原爆は「戦争犯罪」の可能性 当時の教皇 投下直後の米に苦言 シンポジウムで研究者報告

「バチカンと核兵器問題」と題して講演する松本教授=長崎市茂里町、長崎ブリックホール

 カトリックの総本山バチカンが2020年公開したローマ教皇ピウス12世(在位1939~58年)関連の機密文書に、太平洋戦争の終戦直後、ピウス12世が米国側に対し、広島、長崎への原爆投下は「戦争犯罪」の可能性があると苦言を呈した記録があったことが分かった。10日、長崎市内であったバチカン所蔵史料の研究に関するシンポジウム(角川文化振興財団主催)で、日本大国際関係学部の松本佐保教授(国際政治史)が報告した。
 松本教授によると、ピウス12世は45年10月、当時の欧州連合国軍米司令官アイゼンハワー(後の米大統領)らと会談。原爆投下の「戦争犯罪」の可能性を指摘した上で、米軍を中心とした日本占領政策について、日本に対する慈悲と日米関係改善による平和構築や日本市民への配慮を要求、提言。アイゼンハワーはこれを連合国軍総司令部(GHQ)のマッカーサー最高司令官に伝えた。
 ピウス12世は原爆投下を人類の最大の悲劇と非難し、バチカンは現在に至るまで核兵器に批判的な立場で問題に関与してきた経緯がある。一方でピウス12世に関しては第2次世界大戦中、ナチスドイツのユダヤ人大量虐殺に対し沈黙を守ったとして批判があり、現在の教皇フランシスコが公開するまで関連文書が長期間機密扱いとなっていた。
 シンポジウムは同財団や朝日新聞が進めるバチカンと日本の文化交流プロジェクトの一環。カトリックと縁の深い長崎で、16世紀以来のキリシタン史から近現代の外交史まで幅広い研究者が県内外から参加。講演や討論で成果を報告した。


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