JR函館線の山線(長万部―小樽間)バス転換へ 新幹線の札幌延伸開業で並行在来線の三セク鉄道転換ならず【コラム】

「蝦夷富士(えぞふじ)」の異名を持つ秀峰・羊蹄山をバックに走るH100形電気式気動車(写真:makorige / PIXTA)

2022年3月末、北海道の鉄道の今後について、一つの決断が下されました。「3月27日、北海道庁と沿線市町からなる北海道新幹線並行在来線対策協議会で、JR函館線の長万部―小樽間について、バス転換することが確認されたと承知している」(2022年3月29日の斉藤鉄夫国土交通大臣の会見から)。

北海道新幹線は、新函館北斗―札幌間(約212キロ)の建設工事が進みます。2030年度末に予定される延伸開業時、並行在来線になるJR函館線長万部―小樽間(140.2キロ)について、道と沿線市町はバス転換することを容認、鉄道廃止が事実上決まりました。決定にいたるまでの経緯は、道と沿線市町で構成する「北海道新幹線並行在来線対策協議会」のホームページで、詳細に情報公開されています。協議会での議論とともに、かつてシロクニ(C62)の重連が客車列車をけん引した、通称〝山線〟の歩みをまとめました。

長万部から山線ルートで札幌にいたる北海道新幹線

最初に基本をおさえます。「並行在来線」とは、整備新幹線に〝並行する〟するJR在来線のこと。北海道新幹線では、本州側から江差線(木古内―五稜郭間)と函館線(函館―札幌間)が該当し、江差線は2016年3月の新函館北斗開業時、第三セクターの道南いさりび鉄道に移管されています。

北海道新幹線は新函館北斗以北、新八雲(仮称)、長万部、倶知安、新小樽(仮称)、札幌の5駅が設けられることになっていて、駅名で分かるように山線ルートをたどります。

JR北海道から経営分離後の並行在来線の運営方法を判断する北海道は、2012年9月に沿線市町とともに北海道新幹線並行在来線対策協議会を設置。渡島ブロックと後志(しりべし)ブロックに分けて、並行在来線のあり方を検討しています。

函館線は、函館―長万部間と長万部―札幌間で大きく性格が異なります。函館本線の線区名からは山線がメーンルートのように思えますが、現在は室蘭、苫小牧、千歳と中核都市を経由する室蘭・千歳線経由の〝南回り〟が基幹ルート。札幌―函館間の特急「北斗」や本州方面に直通する貨物列車は、すべて南回りで運行されます。

山線ルートのうち、札幌都市圏といえる小樽―札幌間を除く長万部―小樽間を対象にした、協議会後志ブロックの構成員は北海道知事と小樽市、黒松内、蘭越、ニセコ、倶知安、共和、仁木、余市の7町の各首長。2012年10月から2022年3月27日まで、あわせて13回のブロック会議を開催し、冒頭の斉藤国交大臣の発言のとおりバス転換の結論で合意しました。

三セク鉄道転換が一般的、しかし例外も

しなの鉄道(長野県)、青い森鉄道(青森県)、えちごトキめき鉄道(新潟県)、肥薩おれんじ鉄道(熊本、鹿児島県)など整備新幹線開業後の並行在来線は、地元が出資する三セク鉄道に移管されるのが一般的です。でも、鉄道として維持するかは、あくまで地元の判断次第。いくつかの例外もあります。

信越線横川―軽井沢間(11.2キロ)は、1997年10月の長野新幹線(北陸新幹線)開業で廃止されました。鉄道ファンの皆さんにはおなじみ、横軽間は碓氷峠の急こう配区間で、補機のEF63が2両重連で横川方に連結され、列車を押し上げていました。横軽間を鉄道のまま継続するのは、いかにも非効率と思えます。

一方、廃止区間手前(東京方)の信越線高崎―横川間(29.7キロ)は、新幹線開業後もJR東日本が自社線区として運行しています。しかし、信越線はあくまで例外。新幹線が開通すると並行在来線はローカル線になるので、三セク鉄道化するのが一般的です。

余市町を除いて「廃止もやむなし」

小樽方面への通学生などで一定の鉄道需要がある余市駅。余市町は人口約1万8000人で、かつて朝の連続テレビ小説でも取り上げられたウイスキーメーカーの蒸溜所(工場)などの観光スポットがあります(写真:shingokun / PIXTA)

私自身、協議会での議論をずっとチェックしていたわけでなく、後追いで恐縮ですが、最後まで鉄道存続の意向を示していたのは沿線市町で余市町だけのよう。小樽市など他の7市町は、廃止もやむなしで、余市―小樽間を鉄道で残すか、バス転換するかが、最大の論点になりました。

