バブルの真っ只中に現われた香港映画「男たちの挽歌」トレンディなんてブッ飛ばせ!  古き良き時代の活力を4Kリマスターで体感せよ!

古き良き時代の活力を再び体験できる4Kリマスター

名作映画と言うものは、DVDやブルーレイ、ネット配信もいいけれど、やっぱり映画館の暗がりで観たいものだ。しかも年を経た作品の4Kリマスター版と来れば、公開当時そのままの映像を大スクリーンに鮮やかに映し出すのだから、絶対に推しである。

「4Kリマスター」とは、フィルムで撮影された映画を、4K(3840x2160) クオリティでスキャン、デジタルデータに変換して修復する作業のことを言う。フィルムは映写機にかければスリ傷や油・埃の付着など、必ず何らかのダメージを受けてしまうもの。古い映画を観るとき、僕たちは劣化による色褪せた映像や傷、黒いパンチマークさえも愛おしく映画の一部と理解していたけれど、デジタル時代の到来でそんなものに煩わされることも無くなった。

正直、デジタル以前の映像作品が令和の現代に甦り、今の映画が失ってしまった古き良き時代の活力を再び体験できるのだとすれば、それはタイムマシンに乗って何十年も前の世界に帰るのと同じことだ。

甦る香港映画「男たちの挽歌」

さて、そこで是非観たいと待ちわびていた作品がある。その映画は1980年代後半、バブル景気の真っ只中に現われた。

当時は映画『私をスキーに連れてって』(1987年)が大ヒットし、テレビでも『男女7人夏物語』(1986年)といったオシャレな恋愛ドラマが主流。子供じみた恋とファッションがすべてと言っても良い軽い風潮が蔓延していた。誰もが浮かれ切っている。そこに突然、海を渡って香港からやってきた映画が『男たちの挽歌』である。

主人公のホー(ティ・ロン)は香港の偽札シンジケートの幹部でヤクザ者だが、病弱の父親に代わり家族を支えている。そして、学校を出たら警官になりたいという弟・キット(レスリー・チャン)を複雑な思いを抱えながらも心から愛している。キットは兄がヤクザであることを知らない。

ある日、ホーは台湾に渡り偽札の取引現場で客筋の組織に裏切られ銃で撃たれて逃亡。取引は警察に情報が抜けていて、追われた末、待ち構えていた警官隊に逮捕されてしまう。その後、ホーの弟分で親友のマーク(チョウ・ユンファ)は敵の組織に報復、二丁拳銃を両手に殴り込みをかけ重傷を負う。ホーは刑務所に収監され、家族のためにヤクザから足を洗うことを決意するが――

血と硝煙が舞う銃撃戦。裏切りと報復。そして痺れるように熱いサウンドトラック。それは一片の軽さもオシャレさも存在しないヤクザ映画。暑苦しいぐらいの友情と家族愛。映画を観て強烈なパンチを喰らったような気がした。それは日本人がバブル以前に置き忘れてきたもののように思えた。戦後という逆境を這い上がってきた私たちの祖父や父親たちが持っていたガツガツとしたバイタリティ。そう、これは多分そういった類のものだ。その史上最高に熱い映画が4Kリマスター版として2022年4月22日から全国のスクリーンに甦る。

バイオレンス映画のスタンダードにもなったガンファイト

激しく暴力的なガンファイト。二丁拳銃を撃ちまくるジョン・ウースタイルは世界を席巻し、その後のバイオレンス映画のスタンダードとなった。こうして『ラスト・ボーイスカウト』でブルース・ウィリスが、『リーサル・ウェポン3』ではメル・ギブソンが二丁拳銃をぶっ放した。『マトリックス』シリーズや『リベリオン』の黒いロングコートと二丁拳銃のシーンも印象に残っている。

さらにマッチ棒を爪楊枝のように口に咥えニヒルに笑うマーク(チョウ・ユンファ)の姿も恐ろしくかっこよかった。このダイナマイトのように熱い男のモデルは日本が誇るマイトガイ・小林旭であった。ユンファは日活時代の小林の所作や動きを自身の演技に刷り込んで作品に臨んだと言われている。道理で覚えのあるかっこよさ。それも監督のジョン・ウーが小林旭の大ファンであったことに起因するというのだから堪らない。黒澤明やセルジオ・レオーネ、サム・ペキンパーをリスペクトし、まさに世界のアクション映画のハイブリッド。それが『男たちの挽歌』なのである。

虐げられた者たちの敗者復活戦。不条理な仕打ちに耐え続けながら、命を捨てる覚悟で意地を通す男たち―― 最初に映画を観終えたとき、私はすっかりチョウ・ユンファ気分であった。例えるならば『網走番外地』を観た後、主演の健さんになったような気になって肩で風を切って街を歩いてしまうとか、『ロッキー』を観た後、感動そのままにスタローン気取りで全力で走り出してしまうとか、そういう気分。

だから、今でも『男たちの挽歌』のメインテーマが耳をかすめれば強烈なアドレナリンが脳内を駆け巡るのだ。

男たちの挽歌(香港映画・1986年製作) 監督:ジョン・ウー 主演:チョウ・ユンファ / ティ・ロン / レスリー・チャン 公開:1987年4月25日

※2016年5月12日に掲載された記事をアップデート

カタリベ: 鎌倉屋 武士

アナタにおすすめのコラム ジャッキー・チェン「酔拳」ブルース・リーとは違ったカンフー映画!

▶ 映画・ミュージカルに関連するコラム一覧はこちら!

80年代の音楽エンターテインメントにまつわるオリジナルコラムを毎日配信! 誰もが無料で参加できるウェブサイト ▶Re:minder はこちらです!

© Reminder LLC