【橋下徹研究②】上海電力「ステルス参入」の怪|山口敬之【永田町インサイド WEB第2回】 日本にはメガソーラーの設置・運営が出来る会社がたくさんあるのに、大阪府はなぜあえて咲洲のメガソーラーを中国の実質的国益企業に運営させているのだろうか。ウクライナへの「降伏論」の背景に、中国ビジネスがあるとすれば、「トンデモ発言」ではすまされない――。

「咲洲地区は大阪の宝石箱」

前回この連載で【橋下徹研究】を始めたところ、大変大きな反響が寄せられた。「国政で存在感を増しているからこそ、維新と創立者である橋下徹の関係を明らかにして欲しい」という肯定的な反応が大半だったが、「橋下徹が維新の法律顧問をやっていたことも知らなかったのか」というお叱りの声も少しあった。

何度も繰り返すが、私は橋下徹氏についても、また日本維新の会・大阪維新の会についても、ごく一般的な知識しか持っていなかった。

だから、この連載では「あまり維新のことは知らない」という方と共に、基礎知識と最新情報を探求していきたい。

連載第2弾は、「上海電力日本株式会社」(以下「上海電力」)が大阪府のメガソーラー事業を請け負っている埠頭「咲洲(さきしま)」について掘り下げる。

咲洲には「大阪府咲洲庁舎」という、日本第4位の256mを誇る超高層ビルがある。三井住友銀行や大阪市を中心とする第三セクターによって1995年に完成されたこの超高層ビルは、開業直後から赤字を垂れ流していた。

2003年には運営会社だったWTC(ワールドトレードセンター)が事実上倒産し、大阪地方裁判所に特別調停を申請した。

ところが橋下徹氏が2008年に大阪府知事になると「咲洲地区は大阪の宝石箱」などと言って知事主導で咲洲開発に邁進。そのシンボルがWTCビルの買収プロジェクトだった。

元々このビルは耐震強度に問題があるとされ、全壊の危険性も指摘されていた。だから大阪府議会で府のビル取得に強い反対意見が出され、結局、府機能の移転は府議会で否決された。

それでもなお、橋下知事はビル取得に固執。2009年10月には「府機能は移転しないがビルは買収する」という極めて異例の結論になった。

しかし、その後大阪府は、議会や府職員の反対にもかかわらず、府の行政機能の多くを買収したビルに順次移転し、ビルの名前も「大阪府咲洲庁舎」となった。

[産経新聞2016年1月5日]
「いつもガラガラ大阪府『咲洲庁舎』
初のテナント募集応募ゼロ!」

一般テナントが次々と撤退したり、2019年に入居していた「さきしまコスモタワーホテル」が維持費数億円を滞納したとして大阪府から契約解除されるなど、「いわく付き」の高層ビルとなっている。

当初の発電請負は日本企業だった

その「咲洲庁舎」からほど近い、埠頭の北西端の広大な土地で、巨大メガソーラー事業が展開されている。

大阪府のホームページによると、発電量は2.4メガワットで、事業者は「合同会社咲洲メガソーラー大阪ひかりの泉プロジェクト」となっている。

確かに、2012年にはこの土地でメガソーラーを実施する事業者として、2つの会社が合同でプレスリリースを発表している。「伸和工業」と「日光エナジー開発」だ。

このプレスリリースでは、この2社が咲洲埠頭コスモスクウェア地区北西端の土地を月額55万円で借り受け、1年後にメガソーラーによる発電事業を開始することになっていた。

ところが、発電事業は予定通りには始まらず、1年半後の2014年5月にようやく電力供給が始まった。そして、蓋を開けてみたらこの施設を実質的に建設・運営しているのは「上海電力」であることが明らかになった。

会社のホームページの「発電所一覧」のトップに咲洲メガソーラーが挙げられており、こんな説明文がついている。
「大阪市南港咲洲メガソーラー発電所の定格出力は 2.4 MWで、上海電力日本株式会社が日本で初めて建設したメガソーラー発電所です。また、大阪市で稼動した初のメガソーラー発電所になります。
当発電所は大阪湾に面して、工業港に近く、大阪の国際貿易の窓口である地域であり、地形が平坦で、日差しが豊かな、メガソーラー発電所には理想的な立地です。
当発電所は上海電力日本株式会社と日本伸和工業株式会社が共同で投資したプロジェクトで、 2014 年 3月 16 日に建設開始、2014 年 5 月 16 日に稼動しました」

