下津井に移住者増、出店相次ぐ 住民パワー 変わる町並み

港町の風情を伝える倉敷市の下津井町並み保存地区。「ダンジョデニム」(手前)などが開業し、新たな魅力が加わる

 瀬戸大橋の直下に古い町並みが広がる倉敷市下津井地区。1988年の“夢の懸け橋”開通は、江戸期から明治半ばにかけて北前船寄港地として栄えた地域の活性化につながると期待された。34年が経過し、当時約8千人だった地区人口は昨年9月末現在で4336人。高齢化率は43%と、岡山県平均(同年10月1日現在31%)を大きく上回る。それでも、レトロな雰囲気や瀬戸内の景観に引かれた移住者、Uターンが増え、近年はデニム製品の店や洋菓子店など出店が相次ぎ、イベントも増加。新しい風が吹いている。

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 日本遺産の構成文化財でもある倉敷市下津井町並み保存地区の一角に、築150年という古民家を改修した店舗が立つ。茨城県出身の福川太郎さん(42)が2021年10月に開いた工房も兼ねる「ダンジョデニム」(同市下津井)。オリジナルのジージャンをメインに、デニム製品を製造・販売している。

 会社勤めなどをしていた福川さんはデニム好きが高じ、同市に移住。市児島産業振興センター(同市児島駅前)の起業支援施設で商品開発・販売などに取り組んだ後、下津井に拠点を移した。一帯では飲食店などが増えており、福川さんは「『食事のついでに、うちの店に寄って』とアピールしやすい」と相乗効果を期待する。

 カフェ「下津井『蔵』珈琲 kula-n」(同市下津井)は20年9月、観光施設・むかし下津井回船問屋近くの蔵を活用してオープンした。岡山市から移り住み、経営する中西修睦さん(54)は「観光など潜在力があると感じて出店した。行政主導でなく、住民グループがまちづくりに関わっているのが特徴」と地区の魅力を説明する。

 福川さんら移住希望者の窓口を担うのが、まちづくり団体・下津井シービレッジプロジェクト(倉敷市下津井)。市の依頼を受け、メンバーが移住希望者とともに現地を歩いたり、地域の良さや移住後の暮らしを丁寧に説明したりしている。19年以降、少なくとも移住10件、店舗誘致5件に関わったという。

 同プロジェクトのセンター長を務める矢吹勝利さん(77)は「地元の人たちの人柄にひかれ、移住する人も。JR駅や高速道路のインターチェンジへのアクセスの良さもメリットと感じるようだ」と話す。

 イベントでは今月9日、アジア各国の料理や地域特産品などが並んだ「下津井国際マルシェ」が初めて開催され、盛況だった。下津井漁協の協力で昨年5月に始まった食を中心とした催しも好評で、16、17の両日開かれた第4回は家族連れらでにぎわった。

 地域を訪れる観光客はまだ少ないが、まちづくりに詳しい岡山大地域総合研究センターの岩淵泰准教授は「イベントや店が増えることで、ドライブなどで通過していた人が立ち寄る場所になる。そうすれば地元も潤うことになり、いい循環が生まれる」と今後に期待を寄せる。

 山陽新聞社は、地域の方々と連携して課題解決や魅力の創出を図る「吉備の環(わ)アクション」として、変わり始めた下津井地区の動きを追い、紙面などで報道。新たな時代のまちづくりの在り方を探っていく。

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