月3日(共同)

 世界に13億人超の信者を抱えるローマ・カトリック教会の指導者、ローマ教皇フランシスコが、ロシアのプーチン大統領に激怒している。「時代錯誤の権力者が戦争を引き起こしている」と強い言葉で非難。ロシアの侵攻を受けるウクライナの首都キーウ(キエフ)への訪問を「検討中」という。しかし実現の可能性はどれぐらいあるのか。4月2、3両日に教皇の外遊に同行した記者が分析した。(共同通信=津村一史)

 ▽ツイッターのフォロワー5300万人超

 そもそも教皇とはどういう存在か。ローマ・カトリック教会はキリスト教の最大教派で、教皇は地上でのキリストの代理人と位置付けられている。初代教皇は12使徒筆頭の聖ペテロ(イタリア語でサンピエトロ)とされる。現教皇フランシスコは266代目だ。カトリックの総本山で世界最小の独立国バチカンの立法、行政、司法の全権を行使する元首でもある。

マルタのゴゾ島で「パパモービレ」と呼ばれる専用のオープンカーに乗り人々の歓迎を受ける教皇=4月2日(共同)

 今回訪問したのは地中海の島国マルタ。現教皇は2013年の就任以降、55を超える国・地域を回り平和の大切さを訴えてきた。その発信力は絶大で、ツイッターのアカウントは英語やスペイン語、フランス語、アラビア語、ラテン語版など九つの言語で展開されフォロワーは計5300万人を超える。最近ではウクライナ語やロシア語でツイートすることもある。

 ▽キーウ訪問は「テーブルの上にある」

 キーウへの言及があったのはローマからマルタに向かう教皇特別機の中だった。ウクライナのゼレンスキー大統領がキーウに来てロシアとの仲介をしてほしいと要請していることについて同行記者団が質問すると「(訪問は)テーブルの上にある」と述べ、検討中であることを明かした。ただ、この発言だけで「訪問へ」とは書けない。

 教皇は、過激派組織「イスラム国」(IS)などによる紛争が続いたイラクへの訪問意向も早くから示していたが、実現したのは21年になってからだ。イラク政府がIS掃討の完了を宣言してから3年以上がたっていた。

マルタのゴゾ島で赤ちゃんに手をさしのべようとする教皇=4月2日(共同)

 一方、19年1月にパナマを訪問した際には、同行記者団に加わっていた私に教皇が「(今年の)11月に日本へ行きます。心の準備をしておいてください」と述べ、この言葉どおり10カ月後に訪日が実現した。

 ▽忘れられた広島と長崎の教訓

 マルタ滞在中、教皇の演説で最も印象に残ったのは痛烈なプーチン氏批判を繰り広げた点だ。同氏の名前は直接挙げなかったものの、「戦火に引き裂かれたウクライナ」から避難民が逃れてきているとして「緊急事態が拡大している」と強調。「東欧から戦争の暗闇がやってきた」と述べると、ロシアがウクライナへの軍事攻撃に踏み切ったことや、プーチン氏が核兵器運用部隊に戦闘警戒態勢を取るよう命じたことを念頭に「他国への侵攻や核による脅迫は大昔のおぞましい記憶だと思っていた」と指弾した。

教皇はマルタのフロリアナでミサを執り行った。約2万人が集まったという=4月3日(共同)

 マルタからローマに戻る機中の記者会見でもプーチン氏批判は続いた。「全ての戦争は常に不正義から生まれる」として、正当化できる戦争は存在しないと言明。第2次世界大戦で広島と長崎に原爆が投下された後、過ちを繰り返さないため核兵器廃絶に向けた機運が高まったのに「70年、80年後に何もかも忘れてしまった。われわれは戦争に取りつかれており、学ぶということがない」と嘆いた。

 ▽耳を貸してもらえない人々の声に

 ただキーウ訪問について再び聞かれるとトーンダウンした。「私は必要なことは全てやる意志がある」として検討中であると繰り返す一方で、訪問が可能なのかどうかや、問題解決のための最善の策となるのかは分からないとも述べた。この言い方を聞き、私は現時点でのキーウ訪問の実現可能性はかなり低いのだろうと思った。

マルタに向かう飛行機の中で記者と話をするローマ教皇=4月2日(共同)

 しかし教皇は2019年11月に広島市の平和記念公園で行ったスピーチで「私は謙虚な気持ちを持ち、声を上げても耳を貸してもらえないような人々の声になりたい」と言った。戦争や不平等、不公正に苦しんでいるのに声を出せない人。出そうとしてもそれを世界に届けることができない人。そんな人々の声なき声を自らが代弁していくと表明したのだ。

 こうしている間にもウクライナでは次々と罪のない市民が殺されている。教皇の発信力が今ほど求められている時はない。

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