佐々木朗希「伝説の105球」 異次元の完全試合を紐解く数々のデータとは?

ロッテ・佐々木朗希【写真:町田利衣】

19個の奪三振を奪いながら、異次元の“省エネ投球”を披露した

高校時代から用いられてきた「令和の怪物」という称号は、決して大げさなものではない。4月10日、ロッテの佐々木朗希投手がNPB史上16人目となる完全試合を達成した。NPBでは28年ぶりの快挙というだけでなく、この試合ではさまざまな記録が達成された。

完全試合の史上最年少記録と連続打者奪三振は、どちらも1950年代から1960年と、60年以上も前に達成された記録だった。すなわち、数々の大投手たちでも成しえなかった3つの記録に、佐々木朗はプロ入りからわずか14試合目にして到達したことになる。

まずは、この試合で投じた105球の投球結果一覧を見てみる。2021年9月以降のレギュラーシーズンで27イニングを投げ、与えた四球はわずかに3つ。昨季終盤の時点で、四球を出すこと自体が非常に少なくなっていたが、この日の制球は過去の登板の中でも群を抜くものだった。

打者27人のうち、カウントが3ボールになったのはたった1度、7回の後藤駿太の打席のみ。2ボールとなった回数すらわずか6度と、バッティングカウントを迎えること自体が非常に稀だった。またボールゾーンに投じた球は全部で42球だが、そのうち相手が手を出さずにボールとなった球は23球だけ。19個もの奪三振を記録しながら、打者1人あたりに要した球は3.89球と、まさに異次元の“省エネ投球”だった。

例えど真ん中であっても捉えられない、まさに抜群の球威

投球数が少なかった理由の一端は、投球コースにも表れている。全105球のうち、ストライクゾーンに投じられた球の割合がちょうど60%。試合を通じて積極的にゾーン内で勝負していたことが、この数字にも示されている。さらにストライクゾーンに投じた66球のうち、およそ4割を占める26球が低めに制球されていた点も特筆に値するだろう。

ど真ん中に行ってしまった11球に関しても、ファウルが7球、見逃しが3球、空振りが1球という内訳。甘いコースに行った球であっても捉えられた当たりは1つもないという事実が、佐々木朗の並外れた球威を物語っている。

次に佐々木朗投手が三振を奪ったコースを確認していく。19奪三振のうち、低めのボールで記録したものが16個。その中でも、低めのボールゾーンで奪った10個の三振は全てフォークと、狙い通りの配球で空振りを奪っていたことが読み取れる。また4つの見逃し三振のうち2つは、左打者の膝元に完璧に決まって記録。三振を奪いに行ってきっちりと投げ切れる精度の高さは、まさに圧巻だった。

続いて球種の割合を見ていきたい。最速164キロの直球が約6割と、快速球を主体に投球を組み立てていた。変化球の中ではフォークの割合が全体のおよそ3分の1となり、カーブとスライダーの割合はかなり少なくなっていた。

“三振しない”吉田正封じに有効だったカーブ

しかし、投じられたカーブ3球のうち2球は、4回に吉田正尚に投じられたものだった。吉田正は試合開始前の時点で14試合に出場し、三振はわずかに1つ。昨季はシーズン全体で喫した三振が26個のみと、極めて三振が少ない打者として知られる。

そんな吉田正に対して、佐々木朗は第1打席でフォークを振らせて3球三振。続く第2打席はカーブを2球続けて追い込み、4球目のフォークで再び空振り三振を奪った。投球の引き出しの多さを見せた上で、7回の第3打席は膝元の速球で見逃し三振。少ない投球数でもアクセントとなった緩い球は、NPB屈指の好打者封じにも寄与していた。

割合を見ても、この日の佐々木朗は速球を最大の武器としていたようにも感じられる。だが、アウトを奪った27球の「結果球」における球種を確認すると、その傾向は大きく異なってくる。直球で奪ったアウトは8つにとどまり、結果球全体の7割をフォークが占めた。試合全体を通じて投じたフォークの数は35球であり、そのうち半分以上が結果球となっている。

そして奪三振を記録した球種においては、この傾向がより顕著となっている。速球で奪った三振はわずかに4個で、19個の三振のうち約8割をフォークによって記録した。終盤に至るまで160キロ以上を計測していた速球以上に、バットに当てることすら困難だったフォークが打者を苦しめていたことがうかがえる。

野手のファインプレーも必要なし?の定位置に近い当たり

また、佐々木朗が打たせた28個のファウル(捕邪飛1本を含む)のうち、速球を打ったものが実に25球に達した。力強い速球でファウルを打たせてカウントを稼ぎ、最後はフォークで仕留める。奪三振のコースにも表れていたバッテリーの狙いの適切さは、その他のデータにも明確に示されている。

奪三振が多いということは、それだけ前に飛ぶ打球自体が少なかったということにもなる。オリックス打線の打撃結果は、三振以外はほぼ偏りがなく、レフト以外の各ポジションにまんべんなく打球が飛んでいた。すなわち特定のコースや球種に狙いを絞り、追っ付けや引っ張りを図ることすらできないほどの投球だったということだろう。

前に飛んだ打球は、初回の先頭打者である後藤の二ゴロを除けば、いずれも野手の定位置に近い当たりだった。ノーヒットノーランのような記録の裏にはファインプレーあり、と言われることも多いが、この日の佐々木朗投手の場合は、そうした野手がヒットをもぎ取るプレーすら必要としなかったということだ。

今回取り上げた各種の数字を見ても、まさしく過去に類を見ないほどの驚くべき内容だったことがうかがえる。この日の投球が、あらゆる意味で球史に残る歴史的なピッチングだったことに、疑問の余地はないことだろう。これだけの投球を展開したのが、20歳の佐々木朗と18歳の松川虎生という若い2人だったという点も、この試合がもたらしたインパクトを増幅させる。バッテリーがこのまま成長を続ければ、今後もさらなる衝撃をもたらす快投を見せてくれるかもしれない。そんな期待を抱かせる、圧倒的な105球のパーフェクトゲームだった。(「パ・リーグ インサイト」望月遼太)

(記事提供:パ・リーグ インサイト)

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