奥田民生とSPARKS GO GOのロック熱が注がれた『THE BAND HAS NO NAME』

『THE BAND HAS NO NAME』('90)/THE BAND HAS NO NAME

1990年代にソニーミュージックから発表された名盤をアナログレコードで再発売する“GREAT TRACKS 90's CLASSICS VINYL COLLECTION”。昨年10月、第一弾として真心ブラザーズの『I will Survive』とTHE BOOMの『極東サンバ』がリリースされたが、その第ニ弾として4月13日に『THE BAND HAS NO NAME』が発売された。本作が発表された頃にはバンドとしての活動は半年ほどしかなかったので、バンド名を聞いてもピンとこない人がいても不思議ではないが、メンバーはSPARKS GO GOと奥田民生の豪華コラボレーションなのである。全盛期のUNICORNとSPARKS GO GOの胎動とが合わさって生まれた傑作と言っていい。

ロックの王道を堂々と闊歩

収録曲はわずか6曲。ミニアルバムと言っていい容姿ながら、この『THE BAND HAS NO NAME』は彼らがどんなバンドで、何をどうしたかったのかがはっきり分る。その意味で本作は傑作と呼んでいいし、入魂のデビュー作であろう。このバンドの背景や制作に至る経緯をあれこれ述べる前に、まずザっと楽曲を解説してみよう。

オープニングはM1「Something Wild」。Led Zeppelinによる「Born to Be Wild」のカバーか、はたまたSteppenwolfが「Rock and Roll」をカバーしたのか──そう評すのもどうかと思うけれど、この疾走感とヘヴィなギターサウンドは古今東西ロックの王道、そのど真ん中を堂々と闊歩しているかのように感じられる。ZEP 風のリフであることも、「Born to Be Wild」っぽいキメがあることも承知してやっているはずで、それを指摘したところで、当のメンバーは“カッコ良いでしょ?”くらいの感じだったであろう。こういう音を鳴らすのが楽しくて仕方がなかった様子が伝わってくる。決して複雑な構成ではないものの、メンバーそれぞれにちょいちょい個性的なフレーズを差し込んでいる。個人的には後半はここまで長くなくてもいいような気がしなくもないけれど、ライヴにも近い感覚でアンサンブルを引っ張っているように思う。その辺りからも、バンドで演奏すること自体の楽しさを感じることができる。それは、いい意味でのアマチュアイズムと言い換えることもできようか。

《部屋のスミで時を数える/いつか聞いた言葉浮かぶ/夜が来るのを視線落として/ハナ歌まじりでじっと待ってる》《疲れた体は答えてはくれない/目を閉じて見たものは何物か》《言葉も吐かずに/張り裂けたガラス/隠した姿を/さらけ出す》(M1「Something Wild」)。

歌詞はこんな感じで、景気のいいロックサウンドに相反するかのような、だいぶ内向的な内容である。歌詞とサウンドの対位法と言えなくもないけれど、この時期のこのバンドならでは…と感じるところでもあって、その辺は後述したいと思う。

M2「Rain Song」はM1から一転、気怠い感じのテンポとコード感で始まる。ややルーズと言ってもいいだろうか。ざらついたギターサウンドがワイルドかつ渋めに鳴っていて、M1とはタイプが異なるが、これもまた紛うことなきロックである。八熊慎一(Ba&Vo;)のハスキーな声も音に合っている。そうかと思えば、サビでテンポアップして開放的に展開。パンク的でもあるし、モッズ的とも言える。これもまたロックであろう。歌詞もストレートにロックを感じさせるものだ。

《フラフラしてたら吸い込まれ 巻き込まれ/気づいたあげくにゃボロボロにされて》《抜け目の無いヤツにゃ ケツすくわれて/届いた答えは真白な気分さ》《雨がふればすべての事を/洗い流してくれる wow wow.../汚れた静けさ荒んだざわめき/洗い流してくれる wow wow...》(M2「Rain Song」)。