「上海電力」は、上海証券取引所に上場している「上海電力股份有限公司」という中国の会社の100%子会社だ。

「上海電力股份有限公司」の株主構成は以下の通り。
筆頭株主の「中国電力投資集団」が46.34%という圧倒的なシェアを持っており、「中国電力国際発展」13.88%と「中国長江電力」の9.88%を合わせると70.1%になる。

「中国電力投資集団」は中国共産党の支配する5大電力組織の中核だ。「中国電力国際発展」「中国長江電力」は親会社が中国政府(国務院)の管理下にある国営企業だから、「上海電力」も中国政府の管理下にある中国の準国営企業ということになる。

「上海電力」のロゴマーク左の「国家電投」は「中国国家電力投資集団」の略だから、中国政府の実質的国営企業であることを隠していない。

メガソーラー事業は設置・運営コストを差し引いてもおおむね10%程度の利益が見込め、世界的な低金利の中では高い収益が期待できる。大阪府は咲洲のメガソーラー事業で、毎月巨額の利益を「上海電力」と中国政府と中国共産党に献上していることになる。

日本にはメガソーラーの設置・運営が出来る会社がたくさんあるのに、大阪府はなぜあえて咲洲のメガソーラーを中国の実質的国益企業に運営させているのだろうか。

すべての事象が橋下時代に起きている

橋下徹氏は大阪府知事と大阪市長を以下の期間務めた。

・知事 2008年2月6日~2011年10月31日

・市長 2011年12月19日~2015年12月18日

そして市長時代の府知事は盟友の松井一郎現大阪市長。橋下徹氏は実質7年半にわたって大阪府の行政と政策を牛耳ってきた。

橋下氏は知事として市長として、上海市との関係強化に取り組んできた。例えば上海で万博が実施されていた2010年7月、大阪府と大阪市は共同でこんなプレスリリースを出している。
「大阪府と大阪市は7月28日を『なにわの日』として、「大阪-上海友好盆踊り大会」を目玉イベントとする『大阪のスペシャルデー』を上海万博会場で開催すると発表した」

橋下氏は、この時期上海に滞在して、上海国際会議センターで開かれた『大阪-上海友好交流の夕べ』など複数のイベントに出席する傍らで、上海市当局の幹部と会合を重ねた。

さらに大阪府所有の帆船「あこがれ」に大阪府民と上海市民を総勢500人を乗せた記念航海も発表している。
「大阪府と上海市は1980年に友好都市提携し、今年で30周年という節目の年になる。大阪市も1974年に上海市と友好都市として提携した」

この2年後、咲洲のメガソーラー事業が本格的にスタートした。そして当初は日本企業による事業を標榜していた。ところが1年半後、事業主体がいつの間にか「上海電力」という中国の準国営企業にすり替わっていた。

事業主体の変更について大阪府の過去の報道発表を探してみたが、該当するものは見つからなかった。府民の生活に直結する発電事業を中国企業に任せるのであれば、その意図や安全性の担保などについて、府としての見解を発表するべきだったのではないだろうか。

はっきりしているのは、メガソーラービジネスの中国企業への売り渡しの決定から実施に至る、すべてのプロセスが橋下氏と大阪維新の会が大阪府政を牛耳っていた時期に行われたという事実である。

「降伏論」と中国ビジネス

ウクライナ戦争に関連して橋下氏は「外国が攻めてきたら降伏すべきだ」と繰り返し発言した。

台湾・尖閣を自国の領土だと主張する中国と中国共産党は、あらゆる手段を使っていずれ台湾・尖閣を取りに来るだろう。

ロシア軍の侵攻はウクライナ人の必死の抵抗で当初の見込みよりも停滞し膠着状態に陥っている。習近平が台湾と尖閣を侵略する場合にも、最大の阻害要因となるのが日本人の抵抗だ。

そんな時、日本の著名人が「侵略されたら抵抗せず、逃げるか降伏するべきだ」と言ってくれたら、侵略する側にとっては極めて「ありがたい」発言に違いない。

大阪府の巨大メガソーラー事業が中国政府と中国共産党が管理する中国の会社に売り飛ばされたという事実。

そして交渉から契約までの最も重要な期間、橋下徹氏が大阪府政を知事として牛耳っていたという事実。

こうした経緯を検証すればするほど、
「橋下徹氏の『降伏論」』と大阪府の中国ビジネスは無関係だ」という言い訳は成り立たないように思えてくる。

橋下氏がもし、中国企業の経営者と、その奥にいる中国共産党幹部が喜ぶような発言を意図的に繰り返しているのであれば、それはもはや単なるトンデモ発言ではない。特定の意図を持って国民を誘導しようという「特異な」発信という事になる。

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山口敬之

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