世界をリードする東北大学の宇宙研究 月面探査ロボットと帰還型人工衛星を開発へ

東北大学で、次世代の月面探査ロボットや国内では民間で初となる帰還型人工衛星の開発が進んでいます。世界をリードする最新の宇宙研究に迫ります。

精密なコンピューター。鋭い爪で岩をつかむ8本の指。4足歩行で移動する次世代の月面探査ロボット、ハブロボです。開発しているのは、東北大学大学院工学研究科の吉田和哉教授のグループです。
月面探査ロボットというと、車輪が付いたモデルが一般的ですが、このハブロボは4本の脚を使って岩をつかみながらクモのように移動します。

月面探査ロボ ハブロボ

東北大学大学院工学研究科吉田和哉教授「こういう崖みたいな地形に出合った場合は、もう車輪型ロボットでは歯が立たないんですよね。そういう環境を脚を使って一歩一歩登っていくことができるようになると、探査できる領域がすごく広がる」

吉田教授らが探査を目指しているのは、いまだかつて誰も挑戦したことのない月面にある縦孔と呼ばれる巨大な穴です。縦孔は、火山活動の名残だと言われていて、月面の複数個所で確認されています。その深さは数百メートルに及びます。
降りた先には水平な洞窟があり、地底世界が広がっていると考えられていて、未来の基地や居住地の建設に適していると期待されています。
東北大学大学院工学研究科吉田和哉教授「恐らく温度も安定してるし、放射線からも守られるし、万が一、隕石が降ってきても直接にぶつかって被害を受けることもないから、将来、人が住む場所としても、縦孔は、あるいは洞窟の中は非常に興味深い世界だと思う。可能性のある世界だと思う」

東北大学の研究グループ

険しい崖や岩場を進むために重要なのが地形の把握です。ハブロボには、胴体とそれぞれの脚の先にセンサーが取り付けられていて、岩の大きさや地形の起伏などを瞬時に読み取り、3次元の地図を作ります。
この地図を基にすることで、将来的には次の一歩をどこに踏み出せば良いか、ロボット自身に判断させ、自動での探査を実現します。

ハブロボの開発に携わった、助教の宇野健太朗さんです。宇宙で活動するためには課題もあると言います。
東北大学大学院工学研究科宇野健太朗助教「地下空洞の中に入ってしまうと、そこは完全に影になってしまって、太陽光が当たらないと。例えば、太陽光電池で自分で発電できなくなってしまう。なので、内蔵バッテリーだけで動く時間、そういった制約もあるので、移動速度を上げていくことがキーになる」

16倍速の映像です。今は、一歩進むのに30秒ほどかかりますが、吉田さんらは、この映像のように、今の10倍以上のスピードで移動することを目指しています。
打ち上げの目標は5年後。実際に月面で活動すれば、脚を使って移動する探査ロボットとしては世界初となります。
東北大学大学院工学研究科吉田和哉教授「民間企業が主導しながら、リーダーシップをとりながら、月に飛んでいく宇宙船は造られていますので、ここ1、2年の内に、そういったものがどんどん実現されていくのではないか。月に飛んで行く機会が増えれば、足が付いてるロボットが、まだ見たことのない世界を探査しに行く探査シナリオが、どんどんどんどん近付いて来ていると感じています」

帰還型人工衛星

東北大学で進んでいるのは探査ロボットの開発だけではありません。2021年2月に設立された東北大学発のベンチャー企業と、宇宙で実験を行うための帰還型人工衛星を共同開発しています。
この人工衛星に人の細胞や植物などの検体を乗せて宇宙へ送り、数カ月後に、地球に落下させ海上で回収。検体のDNAがどう変化したかを調べ、宇宙で人が暮らせるかや、食料生産が可能かなどを判断するのに役立てます。
高さ2メートル、重さ800キロで、一度に運べる検体の量は200キロです。
東北大学大学院工学研究科桒原聡文准教授「動植物、我々の食用となるものも含めて宇宙で本当に生育することができるのか、できるとしたらどのような問題があったり、制約があったりするのか、そういった研究はまだ十分になされてないと考えています。そういう環境を提供できるようなインフラを構築することが大きな目標」

これまで、宇宙での実験は国際宇宙ステーションで実施されてきましたが、施設の維持に費用がかかるため実験コストも莫大になり、頻繁に実施できないという課題がありました。
一方、開発を目指す帰還型人工衛星は、維持費用がかからない他、地球に帰還した後、回収して再利用が可能なため、実験費用を抑えることができます。1回の打ち上げにかかる費用は数百万円とこれまでの10分の1を目指しています。
今後は、人工衛星を帰還させるための高性能エンジンや大気圏突入時の熱に耐えられる最適な設計などを研究し、4年後の商用化を目指します。
ElevationSpace小林稜平代表「宇宙空間から地球に戻ってくる人工衛星を開発している企業は、日本ではまだ私たちだけですし、世界でも数社くらいしかいない、そういったところに私たちは取り組んでいます」
世界をリードする仙台の宇宙工学者たち。彼らの飽くなき挑戦が続きます。

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