【追う!マイ・カナガワ】ロシアから空路2万キロ 足止めのバレリーナ無事帰国

滞在先のウラジオストクのホテルから望む街並み=3月上旬(志賀さん提供)

 ウクライナ侵攻で緊張が高まる中、日本人バレリーナらがロシアのウラジオストクで足止めされている─と3月上旬に「追う! マイ・カナガワ」が伝えていた留学生18人が無事、帰国した。最年少は13歳で、ほとんどが未成年の生徒たちは、大雪や新型コロナウイルス禍にも見舞われながら、2週間で2万キロ超の大移動を余儀なくされたという。横浜市港南区の自宅に戻った志賀有季乃さん(17)が取材に応じ、「たくさんの人に支えられた」「ロシアの芸術がなくならないでほしい」と思いを吐露した。

 「今すぐ、泳いででも日本に帰りたい」。ウラジオストク滞在中の志賀さんが日本の親戚を通じ、マイカナ取材班にSOSを発信したのは3月7日だった。

 手にした航空券はウラジオストク経由成田行き。同5日夜、留学先のバレエ学校がある西シベリア・ノボシビルスクの空港で出発30分前に「日本までの運航取りやめ」を知らされていたが、行く当てもないままたどり着いた。

 ウラジオストクでは「成田行きが再開するかも」「臨時便や政府のチャーター機が」と、あらゆる可能性が浮上しては立ち消えた。ホテルの部屋を確保できた期限が迫る中、一部のクレジットカードは利用不可に。18人は精神的に追い詰められていった。

◆支え合った18人 ばらばらに―

 在ウラジオストク日本総領事館の支援もあり、志賀有季乃さん(17)ら18人が現地をたてたのは3月11日朝。ノボシビルスクに戻ってモスクワ経由でウクライナ空域を避けてトルコ・イスタンブールに到着し、「これで安心」のはずが受難は続いた。

 記録的な大雪に見舞われたトルコでさらに3日間も足止めされ、帰国便の空席もわずかで支え合った18人も別々の便となり、最後は2人きりに。志賀さんは母を心配させまいと電話口では「大丈夫」と涙をこらえ、電話を切るとせきを切ったように泣いたという。

 ようやく羽田に到着したのは16日夕。同便の利用客の感染が判明したため、空港近くのホテルで3日間の隔離生活を過ごした上に、帰宅後も家族と再会の抱擁を交わせぬまま、4日間の隔離生活となった。帰国費用は計70万円に上ったという。

◆ロシア以外の道模索

 志賀さんがバレエを始めたのは、インターネットでロシアのバレリーナの動画に魅了されたことがきっかけだった。

 昨年9月から憧れの地でスタートさせた留学生活は半年で幕を閉じたが、「たくさんの人に支えてもらった。感謝を忘れず、海外バレエ団のプリンシパル(最高位)を目指して頑張りたい」と気丈に語る。現在は都内のバレエスタジオに通い、週6日のレッスンに明け暮れている。母依里奈さん(50)は「もう危ない目に遭わせたくはない」と言い、ロシア以外の国に留学する道を模索中だ。

 ロシアのウクライナ侵攻は今も続く。志賀さんは「ウクライナ人の命が奪われ、ロシアの芸術も乱されている。一刻も早く止めてほしい」と願いを込めた。

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