かなた狼(映画監督) -映画『ニワトリ☆フェニックス』映画の神様が微笑んでくれた

二人から自然に出てくるものであれば間違いない

――『ニワトリ★スター(以下、スター)』がバイオレンスな内容でしたが、『ニワトリ☆フェニックス(以下、フェニックス)』は真逆の青春ロードムービーで最初は混乱しました。

かなた(狼):

真逆ですよね(笑)。『フェニックス』はPart2でもないですし、僕は再構築ムービーと読んでいます。

――『フェニックス』は短編『ありがとう』から始まった作品ということですが、もともとこういう物語を撮りたいという構想はあったのでしょうか。

かなた:

それはなかったです。一度目の緊急事態宣言の時に全てが止まってしまったことで、アイデンティが崩れる瞬間というか、存在意義を感じられなくなってしまったんです。それは制作陣だけでなく俳優もそうです。

――今までの当たり前が崩れてしまいましたからね。

かなた:

僕らの仕事はいろんな人から応援をしてもらうことで輝かせてもらっているので、いままでに貰った光を返すことが大事なんじゃないかということで、井浦(新)さん・成田(凌)さんと三人で何かをしようとなったんです。

――この三人なら『ニワトリ』だろうと。

かなた:

はい。そこで禁じ手になりますが、もし(星野)楽人が生きていていたらという形で、(雨屋)草太と楽人がリモートで自粛をしているという作品をつくりました。それがありがたいことに多くの方にご好評頂けたので「また何かやろう」と動き出しました。そこで、映画なら前作で死んでしまった人間がもし生きていたらという世界を描いてもいいんじゃないかと思ったんです。それは映画だからできるんじゃないか、そういった寛容さも大事なんじゃないかと思って動き出しました。

――再構築の物語はどのように構成はされていったのでしょうか。

かなた:

僕の感覚では脚本7割・アドリブ3割という感じです。二人のやり取りなんかは脚本にない部分もあって、撮影の場で起きたことを取り入れていきました。『スター』の時に井浦さんと成田さんは実際に撮影前に同居をしていて、そういったものを経た絆もあったので二人から自然に出てくるものであれば間違いないなという感じですね。

――そうなんですね。

かなた:

ただ、『フェニックス』をこの形で撮ることには不安もありました。

――不安というのは。

かなた:

『ありがとう』の時に三人で盛り上がっていましたが、ほかのみんなから「なんでそんなことをやるの。」と言われるんじゃないかと思ったんです。

――前作があの終わり方ですからね。

かなた:

実際はみんな「やろう、やろう。」と言ってもらえました。奥田瑛二さんからも「またやれるんだな」と言っていただけて凄くありがたかったです。

再会を喜ぶ空気感を一番大事にしました

――みなさんにとっても待望の作品だったんですね。今作は旅に出ているということで、外に向かって行く物語ですが、そういった展開はコロナ禍ということの影響もあるのでしょうか。

かなた:

あります。いま一番できないこと、旅する気持ち良さを映画で届けたいなと思ったんです。

――前作『スター』もそうですが、かなた監督の作品はすごく丁寧に物語を積み重ねられているなと感じました。そういった積み重ねを大事にした物語の描きかたというのは監督のコダワリからなのでしょうか。

かなた:

そこは自分の感覚なので分からないです。この『フェニックス』は映画のセオリーも無視しているところもあるじゃないですか。そういった荒っぽいところもある中でも、空気感や台詞を大事にしたいという思いはあるので、そういった部分を感じていただけたのかもしれないです。

――前作と真逆のストーリーですが、作品を観られたみなさんの反応はいかがでしたか。

かなた:

喜んでもらえていました。前作の『スター』は初監督の作品だったので、あれだけのキャストの方と対峙しないといけないという気迫しかなかったです。その時のメイキングを観てみると「こんな奴がいるとしんどいな。」と自分でも思ってしまうところもあります(笑)。今回はそんなことなく、同窓会みたいな感じで、現場でも楽しくやれました。

――そこはフィルムからも伝わってきました。絆が出来上がっている人たちが集まってまた楽しいことをやろうとしているんだな、幸せな映画だなと感じました。

かなた:

キャストの人たちも次々に来て、再会するごとに喜びあって、そのまま撮影という感じでした。そこが上手く作品に出ていたということかもしれませんね。現場では再会を喜ぶ空気感を一番大事にしました。なので、演出をしたという感覚はあまりなかったです。

