なぜ「有事の円買い」が起きない?円安を加速させている日米の「政策の違い」とは

4月13日の東京外国為替市場で円相場は一時2002年5月以来、約20年ぶりの円安ドル高水準となる1ドル126円台前半を付けました。金融引き締めに動く米国と、金融緩和を続ける日本の政策の違いが改めて意識されています。


円安加速の直接的な原因

米連邦準備制度理事会(FRB)は2022年3月16日、2020年3月から続けてきた新型コロナによる「ゼロ金利政策」を終了し、利上げをすることを決定しました。米景気の回復に伴い、雇用状況などが改善する一方、消費者物価の上昇率が40年ぶりの高水準となっています。FRBはこのインフレを抑え込むため、景気下支えのための緩和策から、金融引き締めへと政策を転換することとしました。

2022年3月16日の連邦公開市場委員会(FOMC)では「0~0.25%」に据え置いてきた政策金利の誘導目標を「0.25~0.50%」へと引き上げることを決定しました。利上げは2018年12月以来となります。また、この会合を含め22年中に0.25%幅で7回分の利上げを進める見通しも示しました。

一方で、日本は大規模な金融緩和策を維持するとしています。日銀は、2022年3月18日に行われた金融政策を決める会合で、現在の大規模な金融緩和策を維持することを決定しました。引き続き、短期金利をマイナスにし、長期金利がゼロ%程度に抑えられるよう、国債を買い入れます。

アメリカは金融引き締めに転じましたが、日本は大規模な金融緩和を続けていく、この両者の違いが円安を加速させている直接的な原因となっています。

円安が進むとどうなるのか

また、今年2月にロシアがウクライナ侵攻した事を受け、米国や欧州、日本などがロシアに制裁を加えました。ロシア産の原油を禁輸する内容が加えられた事で、更なる円安を招く格好となっています。さらに4月14日に欧州中央銀行(ECB)が金融政策会合を開催し、今回の会合では政策は据え置きましたが、量的緩和縮小を続け、場合によっては利上げも視野に入っているとの見解が示されました。対ユーロに対しても、今後円安が進む可能性があります。

円安のデメリットは、輸入価格が上昇することです。原材料やエネルギーの価格などの輸入価格が高騰するため、様々な商品が価格転嫁する要因となります。過度な円安により物価高に拍車がかかれば、外食や小売りなどといった内需型企業の収益や家計が圧迫され、景気の減速につながる可能性があります。

一方、自動車などの輸出企業にとってはメリットが大きいです。円安であれば海外市場における自社製品の価格競争力が高まるため、業績が良くなることがあります。

かつての日本円には「有事の円買い」という言葉がありました。過去、日本は米国に次いで世界第2位の経済規模でしたので、日本円は世界の投資家から信頼されていました。このことから世界経済が不安定化した際、ドルが買われる一方で、円も買われるというケースが多々あり、日本円は下落しにくい通貨と言われていました。

ところが直近約10年間では、世界各国の経済が成長していく中、日本だけがほぼゼロ成長という異常事態が続いており、日本は先進国の地位から脱落しつつあるという状況です。


為替は国力を表すとも言われます。国力は経済・政治・成長力と国際的信用により構成されます。現に財務省が3月8日に公表した1月の経常収支はマイナス1兆1887億円で、2カ月連続で赤字を記録しました。要因は原油や天然ガスなどの価格上昇ペースが圧倒的に速かった事です。また、ロシアへの制裁が続く現状において、商品市況は高止まりする可能性もあり、現在は限りなく円安が進みやすい状況にあると言えます。

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