言葉遣いに薄っすらと反骨心が感じられるところにロックっぽさがあるように思うし、雨の使い方もちょっと面白い。

M3「Mistake」は本作中唯一の奥田民生作曲のナンバーで、民生好きのみならず、彼らしさを感じるところではないだろうか。イントロのドラムとベースからしてファンならニヤリとするだろうし、Aメロ、Bメロからサビへのつながり、サビでのコード感等々、随所随所で“ザ・民生”な感触がある。柔らかいと受け取るか、渋いと受け取るか、気怠いと受け取るかは聴き手それぞれだろうが、大衆感がありつつ、単に耳障りがいいだけのポップさに終始していないところに非凡さがあるように思う。ロックバンドならではのダイナミズムがあることは言うまでもない。歌詞が《締めつけられる mistake 消えない》と締め括られているのは“やはり”と言うべきで、ここも注目ポイントとなろう。端的に言えば、適度に後ろ向きなのはこのバンドの味なのであろう。

ロックバンドらしさを強調

M4「Blue Boy」はポップなロックチューン。1980年代後半、まだJ-ROCKなどという呼称がなかった頃の日本のロック、そののちにバンドブームと呼ばれるものの、その前期の匂いがする。ニューロマの影響を感じさせるギターの音色と、いわゆるJ-POP的な歌の展開にそれを強く感じる。彼らはまさにブームの渦中に身を投じていくわけだが(本作制作時にはすでにその中心に居たとも言える)、今となってはその軌跡にも納得する一曲ではなかろうか。また、この歌詞にも最注目したい。

《このままじゃ 自分自身で/いつまでも後ろ指さして/こんなもんさと冷めたフリして/負けを認めていくのがオチか…/あいつらに粉れてく前に/探し続ける凍った手口を/刻まれる時間を数える Blue Boy/秘めた心をひたかくして》(M4「Blue Boy」)。

これもまたパキッとクリアーな完全前向きと言える代物ではないけれども、ロック的な反骨心の強さは遺憾なく発揮されている。ちなみに同曲はアルバム『SPARKS GO GO』(1990年)にも収録されており、清々しいまでにアレンジはまったくと言っていいほど変わっていない。その辺にも何か清々しさを感じるところである。

M5「All Through The Night」はシャッフルビートのロックンロールだ。ベースラインはロカビリーに近い印象もあるが、これはモッズと呼んでいいのではないかと思う。歌詞はわりとストレートなラブソングで、“八熊カラー”と言ったものもそれなりに感じられるものの、サビで楽曲タイトルがリフレインされるというのは如何にもロックバンドらしいし、個人的には好感を持ったところではある。

ラストのM6「Automatic Generation」は、リムショットとタンバリンの音色から始まり、そこにベースが重なって、ハスキーな歌声が聴こえてくるという、頭からスリリングな印象。サビ以降はギターサウンドもラウドに展開していき、不良の匂いがする。これもまさしくロックだろう。《だまされるか だましてやるか》《ウラが出るか 表が出るか》という、ギャンブラー的というかハスラー的というか…な世界観もいい。サウンドに合っている。この楽曲の最注目は、中盤以降、楽曲がフリーキーに展開していくところだろう。ベースだけが淡々と鳴らされていく中、ギターもドラムもカオティックに鳴らされている。途中まではメロディーを奏でるわけでもテンポを合わせるわけでもなく、インプロビゼーションと言えばそうだろうが、どちらかと言えば、楽器の音響効果を試しているかのような感じで、それを経てまたサビへ辿り着くという構成になっている。プログレを意識したのかもしれない。シンセやストリングスなどを配することなく、メンバー4人でそれをやっているところに、バンドであることを強調している感はある。

