JLOCに注入される“GT500のノウハウ”。好調フェラーリも「レベルアップ」に自信/第1戦GT300プレビュー

 テストまでの結果を見れば、なんとなくの状況は見てとれる。だが、それがそのまま勢力図を反映しているかどうか分からないのが、GT300クラスの難しさであり、奥深さだ。

 今季はGT300規定勢の燃料リストリクターが絞られるなど、参加条件(BoP)変更の影響も取り沙汰されているが、パドックでは「テストは三味線かもしれないし、結局はレースウイークが始まってみないと分からない」という見方をする関係者は多い。

 そんな背景を踏まえつつも、テストまでで目立った好調ぶりを見せているふたつの陣営に、その要因や今週末の第1戦『OKAYAMA GT 300km RACE』への展望などを聞いた。

 まずは、岡山の公式テストで総合トップタイムをマーク、その後の富士テストでも上位に食い込んでいるJLOCだ。

 既報のとおり、M-TEC(無限)で長年チーム監督を務めてきた熊倉淳一氏が今季からJLOCに加わっているのだが、“タイムに現れないところ”にも、着実にこの効果は出ているようだ。

 熊倉氏は今季、87号車Bamboo Airways ランボルギーニ GT3の監督として登録されているが、88号車weibo Primez ランボルギーニ GT3を含め、2台を統括して見る立場となる。チームへの加入は、元嶋佑弥からの依頼だったという。

 GT500など長年トップカテゴリーに身を置いてきた熊倉氏にとって、JLOCのチーム体制は“驚き”であると同時に、改革の対象でもあったという。

「私が前にいた会社(無限)はスタッフが社員で固められていましたが、ここはほぼ外注のメカニックさんで構成されています。それでも皆さん何年も同じチームでやられているからか、スムーズに作業が進んでいるのが非常に印象的です」と熊倉氏。

「こういうやり方もあるんだな、と新しい発見でした。20人を超える人が集まってきているのに、誰が指示するでもなく、的確な作業をしているという印象です」

Bamboo Airways ランボルギーニ GT3の熊倉淳一監督

 一方で、その“あうんの呼吸”の中にも気になる部分があり、それについては熊倉氏から則武功雄代表に改善を進言したという。

「もっとみんなでコミュニケーションを取って、確認して物事を進めた方がいいんじゃないかということで、まずはそれを大切にしよう、と。分かっていることであっても、作業手順やその日の流れを確認していこうよ、というところから始まっています」

 外注スタッフが多いことから、チーム全員がそろうのはサーキットの現場しかない。そんな背景を踏まえ、熊倉氏の加入により強化されたのがピット作業の練習だ。

「この体制だと、(ピット作業の練習は)現場でしかできない。だからこのオフのテストでも、そこは力を入れました。みんなベテランなので、ひとりひとりはうまくできるんですけど、それを連携させて、ひとつのチームとしてやっていければいいかなと思います」

 一見すると細かいが、『勝負』するうえでは重要な要素もある。例えば富士でのテストの際、ピットストップ時に車両を停めるマーキング位置を、チーム内の2台で連携することなく、それぞれにとってベストなポジションに設定しようとしていた。

 しかし、隣のガレージと離れていたことから、2台を最大限離した位置にマーキングするよう熊倉氏が提案。同時ピットインでもダイブポジション(いわゆる斜め停め)をしなくて済むレイアウトにできたという。こういった些細なひとつひとつが、レース本番で“チーム力”として現れる可能性は、大いにある。

 また、タイヤメーカーとの関係についても「GT500でもヨコハマとは長くやっていたので、スタッフもよく知っています。ミーティングを密にして、タイヤの使い方などを指導していただきながら、走らせていけばいいんじゃないかなと思ってます」と熊倉氏。

 この週末、そしてシーズン全体に向けては、「路面コンディションとタイヤをマッチさせて、正しいタイヤチョイスをし、ピット作業のミスがないよう、ベストを尽くせれば」結果はついてくる、と熊倉氏は語る。

「昨年のレース結果を見ていると、だいぶ取りこぼしているところが多いので、そこを直していきたい。あとは2台体制の良さを活かしていきたいですね。1台が取りこぼしても、もう1台が着実にポイントを拾う、といった戦い方です」

 なお、熊倉氏だけでなく、今季JLOCにはふたりのGT500経験メカニックも加入しており、細かい作業や準備を含めて“GT500のノウハウ”が注入されているという。

 煮詰めてきたセットアップとタイヤ、昨年から不変のラインアップとなる4人のドライバーに、これらの新スタッフ加入によるチーム力の向上が果たされれば、年間にわたってタイトルを争う存在ともなり得る。そんなJLOCの“改革”の一端が、まずは開幕戦で見られるだろう。

■フェラーリが見つけ、改善してきた“弱点”

 もう一台、このオフのテストで目立ったリザルトを残しているのはPACIFIC Hololive NAC Ferrariだ。GT300クラスでは唯一のフェラーリ488 GT3となる彼らは、岡山の公式テストでは総合3番手に食い込み、富士公式テストでは総合トップタイムをマークしている。

 なお第1戦岡山は木村武史がELMSヨーロピアン・ル・マン・シリーズとのバッティングのため不参加となり、代役としてこれまでもドライブ経験のある横溝直輝が加わり、ケイ・コッツォリーノとシートをシェアする。

 コッツォリーノは昨年との“スタート地点”の違いが、オフからの好調さの原点であると説明する。

「昨年は公式テストでぶっつけ本番、タイヤ、セットアップ、チームとすべてが新しいところからのスタートでした」

「でもそれで1年戦ったことで、ヨコハマさんからもいろいろとタイヤが出てきて、コンパウンドも試せるようになり、だいぶ(セットアップは)煮詰まってきている気がします」

 岡山テストでは他のヨコハマ陣営がグレイニングなどで苦しむなか、PACIFIC Hololive NAC Ferrariはタイヤをキレイに使うことができていたという。

「去年より、レースペースも、一発も、両方レベルが上がってきているので、正直、自分としてもだいぶ自信がつきました」

「フェラーリって、デフォルトのセットアップだけでもすごくいいんですよ。去年はある意味そこで満足していた部分があった。でも、1年戦って足りない部分が見えてきて、そこを改善しようとチームで挑んだ結果、だいぶ乗れている感じはあります」

 コッツォリーノの言う「足りない部分」とは、主に決勝のレースペース。そこが「レベルアップできている」という。

 今回木村の代役を務める横溝はGT300のタイトルも手にした実力者。昨年も代役を務めているものの、今季まだPACIFIC Hololive NAC Ferrariをドライブできていない点は、少々気掛かりではある。

「横溝さんはぶっつけ本場にはなります。ただ、昨年の経験がありますし、この冬はGTワールドチャレンジ・アジアのフェラーリをテストしてきていますから、タイヤは違えどフェラーリのクルマには慣れています。いい走りをしてくれると思いますよ」

 取材終了後、コッツォリーノも「で、JAF(GT300規程)勢はどうなんですか?」とこちらに“逆取材”をかけるほど、テストでのパフォーマンスには疑心暗鬼の様子。果たして三味線はあったのか、なかったのか。まずは土曜日の予選で、その答えの一部が見えてくるだろう。

2022スーパーGT第1戦岡山 PACIFIC Hololive NAC Ferrari(ケイ・コッツォリーノ/横溝直輝)

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