中小企業の「BCP策定率」25%に届かず、電力不足の対応に遅れも=BCP策定に関するアンケート調査

 台風や地震などの自然災害や感染症、テロなど、不測の事態に備えたBCP(事業継続計画)を策定している中小企業は24.5%にとどまることがわかった。ただ、BCPを策定している企業でも、自然災害や感染症への対策に比べ、電力不足やテロへの整備は遅れているようだ。
 東京商工リサーチ(TSR)は4月1日~11日にかけて、BCPについてアンケート調査を実施した。「BCPを策定している」と回答した中小企業は24.5%で4社に1社にとどまった。大企業の60.5%と大きな開きがあり、企業規模によるBCP格差は想定以上に大きい。また、中小企業の30.6%は「策定の予定はない」と回答した。
 BCP策定企業のうち、約9割(構成比88.8%)は自社が自然災害で被害を受ける場合を想定している。東日本大震災や台風など自然災害への対策が背景にあるようだが、取引先の被災への対応は遅れている。また、「感染症」へのBCP策定は約6割(同56.7%)に達するが、新型コロナ感染拡大で有効な運用できたか検証が必要だろう。一方、「電力不足」は16.5%、「戦争・紛争・テロ」は8.5%で、こうした事象は「想定外」としている企業が多いようだ。
 自然災害だけでなく地政学リスクが高まり、BCPを策定してもサプライチェーンの混乱は避けられないケースも現実に起きている。これまで以上にBCP策定を広げるには、政府や経済団体、金融機関のサポートに加え、コンサルティング会社への費用負担の女性など、中小企業の実態に寄り添った支援も必要だろう。

  • ※本調査は、2022年4月1日~11日にインターネットによるアンケート調査を実施し、有効回答5,165社を集計・分析した。
    資本金1億円以上を大企業、1億円未満(個人企業等を含む)を中小企業と定義した。

Q1.貴社では、事業継続計画(BCP)を策定していますか?(択一回答)

中小企業の「策定済み」、24.5%にとどまる
 BCP「策定済み」は29.5%(5,165社中、1,528社)、「策定する予定」は27.0%(1,396社)で、合計56.6%が策定を進めている。
 対して、「策定したいができない」は15.7%(812社)、「策定の予定はない」は27.6%(1,429社)で合計43.3%が取り組みが遅れている。
 規模別で「策定済み」は、大企業が60.5%(722社中、437社)、中小企業は24.5%(4,443社中1,091社)と開きが出た。
 「策定の予定はない」は、大企業が9.4%にとどまる一方で、中小企業は30.6%に達した。

BCPアンケート

Q2.Q1で「策定済み」と回答された方に伺います。策定済みのBCPに入っているものはどれですか?(複数回答)

テロや電力不足の備えに遅れも
 Q1でBCPを「策定済み」と答えた1,440社から回答を得た。
 策定済みのBCPで最多は「自然災害(自社被災)」の88.8%(1,280社)。次いで、「感染症」が56.7%(817社)、「自然災害(取引先被災)43.3%(624社)、「設備故障」37.7%(544社)と続く。
 一方、策定済みが少なかったのは、「戦争・紛争・テロ」8.5%(123社)、「電力不足」16.5%(238社)、「経営者の不慮の事態」20.3%(293社)など。
 特に、中小企業は「戦争・紛争・テロ」7.6%(79社)、「電力不足」14.7%(153社)と対策が遅れている。
 ロシアのウクライナ侵攻で電気、ガスなど、エネルギー供給不足が懸念され、「電力不足」に対するBCP策定が今後、進みそうだ。

BCPアンケート

 不足の事態に見舞われた際、事業継続や早期回復が出来るようにBCPを策定する。だが、緊急事態時のBCPを策定している企業は全体の29.5%にとどまる。規模別では、大企業が60.5%、中小企業が24.5%と、規模的な開きが大きい。
 TSRが実施したアンケート調査では、「BCP策定指導」や「BCP策定の補助金支給」など行政のサポートを求める声も寄せられた。大企業の9.4%、中小企業の16.7%は「策定したいができない」と回答しており、支援への取り組み強化が急がれる。
 東日本大震災や台風や地震など災害発生が頻発し、BCPの重要性が高まっている。BCPを策定している企業のうち、自社が被災する自然災害への対応は約9割(構成比88.8%)だった。
 だが、BCPの範囲は、自然災害やテロから感染症やサイバー攻撃、電力不足、サプライチェーンや物流の分断など多岐にわたる。あらゆる緊急事態に備えたBCPの策定は容易でないが、策定の有無は取引関係にも影響を及ぼしかねず、廃業や倒産につながる可能性もある。
 中小企業庁は「中小企業BCP策定運用指針」を公表し、取組状況のチェックや基本、中級、上級コースなどレベルに分けて、策定・運用を支援している。同庁の2012年度版「中小企業BCP策定促進に向けて」では、災害だけではなく、「新型インフルエンザ」に触れている。この策定指針を参考に、新型コロナ感染拡大前から感染症対策を講じていた企業もあった可能性もある。
 取引先や下請企業がBCPを策定している場合、取引における評価を高める企業も増えている。金融機関でも、不測の事態への対応をプラス評価にすることもある。BCPは、緊急時の備えとしてだけではなく、ガバナンス体制など経営全体への評価と考えられるようになっている。
 BCP策定は話題性と実際の策定に乖離があり、まだ大きな広がりになっているとは言い難い。だが、策定していると経営基盤の強化と同時に、評価にもつながる。
 中小企業の多くは、長引くコロナ禍で経営体力が低下し、BCP策定にはコストや時間などの制約も大きい。だが、いつ起きるかわからない不測の事態に対するBCP策定は待ったなしで、これまでに以上の多方面の支援が必要になっている。

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