増え続ける「盗撮」検挙10年間で約3倍、アスリートの被害も多発 「加害者の多くは依存症。しかも暴力性に気付いていない」

アスリートの性的な撮影被害や画像拡散の問題で、JOCなど7団体が発表した共同声明をデザイン化したボード。右奥から3人目は記者会見するスポーツ庁の室伏広治長官=2020年11月、文科省

 アスリートへの性的な意図を持った撮影や画像拡散が社会問題化する中、盗撮のニュースは連日のように世間を騒がしている。警察庁の統計によると、盗撮事犯の検挙件数は2010年の1741件から21年は3倍近い5019件。そのうち約79%に当たる3950件がスマートフォンによるものだ。ごく普通の会社員だけでなく、警察官や教職員が逮捕されるケースも少なくない。盗撮を含めた性依存症患者の治療や支援に取り組むソーシャルワーカーの斉藤章佳氏(42)がインタビューに応じ、盗撮する加害者側の心理や実態を語った。(共同通信=益吉数正、田村崇仁)

 ▽非接触型の犯罪、女性をモノ化

 ―アスリートの盗撮や画像悪用が近年クローズアップされている。日本オリンピック委員会(JOC)が設置した特設サイトに寄せられた情報提供は昨秋の段階で2500件に上り、逮捕者も相次いでいる。

 

オンラインでインタビューに答えるソーシャルワーカーの斉藤章佳氏

 「盗撮は行為依存症の側面がある。加害者側からすると、非接触型の犯罪なので、痴漢など他の性犯罪よりもローリスク、ハイリターン。非常に少ないリスクで、より自分にとって大きなものが得られる。被害者が気づいていないケースも多く、スマートフォンの普及で爆発的に広がったし、世代が中学生まで低年齢化もしている。自慰行為目的で撮る人が多い。一方的な支配感情によって成立しており、許可なく相手を無断で撮影することの暴力性に全く気づいていない」

 ―加害者はほぼ男性。

 「盗撮行為は女性の体の一部分を抜き取り、データ化する。いわゆる女性のモノ化だ。彼らがレンズの外に見ているのは人ではなくモノ。好きなところだけを切り取ってモノ化し、自分自身の中にある認知のゆがみを強化するために使う」

 ―モノ化し、性的に切り取って消費している。

 「性の対象として消費されるのは圧倒的に女性が多い。男性は被害者側の視点に立つ経験が少なく、まひしている。盗撮行為自体も日本社会で軽視されている。『嫌よ、嫌よも好きのうち』という言葉があるが、そういう価値観が根強くある。社会の問題が個人を通して表れており、日本社会の縮図でもある」

 ▽性的画像サイトはビジネスで成立も

 ―盗撮は常習化する人も多い。

 

陸上の木南道孝記念で、観客席に向け掲げられた無許可での撮影禁止を示すプラカード=ヤンマースタジアム長居

 「盗撮サイトや掲示板を頻繁に見るようになり、自分でもできるんじゃないかと思うようになって、ふとしたきっかけでやってみる。逮捕されたらやばいというのは分かっている。社会的な死が隣り合わせにあるからこそ、人間ははまっていく。成功体験があるから、その行動は反復される。万引も少し似ている」

 ―撮影した画像をインターネットで拡散する例も多い。承認欲求の心理も働いているのか。

 「大きく関係していると言える。衣服の上からお尻や胸だけをずっと映しているような動画が、すごい再生回数を稼いでいたりする」

 ―盗撮行為者同士のネットワークもある。

 「盗撮掲示板はよく始める動機として聞く。そういう掲示板を見ていると、被害者が撮られたがっているとか、認知のゆがみを凝縮した情報しか出てこない。そこに日常的にアクセスしている人たちの現実の捉え方はどんどんゆがんでいくだろうなと思う」

 ―性的画像サイトの運営で多額の収益を上げた例も。ビジネスとして成立しているのも被害を加速させているか。

 「児童ポルノも同じで、盗撮がなくならない要因の一つ。行動をより強化するツールになる。要は盗撮行為に対する脳への報酬効果があるということ。自慰行為に使うために撮ろうとか、売るために撮ろうとか、そうやってどんどんその行動パターンは強化され、最終的には撮るだけになっていく人が多い。盗撮のための盗撮になっていく」

 ▽無音アプリ、東京五輪でも問題提起

 ―スマホの普及で手口も巧妙化

 「スマホの盗撮は大半が無音アプリというのを使用して撮るのが典型的なパターン。靴に小型カメラを仕込む人もいる。そうした道具を容易にインターネットで購入できるのもハードルを下げている要因となる」

 ―東京五輪ではドイツの体操選手が足首までを覆う「ボディースーツ」を着用して演技し、露出の多いレオタード以外の選択肢もあると世界に問題提起した。

東京五輪体操女子で、足首まで覆うボディースーツを着て練習するドイツ選手=2021年7月、有明体操競技場

 「素晴らしいと思う。選手は競技をやりたいわけで、性的存在として消費されたいわけではない。そんな写真を不特定多数に拡散されるんじゃないか、という恐怖を抱えながら競技をすると、ちゃんとしたパフォーマンスができないと思う」

 ―競技団体も対策に頭を悩ませている。

 「難しいところはある。女性の権利を尊重するという当たり前の立場に立てば、撮影を許可制にして、特定の人しか撮れないようにするなどの対策も必要ではないか」

 ▽盗撮罪の議論も、必要な刑罰と治療

 ―日本は盗撮大国とも言われる。

 「アニメやドラマでも入浴する姿をのぞいてお湯をかけられる、というシーンが普通に扱われている。われわれはこういうシーンを子どもの時から日常的に見てきているので、この程度のものなんだなという認識にはなってくる」

 ―盗撮罪の議論も。

 「厳罰化されても、効果のある層とない層がある。常習化した人にはあまり効果が期待できないが、常習化していない人や、これからやろうとしているような潜在的な層にはある程度効果的だと思う」

 ―再発防止や被害を減らすためには。

 「1次予防は啓発と教育で、2次予防は早期の発見と治療。3次予防が再発防止。実はみんなやめ方が分からない。アルコール依存症の人も薬物依存症の人も、別に酒を飲み続けたら死にますよとか、薬を使い続けたらいずれ刑務所に行きますよということを知りたいわけじゃなくて、やめ方を知りたい。具体的なやめ方を教育するのが専門治療。刑罰と効果的な治療の両方が必要だ。刑務所に行っただけでは何も変わらない」

 ―立体的に問題を捉えることが大事。

 「被害者支援はだいぶ叫ばれるようになったけど、加害者側の心理も知らないと、なぜ繰り返すのかというところにたどりつけない。盗撮は専門治療につながると、予後が良く、行動寛容をしやすい。そこにさえしっかりとつながってくれれば立ち直りの道筋がつけられる」

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ソーシャルワーカーの斉藤章佳氏(本人提供)

 斉藤 章佳氏(さいとう・あきよし)精神保健福祉士、社会福祉士。依存症回復施設の「大船榎本クリニック」(神奈川県鎌倉市)で精神保健福祉部長。自身も摂食障害の経験があり、大学卒業後、ソーシャルワーカーとして長年アルコール依存症をはじめ、ギャンブルや薬物、性犯罪、DV、窃盗症などさまざまな依存症問題に携わる。専門は加害者臨床。近著に「盗撮をやめられない男たち」。滋賀県出身。42歳。

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