「男子と別の形の確立を」現役指導者が考える女子野球の“独自の魅力”とは

東海大静岡翔洋高校の女子野球部【写真:間淳】

弓桁義雄氏は男子野球部監督を経て、2020年に女子硬式野球部を創部

女子野球は近年、環境が大きく変わり、注目度は増している。この人気や関心を一過性で終わらせないために、静岡市にある東海大静岡翔洋高校の女子硬式野球部を率いる弓桁義雄監督が掲げるのは「50%+50%」の指導法。さらに、ファッションも重要な要素になると強調する。

昨夏、全国高校女子硬式野球選手権の決勝は甲子園が舞台となった。高校球児の聖地に初めて女子選手も立った歴史的瞬間だった。今年は4月3日、全国高校女子硬式野球選抜大会の決勝が、初めて東京ドームで開催された。

「男子だけの競技」と思われていた高校野球は近年、大きく変化している。全国各地で女子硬式野球部が誕生し、潜在的に野球をしたい女子が多いことを印象付けている。“サッカー王国”の静岡県でも、2020年4月に東海大静岡翔洋高校に県内で初となる女子硬式野球部ができた。スタートは部員3人。現在は新2、3年生合わせて31人まで増えた。新1年生は30人入部した。

チームを率いるのは弓桁義雄監督。東海大静岡翔洋中学の軟式野球部で全国優勝し、東海大静岡翔洋高校の男子硬式野球部の監督を務めた経験もある。小学校、中学校で野球をしてた女子選手が、高校にはチームがないために別の競技に転向したり、スポーツを辞めたりするケースを目の当たりにしてきた。そして、高校でも野球が続けられる環境が必要と考え、女子硬式野球部を創部した。弓桁監督は女子野球の人気や関心が高まっている状況を歓迎する一方、危機感も抱いている。

勝利+野球のおもしろさ、バランス良く50%ずつ指導の両輪に

「甲子園や東京ドームでプレーできるのは全国で2校しかありません。技術を磨いて勝利を目指すのは大切な要素ですが、勝ちに偏り過ぎると女子野球はブームで終わって競技人口は増えないと思っています」

弓桁監督が掲げるのは「50%+50%」の指導法だ。技術を磨いて勝利を目指す指導と、野球本来のおもしろさを伝える指導をバランスよく両輪にする。これから競技人口の拡大を目指す女子野球に、行きすぎた勝利至上主義や選手の振り分けはふさわしくないと指摘する。

「勝利至上主義が悪いわけではなく、野球の楽しさやおもしろさを伝える指導と50%ずつにするのが、学生スポーツの本来の姿だと思います。勝つことで成長できる部分がある一方で、楽しむことも大事。どちらかが正しい、間違っているという問題ではありません。3年間の高校生活で、いかに選手たちが満足感を得られるかが大切だと思います」

弓桁監督は、自己の成長とチームの成長の両方を感じられるところに野球のおもしろさがあると考えている。野球はチームスポーツでありながら、打席に立った時や守備で打球が飛んできた時は個人の力が問われる。どの選手も攻撃と守備、どちらにも関わる。指揮官は「野球は意外と与えられるチャンスが多いです。その機会を生かしたときに個人が得る満足感は大きいと思います。自分が大きなミスをしても仲間が補ってチームで勝利する喜びも感じられます」と力を込める。

ユニホームもファッションの一部、野球人口拡大の一因に

野球未経験の選手を含め、全ての部員が野球の楽しさを味わえるように、弓桁監督は選手起用に気を配っている。練習試合や公式戦では、できる限り多くの選手を試合に出場させている。「理想は、練習試合のトータルで野手は全員が同じ打席数、投手は同じイニング数にして公式戦のメンバーを決めたいです。試合でもチャンスの場面で代打を送って選手1人1人の可能性を広げたり、モチベーションを上げたりする起用を心がけています」。メンバーを固定した方が、勝つ確率は上がる。だが、そこに女子野球が目指すべきゴールはないと考えている。

野球を楽しむ要素はプレーだけではない。弓桁監督は「女子野球をするのはファッションの1つだと感じています。ユニホームは制服を選ぶ感覚と似ています。ユニホームのかっこよさに惹かれた選手もいますし、東海の縦じまに憧れて入部した選手も多いです」と語る。チームは東海大系列のため、デザインのベースは決まっているが、部員たちでユニホームやパーカーにピンク色のラインを入れるなどアレンジしている。他にも、東海大系列伝統の縦じまをデザインしたキーホルダーなどの小物も手作り。身に付けている洋服やアクセサリーで気分が変わるように、ファッション性は女子野球の競技人口を増やし、女子野球を知ってもらうきっかけとなる。

弓桁監督は中学と高校で男子の野球を指導していた時、常に全国大会を目指しながらも、勝利至上主義への疑問を感じていた。「女子高校野球は男子高校野球を目指すのではなく、女子ならではの特徴を生かした別の形を確立した方がいいと思っています」。男子野球のイメージにはない明るい笑顔やファッション。女子野球独自の魅力を発信して競技人口を増やすため、弓桁監督は「50%+50%」の指導を貫いていく。(間淳 / Jun Aida)

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