結成の経緯から感じる失意と再生

さて、改めてこのTHE BAND HAS NO NAMEのことを説明すると、UNICORNの奥田民生(Gu&Vo)と、こののちにSPARKS GO GO(以下スパゴー)となる3人、橘あつや(Gu)、八熊慎一、たちばな哲也(Dr)によって、1989年に結成されたバンドである。その時、彼ら4人を取り巻く状況がどうであったかを探ると本作『THE BAND HAS NO NAME』がより理解できる。まず、のちのスパゴーとなる3人のことを話すのが手っ取り早かろう。彼らはそれ以前にBe Modernというバンドでメジャーデビューしている。それが1986年のこと。Be Modernは上記3人にヴォーカルを加えた4人編成のバンドであった。それが1989年3月、ヴォーカルの脱退が決まり、突然解散となる。しかしながら、所属事務所との契約が残っていたため、(この言い方が適切かどうか分からないけれど)その後も3人で活動することを余儀なくされた。それはBe Modernとしてブッキングされていたスケジュールをバラすことができなかったから…という説が濃厚だが、それまで3人でライヴ活動を行なったことがなかったメンバーは急きょヴォーカリストを探し、ブッキングされていたイベントライヴに出演することとなる。そこで白羽の矢を立てたアーティストのひとりが同じ事務所で同世代の奥田民生だった。その頃のUNICORNは3rdアルバム『服部』をリリースし、全国ツアー『UNICORN WORLD TOUR 1989 服部』を終えたばかり。その年の11月からは再び『UNICORN WINTER TOUR "PANIC 服部 BOOM"』をスタートさせるのだが、ちょうどUNICORNのスケジュールがぽっかりと空いていたのだ。今思っても偶然に偶然が重なって結成されたバンドであったと言えると思う。ちなみに、そのイベントではModernsと名乗ったそうである。ここからも急きょ間に合わせた感じが伝わってくる。

ただし──ここからが肝心だが、メンバーが集うまでの経緯は偶発的なものであったとしても、現場でそこに臨む4人の姿勢はまったくもって間に合わせなどではなかった。スパゴーの3人には“俺たちはまたバンドをやれるんだ!”という高揚感があったというし、UNICORNは上記の通り、大ブレイクを果たした直後でまさに油が乗り切ったところ。熱が入らないわけがない。イベント出演後、即渡米してレコーディングすることになったというのは、いかにもCDバブル期ならではのことと思わず遠い目をしてしまうが、スタッフもその熱に当てられたんだと、ここは好意的に捉えたい。急きょLAへ渡ったものだからバンド名すらなかった。レコーディングスタジオでアシスタントにバンド名を訪ねられたが答えようがない。そこで、そのアシスタントは楽曲がレコーディングされた媒体に“THE BAND HAS NO NAME=名もなきバンド”と書いた。これがこのバンド名の真相だという。

冒頭で、本作からはバンドで演奏すること自体の楽しさ、いい意味でのアマチュアイズムを感じることができると書いた。それは彼らが集まった経緯とそのスピード感がそのまま反映されたものだと見ることができる。その時点でBe Modernは解散していたわけで、予定されていたイベントが終われば、残りのメンバーも事務所との契約が解除されていたと考えるのは普通であろう。そういう意味では、スパゴーが民生に声をかけた時点では“音楽活動はこれが最後”という開き直りがあったのかもしれない。いい意味で肩の力が抜けたと想像もできよう。サウンドとメロディーの開放感はそこで説明がつく。また、Be Modernは北海道出身のバンドだが、めんたいロックの影響があったとも聞く。メジャーデビュー時にはTHE MODSのオープニングアクトを務めたこともあるという。本作にはモッズ系のロックンロールと受け取れるものもあるが、これもいい意味で肩の力が抜けた結果だったと見ることができるのではないだろうか。後ろ向きな言葉が並ぶ歌詞は、Be Modern解散前後における精神の吐露ではなかったかと筆者は考える。どん底とも言える失意からの再生。いや、ほとんど起死回生と言ってもいいだろうか。そんなふうにも受け取ることができると思う。結成された時のメンバーのパッションと併せて、そんなバンドマンの想いがパッケージされたレコードは、どう考えてもやはり名盤となるのであろう。

TEXT:帆苅智之

アルバム『THE BAND HAS NO NAME』

1990年発表作品

<収録曲>
1.Something Wild
2.Rain Song (雨がふれば)
3.Mistake
4.Blue Boy
5.All Through The Night
6.Automatic Generation

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