「僕はリスクを取る」覚悟の4年目…“マダックス”達成のDeNA上茶谷が再生したワケ

"マダックス"を達成したDeNA・上茶谷大河【写真:宮脇広久】

評価はうなぎ上り? 三浦監督「いや、マグロのぼりです」

■DeNA 6ー0 ヤクルト(16日・横浜)

DeNAの三浦大輔監督が、4年目の上茶谷大河投手を復活に導いた。16日のヤクルト戦に6-0で快勝。本拠地・横浜スタジアムでは、今季4戦目にして初勝利となった。先発した25歳右腕は、わずか91球で散発5安打無四球に抑え、2020年9月23日の阪神戦(甲子園)以来、自身2年ぶり3度目の完封。初の「マダックス」(100球未満での完封)も達成した。

三浦監督は試合後、報道陣から「上茶谷君の評価はうなぎのぼりですね?」と振られると、上茶谷がお立ち台で“ヒーロー賞”としてクロマグロを贈られたことにひっかけ、「いや、マグロのぼりです」とニヤリと笑った。

指揮官が「特に良かったのはストレート。両サイドに決まり、打者を押し込めていた。常にストライク先行で投手有利なカウントをつくれていました」と評した通りだ。切れのいい直球でストライクやファウルを稼ぎ、早めに打者を追い込めたからこそ、シュートやフォーク、カットボール、カーブといった変化球も効果的だった。

100球に満たない“省エネ投球”にも、本人は「正直言って、終盤は打者にとらえられ、たまたま正面を突いた打球が多かった。先発投手として、スタミナの部分をまだまだ詰めていかないといけない」と反省を口にする。今季2勝目を挙げただけで、手放しで喜ぶわけにはいかない心境なのかもしれない。

「僕はリスクを取る」投球フォーム試行錯誤も覚悟決めた

並々ならぬ決意を抱き、今季に臨んでいる。2018年のドラフト1位で入団し、1年目の2019年に7勝(6敗)を挙げたものの、その後成績は右肩下がり。昨季は開幕ローテ入りしながら、8試合1勝3敗、防御率7.33の結果に終わった。就任1年目の三浦監督からお灸を据えられたこともあった。

シーズンオフには、東洋大時代の投球フォームに回帰。プロ入り後、肘や肩に負担のかからないフォームへの修正に取り組んでいたが、「うまく出力につながらない」と悩んだ。そこで「怪我をしない投球フォームで0勝に終わるか、怪我をしやすいフォームで勝つか。僕はリスクを取る」と覚悟を決めた。今年1月には、入団当時からねだっていた、三浦監督が現役時代に使用していたブルーのグラブを贈られ、不退転の思いを強めた。

春季キャンプでは、新球種としてシュートとフォークを練習。オープン戦で結果を出せず、開幕ローテから外れたが、三浦監督からは「ここでやめるな。やってきたことをゼロにするな」と諭されたという。「試合に使わなかったら意味がないだろ」との指揮官の言葉に従い、試合でシュートの割合を増やし、落差がいまひとつだったフォークには磨きをかけて精度を上げた。

そして、今月1日のヤクルト戦(神宮)。左中指を負傷した東の代役として先発のマウンドに上がり、7回2安打1失点の快投で応えたのだった。「悔しさがあったと思うが、自分を見失わずに取り組んでいたし、一発回答でローテーションをつかみ取り、きょうは連敗を止めた。ナイスピッチングだった」と称える三浦監督も感慨深げだ。

上茶谷は打っても、2回の第1打席で東洋大の3学年先輩にあたるヤクルト先発・原から、巨人・坂本にそっくりの打撃フォームで中前打を奪った。「打てそうなイメージがあったので、坂本さんのモノマネでいきましたが、現役選手の8割を真似られます」と豪語。投球フォームと違い、打撃フォームの方は気分次第にして変幻自在のようだ。新型コロナウイルスの陽性者が続出して主力がごっそり抜け、沈滞気味だったDeNAに、ユニークなヒーローが誕生した。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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