「内部統制不備の開示企業」2021年度は最多の42件、産業別では製造業が13件

 2021年度(4-3月)に自社の内部管理体制の不備を開示した上場企業は41社(42件)だった。2012年度以降の10年間では、最多だった2016年度と2019年度の37社(37件)を抜き、最多を更新した。
 上場会社は、自社の財務諸表やその他の財務情報の適正性を確保するため、必要な内部統制体制について評価した内部統制報告書を事業年度ごとに金融庁に提出することが金融商品取引法で義務付けられている。内部統制報告書は、投資家保護の観点から2006年に義務化された。
 財務情報を正しく管理する体制が構築されているかを自己評価し、「有効」、「開示すべき重要な不備があり、内部統制は有効ではない」、「表明できない」のいずれにあたるかを記載し、内部統制の有効性を外部監査人が監査する。
 2021年度は、決算・財務報告プロセスで決算処理の誤りを発見できなかったケースや自社や子会社で不適切会計が発生するなど、全社的な内部統制の不備を開示した企業が増えた。
 2021年度の42件では、内容別では経理や会計処理ミスなどの「決算・財務報告プロセスの不備」が19件(構成比45.2%)で最多だった。次いで、「全社的内部統制の不備」が18件(同42.8%)と続く。
 上場企業の内部統制不備の開示は高水準が続いている。金融庁や東証はガバナンスの向上に向けた指針整備を進めており、企業側も内部統制不備を防ぐ体制の構築が求められる。

  • ※本調査は、自社開示、金融庁・東京証券取引所などの公表資料に基づく。上場企業、有価証券報告書提出企業を対象に、「財務報告に係る内部統制の開示すべき重要な不備」について開示した企業を集計した。
  • ※業種分類は、証券コード協議会の業種分類に基づく。上場の市場は、旧市場区分で東証一部、二部、マザーズ、JASDAQおよび名古屋1部、同2部、セントレックス、アンビシャス、福岡、Qボードを対象にした。
  • ※住宅コンサルタントのハイアス・アンド・カンパニー(株)(TSR企業コード:296302163)は2021年度で2回、内部統制不備を開示してい。

内容別 「全社的な内部統制不備」が最多

 2021年度の内部統制の不備を開示した42件を内容別でみると、最多は経理や会計処理ミスなどの「決算・財務報告プロセスの不備」の19件(構成比45.2%、前年度比72.7%増)だった。
 次いで、自社や子会社などでの「不適切会計」が判明したなどの「全社的な内部統制の不備」の18件(同42.8%、同12.5%増)、商流ルールが形骸化したなどの「業務プロセスの不備」の5件(同11.9%、同±0.0%)と続く。
 景気低迷などを背景に、意図するかどうかに関わらず粉飾決算が上場・未上場企業で目立つが、「決算・財務報告のプロセスの不備」が前年度から1.7倍増と急増し注目される。

内部統制不備

市場別 東証一部が16件でトップ

 市場別では、「東証一部」が16件(構成比38.0%)で最多。次いで、JASDAQが14件とこの2市場が突出し、東証二部・マザーズが5件で続く。
 (株)小僧寿し(TSR企業コード:570067898、JASDAQ)は経理担当者が病欠で不在となり、決算確定作業などに時間を要し、決算開示内容の訂正で内部統制の不備を記載した。

内部統制不備

産業別 最多は製造業の13件

 産業別では、「製造業」の13件(構成比30.9%)が最も多かった。製造業は、国内外の子会社、関連会社の経理処理や販売管理の体制不備に起因するものが多い。
 「サービス業」の7件(同16.6%)では、住宅コンサルのハイアス・アンド・カンパニー(株)(TSR企業コード:296302163、マザース)が2回、内部統制不備を記載した。

内部統制不備

 シャープ(株)(TSR企業コード:570384737、東証1部)は2021年6月30日、2021年3月期の内部統制報告書について内部統制不備を記載した。連結子会社のカンタツ(株)(TSR企業コード:260109754)で不適切会計が発生。過年度の決算を訂正し、有価証券報告書や四半期報告書について訂正報告書を提出した。カンタツでの財務報告を実現するための内部統制が無効化していたと結論付けた。
 また、「内部統制報告書」の訂正も増えている。企業が財務局に報告書を提出後、不適切な会計処理や粉飾決算などが発覚し、内部統制に問題があったと訂正するケースが多い。不祥事の原因は会計処理に関する体制不備や専門性欠如、コンプライアンス(法令順守)意識の低さなどのほか、本社の管理が届きにくい子会社や関連会社、日本の規範意識が通用しにくい海外拠点での不正により内部統制不備を開示する企業が依然として多い。
 監査人は会計の問題点を早期に発見する門番として、経営者のチェックや監査の重要な不備に対するチェック機能の発揮が強く求められる。
 東証は2022年4月、新市場区分に移行したが、上場各社はこれまで以上にコーポレートガバナンスやコンプライアンスの意識を徹底し、内部統制不備を防ぐ風通しの良い組織の構築が求められる。

内部統制不備

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