<金口木舌>憲章で残す伊計島の宝

 豪州でワーキングホリデーをしていた約20年前。日雇いの仕事でためたお金で世界自然遺産のウルル(エアーズロック)に行った。美しく荘厳な巨大岩のふもとでガイドが言った

▼「頂上に登るかは自分の判断。ただ先住民アボリジニの皆さんは、ここは聖地なので登らないでほしいと呼び掛けている」。登ることを選ぶ参加者もいて、しばらく迷ったが、登らないことにした

▼うるま市伊計自治会が島の聖地や自然を保全するための「伊計島憲章」を制定した。きっかけは昨年4月。島の拝所が荒らされる被害に遭ったことだ

▼一部の人の迷惑行為で地域の人たちの心は傷ついた。だがそれをばねに、住民が専門家を招いた勉強会などを開き、許可なく聖地に入ることを禁止するといったルールを自分たちで定めた

▼その後、ウルルに登ることは、先住民への敬意を払うために2019年に禁止されたと知った。筆者の故郷である沖縄で、地域の人たちが自然と文化を守ろうとする取り組みに触れ、あの時登らなかった選択も正解だったように感じる。

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