協議会の資料に、山線を三セク鉄道に移管した場合の収支予測がみつかりました。長万部―小樽間をすべて三セク化した場合、北海道新幹線の札幌延伸開業実質初年度の2030年度の収支予測は運輸収入(雑収入含む)4億7400万円、営業経費27億6000万円で、年間22億8000万円(正確には22億8600万円)の営業赤字になります。

長万部―小樽間の輸送密度。国鉄時代の1980年には既に特定地方交通線として廃止を検討する1日4000人を下回っています。近年はさらに減少していますが、600人強で比較的安定しています(資料:北海道新幹線並行在来線対策協議会)
長万部―小樽間の鉄道、バスルート比較。黒松内、倶知安、小沢、然別、余市の各駅で鉄道とバスが接続しますが、道内では高速バス路線網が発達し、鉄道に乗車することなくバスで直接札幌方面に向かう利用客も数多くいます(資料:北海道新幹線並行在来線対策協議会)

鉄道存続の道を最後までさぐった余市―小樽間ですが、「巨額な初期投資や多額の運行経費が見込まれるとともに、輸送密度は沿線人口の減少などで札幌延伸開業時1493人(2018年度2144人)に減少。あらゆる手立てを講じても大幅な収支改善は見込めない状況といえる。将来にわたり小樽市、余市町、道の3者で鉄道を運行することは困難と考える(大意)」(並行在来線対策協議会による「地域交通の確保方策の確認事項」から)として、最終的に鉄道廃止・バス転換の結論にいたりました。

全線バス転換すれば初年度の営業赤字は1億円以下

前章で「山線を三セク転換すると、初年度営業赤字は22億8000万円」のデータを紹介しましたが、協議会資料には①長万部―小樽間全線をバス転換した場合、②長万部―余市間をバス転換し、余市―小樽間は三セク鉄道で残す場合――の2つのケースを想定した試算結果も示されました。

それによると、全線バス転換の場合の初年度赤字額は7000万円、長万部―余市間バス、余市―小樽間鉄道の場合は5億4000万円。財政事情が厳しい道や沿線市町が鉄道存続を断念したのはいたし方ないにしても、「日本の原風景が広がる山線を、三セク鉄道の観光列車で走ってみたかった」と思う鉄道ファンは少なくないでしょう。

三セク鉄道、バス、三セク鉄道+バスそれぞれのメリット・デメリット比較。経費面をのぞけば三セクで鉄道を維持するのがベターなようにも思えますが……(資料:北海道新幹線並行在来線対策協議会)

北海道開拓に貢献した基幹路線

優等列車の定期列車はない山線ですが、JR北海道のリゾート列車が運行されることもあります。写真は銀山―然別間を走る「ニセコ号」(車両は「ノースレインボーエクスプレス」)(写真:yhori / PIXTA)

最後に山線の略史をたどります。山線は札幌(道央)と函館(道南)を最短距離でつなぐ、北海道の鉄道初期の最重要路線でした。函館―札幌間の山線ルート全通は1904年。南回りより20年以上も早く、北海道開拓に貢献しました。

今の北海道は札幌一極集中ですが、戦前の北海道は本州につながる函館が玄関口。貿易港の小樽も、経済の中心都市として栄えていました。

戦後は函館線経由で、函館―網走間に急行「大雪」、函館―釧路(根室)間に急行「まりも」が運転され、山線を行くC62重連は、多くの撮り鉄に格好の被写体となりました。

しかし、山線の栄光の歴史もここまで。国鉄ラストの1986年のダイヤ改正では、最後まで山線経由で残った急行「ニセコ」と特急「北海」が廃止され、優等列車が姿を消しました。現在、山線は定期列車としては普通列車が走るだけですが、JR北海道は最新の電気式気動車H100形を投入しています。

H100形「DECMO」(デクモ)は、2020年3月のダイヤ改正でデビュー。JR東日本のGV-E400系をベースに、酷寒地仕様・両運転台化した電気式気動車で、ディーゼルエンジンで発電機を駆動して走る半分気動車、半分電車です。

一つの見方ですが、山線は普通のローカル線とは違う風格が感じられます。詳細は専門の方に譲りますが、山線は二股―黒松内間、昆布―ニセコ間などに撮影スポットが点在します。

本稿はここまでですが、実際の廃止にはまだ時間があるので、乗り鉄や撮り鉄の方は一度現地を訪れ、急こう配区間にドラフト音を響かせた往時のC62重連に思いをはせてはいかがでしょうか。本コラムでは同じ並行在来線ながら動向が決まっていない、函館―長万部間についても、動きがあれば紹介させていただきたいと考えています。

記事:上里夏生

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