レジェンド声優・若本規夫 「若本節」誕生秘話 「すべらない話」ナレーションに込めた思いとは

活動50周年を迎えた声優の若本規夫(76)が、独特の節回し「若本節」の誕生秘話を明かした。3月25日に初の自伝「若本規夫のすべらない話」(主婦の友社)を刊行。アニメ「サザエさん」の穴子役とともに代表作となったフジテレビ系バラエティー番組「人志松本のすべらない話」のナレーションにかける思いを語った。

「すべらな~~い、は~な~しぃ~~」。若本節の代名詞となったおなじみのタイトルコールは、当初「すべらないはなし」と抑揚をつけずにごく普通に読んでいたという。必死にはい上がろうとするお笑い芸人が放つ狂気にあおられ、若本のナレーションも狂気を帯びていく。奇跡のマッチングが、独特の節回しを生むきっかけとなった。

ナレーターを引き受けたのは2004年。食べていくにもカツカツの若手や、キャリアがあっても行き詰まりを感じている芸人の突破口に「すべらない話」はなると直感したという。若本自身も、声優生活に行き詰まりを感じていた。売れない芸人たちのように、番組を危機打開の突破口としたかった。

「すべらない話」からのし上がっていった芸人を、目の当たりにしてきた若本。抜きん出ていくためには、狂気が必要だと力説した。「ある種、狂気。狂気が必要なんだよ。芸道というのは狂気が。普通だったらダメなんですね。普通の上ではダメ。普通の特上でもダメ。特上から突き抜けなきゃダメなんだよ。声優も狂気は必要ですよ」と語気を強めた。

はい上がろうとする芸人がせめぎ合い、高くなっていくテンション。若本が感じた思いを、ナレーションに込めていった。節回しが回を追うごとに、ぐりぐり変わっていく。「すべらない話」のタイトルコールは、戦いの始まりを告げるゴングのようなもの。出演者を上から抑えつけ、芸人たちが「何を~!」とはい上がってくることをイメージしているという。

締めのナレーションにも、独特の思いがある。「『すべて実話である!』って言っちゃうと、しゃべれなくなっちゃうじゃん。あそこで『すべて実話であ~~る~~』って言うと…うそだよって言うと、彼らは楽になる。もう何言ってもいいんだよなぁ…と。本当、後押ししてやれるんだよね。(芸人たちの) きっかけの話は本当だけど、あとはやっぱり創作ですよ。だいたい、そんなおもしろい話が、何発もあるわけないんだよ!」とぶっちゃける。

深夜番組からゴールデンタイムに進出し、若本がナレーターとしての新境地を切り開いた「すべらない話」。語尾が伸びるともに、番組の人気も伸びていった。

(よろず~ニュース・杉田 康人)

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