新上五島 38キロ「ガチウォーク」に挑戦 “古里の魅力”再発見【ルポ】

矢堅目公園を折り返した辺りを歩く参加者=新上五島町網上郷

 「取材するなら参加しますよね」-。新上五島町で開かれた「かみごとうガチウォーク」(四季を味わう上五島実行委主催、町、町観光物産協会共催)への挑戦は、担当者のまさかのひと言で決まった。島北部を中心に、ほぼ反時計回りに38キロ。「ガチ」で疲れたが、島生まれの私には、古里の再発見にもつながった。

 3月20日朝、発着点の有川郷「五島うどんの里」(A)に集まったのは10代から70代の約80人。午前8時。子どもたちの「有川羽差太鼓」に送られ、60代2人と30代1人の女性3人でスタートした。曇り空で肌寒い。練習は、ほぼしていない。制限時間の午後7時までにたどり着けるのか。
 不安は的中した。30分もしないうち、ノルディックウオーキング用ポールのゴムが側溝に落ち、途方に暮れた。スタッフがすぐに駆け付けて代替品を出してくれ、序盤で気持ちがなえずに歩くことができた。
 島東側の海岸線を北へ。急な上り坂が続く。コースで最も高い131メートルの地点に到着。息が上がり、澄んだ海にも目をやる余裕がない。イノシシが掘り返した山肌の穴が気になり、つかの間、疲れを忘れた。
 奈摩湾に沿って、ぐるりと回り、矢堅目公園(I)を目指す。下りが続き、足裏にダメージ。同行の60代女性がここでリタイアした。私も心が折れそう。
 昼食は湾奥のステーション(H)で「すり身バーガー」。緩やかな坂を上り切り公園へ。「トトロ岩」として知られる矢堅目で折り返し。次のステーションで「塩バニラソフトクリーム」を頬張っていると「あと12キロくらい」と30代の同行者が励ましてくれた。「まだ大丈夫」。本当は太ももが悲鳴を上げていた。スポーツには自信があり、正直なめていた。
 内陸部の青方地区へ。峠からようやく有川港が見えた。あと5キロ。道は平らになったが足裏に針を刺すような痛みが耐え難く、ペースが極端に落ちてきた。

スタートからゴールまでのルート


 午後5時過ぎ。スタッフや先着の人に迎えられゴール。達成感もあったが、ふがいなさの方が大きい。記録は9時間36分。後ろに5人ほどいたらしい。トップは6時間弱。最高齢の77歳女性を含む約70人が完歩した。7時間25分だった鯛ノ浦郷の近藤末子さん(64)は「4カ月前から、週1回2時間練習。思ったより楽だった」。耳が痛い。
 車で何げなく走り抜ける島の道が、これほど起伏に富んでいたことも、入り江の青や山の緑の美しさも、風から感じる潮の匂いも、歩いたから感じることができた。「かんころもち」「べろ団子」…。所々で差し出された名産品や、スタッフ、住民の気遣いも、島の誇りだと改めて気付かされた。
 実行委の中谷幸実町観光物産協会次長は「ゴールする人々の笑顔に、涙するスタッフも」と振り返る。コロナ禍。気を張りながらの準備だったからこその涙だったのだろう。
 今回は滋賀県からの参加者もいたが、次はさらに多くの人が来てくれる世の中になってほしい。私も再挑戦を決意したが、トレーニングは入念にする、つもりだ。


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