計算できるストライカーと追い詰めるような守備 昇格組の京都が予想以上の活躍

J1 柏―京都 柏に勝利し、笑顔を見せる京都のウタカ(9)ら=三協F柏

 今から10年ほど前、Jリーグでは欧州などには見られない驚きの状況が起こっていた。2011年の柏レイソル、そして2014年のガンバ大阪。J1を制したチームは前年度にJ2を戦っていた昇格組だった。

 欧州に限らないが、あるレベルに達したリーグに所属しているチームは、おおよそ3種類に色分けされる。優勝を狙うチーム。上位を狙い、大陸のカップ戦などを目指すチーム。そして、残留を最大の目標にするチームだ。そう考えれば、2部から昇格したばかりのチームがいきなり優勝してしまうかつてのJリーグは、海外から見てかなり異質なものに感じたのではないだろうか。

 最近はJリーグもチームが3種類に分かれてきた印象が強い。標準形になってきたということだろう。逆に言えば、昇格組がJ1に定着するのに苦戦するリーグということだ。

 4月17日に第9節を終え、暫定ではあるが5位。12シーズンぶりにトップディビジョンに戻った京都サンガが予想以上の活躍を見せている。同じ昇格組のジュビロ磐田が9試合で1勝しか挙げられず15位にいるのに対し、京都は4勝3分けで2敗しかしていない。直近4試合は3勝1分けと負けなしの安定感を見せている。

 そのJ1第9節、こちらも好調だった4位柏との一戦。京都にとってもかなり達成感のある快勝だったのではないだろうか。

 両監督がいないという、かなりレアケースの試合だった。柏はネルシーニョ監督が足のけが、京都はチョウ・キジェ監督が新型コロナ陽性でベンチに入っていない。代わりに井原正巳ヘッドコーチと杉山弘一コーチが、それぞれの指揮を執った。

 立ち上がりからサッカーのテンポが速い内容だった。それはすなわち、湘南ベルマーレ時代から続くチョウ監督の仕掛けるサッカーだ。全員が手を抜くことなく、連係して相手のボールホルダーに襲いかかる。その光景は複数の猟犬が獲物を追い詰めるのにも似ていると思う。しかも守備時の前線から最終ラインの幅がとてもコンパクトに保たれている。柏からすれば、密集地帯に攻め込まなければいけない状況が続き、シュートを狙おうにもゴールへとつながるコースがほとんどない状況だった。

 人数をかけるのは守る時だけではない。攻撃も複数の選手が反応し、大胆に攻め上がる。1980年代、ミシェル・プラティニを中心としたフランス代表は「シャンパン・サッカー」と表現されることがあった。グラスの底から湧き上がる気泡のように複数の選手が飛び出してくるからだ。この日の京都の攻撃には、その「シャンパン・サッカー」のにおいがした。

 前半13分、京都が先制点を挙げる。おそらく、このパスワークの手順も普段から徹底しているものだろう。マイボールにしてからシュートまで、バックパスを受けたGK上福元直人から数えても10本のパスをつないだ攻撃は、テレビゲームを見ているような感じさえした。

 相手が前線からプレスを掛けてきているのに、自陣ゴールの前を横切るようなパスを2回もつなぐビルドアップ。一昔前ならタブー視されたプレーが当たり前になっていた。GK上福元から始まった攻撃はピッチを幅広く使って展開された。右からのパスを中央で受けた福岡慎平が左前方にパスを送る。最後は松田天馬がトラップしたボールを荻原拓也が右足シュート。後方から走り込んだ左サイドバックが、味方からさらうようにして放ったボールは相手選手に当たってコースが変わり、GKも対処できなかった。

 早い時間帯での得点はチームに勇気を与える。京都は後半3分にも追加点を挙げた。決めたのは38歳の頼れる大黒柱ピーター・ウタカだ。FKからのトリックプレー。左から中央につながれたボールを武田将平が右サイドにロブで上げる。これをコントロールした川崎颯太がDFを引きはがすようにして強引にシュート。ここでゴール前にいち早く詰めたのがウタカ。GKのはじいたボールを左足でプッシュして得点王争いトップの7点目をやすやすと決めた。

 どこのチームに行っても、コンスタントにゴールを重ねるナイジェリア出身のストライカー。彼を見ていると日本のストライカーに物足りなさを感じる。日本選手はゴールを取る形になって初めて点を決める。ウタカは自らゴールを取る形をつくる。ゴール前への詰め、プレーの予測、体の向き。準備を怠らないから無理なく決められる。まるで点を取る「職人」だ。

 京都とすれば、危なげない内容だった。ピンチは後半12分に小屋松知哉に許した一撃ぐらいだろう。それも麻田将吾がヘディングで見事にクリアした。2―0の勝利。J1に復帰して初の連勝。しかも、開幕戦以来の無失点試合だ。

 それにしても、京都の選手はよく走る。終盤になって足がつって倒れ込む選手が続出したが、それだけハードワークを強いられているのだろう。消耗の激しい夏場は体力的に難しい問題も出てくるかもしれない。当然、監督の頭の中に対応策はあるのだろう。

 ここ数年、あっけなくJ2に逆戻りするチームが目立った昇格組。計算できるストライカーと献身的な守備が大きな武器の京都は、これからも見劣りしない戦いを続け、上位を狙っていけるのではないか。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材は2018年ロシア大会で7大会目。

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