――みなさん自然体で演じられたということですね。

かなた:

そうですね。映画はスタッフさんたちも含めていろんな人たちの人生の時間が集結してくるじゃないですか。

――そうですね。

かなた:

狼組と僕の名前が入ったチームではありますが、それは名前が付いているだけで実際はチームがあっての作品作りなので、その一体感を感じていただけたらと思います。『フェニックス』での草太と楽人の旅と、狼組の『スター』からの旅の重なったという部分を感じ取っていただけたらと思いますね。

いろんな力が重なっていくということが、凄く大事なこと

――俳優ではない方も多く参加されていますが、みなさんが作中のキャラにばっちりとはまっているのもそういった一体感があるからこそなんですね。

かなた:

ありがとうございます。いろんなジャンルの方に出ていただくのは僕の作品の特徴の一つなのかもしれないです。プロの方が生み出すクオリティーの凄さはありますが、そうじゃない方でも面白い人はたくさんいますから。

――わかります。

かなた:

世間的に言うとメジャーな役者さんもいれば、そうでない人もいて、そういう人たちがこの映画で共存し交流も始まる、こうゆう感じで新しい日本のエンターテインメントが始まればいいなと思っています。

――今は個人で発信できるので、知らない文化圏に触れる機会を知る、繋がりを持ちやすい時代でもありますから。そういった面でも今の時代にあったキャスティングなのかもしれないですね。

かなた:

僕はそうやっていろんな力が重なっていくということが、凄く大事なことなんじゃないかなと思っているんです。このキャスティングは僕の価値観の提示みたいなところがあるかもしれませんね。

――作品に触れるということはその作家の人間性が見るということであり、それが面白さの一つでもあると思うのでぜひぜひこれからもその点を出していってもらえればと思います。

かなた:

ありがとうございます。

――そういった考え方の提示に繋がる部分でいうと、火野(正平)さんがお寺でお話しされていた「過去の意味は変わる、今は瞬間で未来に移り変わる、未来は今、今がすべて」という台詞が印象的でした。ふだん当たり前になってしまっていることに気づかせてくれる言葉で素敵だなと思いました。ほかにも数々の台詞が詩的で素敵だと感じました。台詞をつくられる際に大事にされていることはあるのでしょうか。

かなた:

僕は脚本を書く際に何かしら自分の中にある感覚をベースに書くところがあります。今の火野さん台詞もコロナ禍の期間が僕にとってこれまでを振り返る時期にもなったので、そういう自身の中にある感覚が表れたということなのかもしれないですね。「過去・現在・未来」という部分は僕自身が考えてきたことで、いまを大切にすることが凄く大事なことだと思っています。そういう気持ちを持って行かなければと自分自身に言い聞かせている部分でもあります。

――素晴らしい考え方だと思います。先ほど脚本は七割で、後の三割は役者さんに任せていたということでしたが、実際の撮影で出てきたキャストさんの台詞で印象深かった事はありましたか。

かなた:

台詞ではないですが、撮影で印象に残ったことはあります。それは旅の終わり海辺の夕方のシーンなんですが、空に火の鳥があらわれたんです。作品を観た方の中には、あれはCGだと思われた方もいましたが実際に起きたことで、雲と夕日のコントラストが火の鳥のようになったんです。それを実際の現場で見たときは神様からの贈り物をもらったようで、作品の成功を確信した瞬間でもあります。

――あれは実際に起きたことだったんですね。天が味方をしてくれたといっても準備していないと掴めないものですから、みなさんが真摯に作品に向かい合ったから撮影できたことだと思います。

かなた:

伊勢志摩は神様の地でもあるので、映画の神様が微笑んでくれたなと思いました。あの空が出た時は現場も異様な雰囲気に包まれましたね。その時だけは我儘を言って、オープンカーに乗って井浦さんと成田さんと一緒に移動しました。コロナ禍で心の中につかえていたものが取れたような気持ちになりました。

――みなさんにとっての再生の物語になる部分でもあったんですね。

かなた:

そうですね。今回、映画がもたらす力というものをすごく感じています。こんなことがあるのかと僕らも感じていて、祝福を受けられたんだなと思っています。作中の台詞にもありますが今を繰り返したものが未来に繋がっています。社会というのはいろんな人たちがいろんな形で繋がっていて、それぞれにエネルギーを発して進んでいるものだと思います。この『フェニックス』を観て、あの空を観て、この作品がみなさんの前進する力になると嬉しいです。

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