【追う!マイ・カナガワ】厚木にないのに「厚木基地」?(下)近くの宿場町が由来か マッカーサー進駐で浸透も

1935年に横浜貿易新報社が発行した「最新調査神奈川県交通地図」(横浜市旭図書館所蔵)を加工したもの。厚木基地の建設前は周辺のほとんどが村で、宿場町として栄えた厚木のみ町だった

 神奈川県厚木市にないのに、なぜ「厚木基地」(大和、綾瀬市)の名が付いたのか─。理由を確かめようと、米軍と共同使用している海上自衛隊厚木航空基地の広報にも聞いてみた。

◆自衛隊員も誤解、米軍は

 「自分も赴任するまで当然厚木市にあると思っていました」。取材の趣旨を説明すると、担当者はそう明かした。「自衛隊の中でも同じように勘違いしている人が結構いるのでは」と指摘しつつ、所在地と名称が異なることで大きなトラブルになった話は聞かないという。

 ただ残念ながら、「今も名称の由来は断定されていません」と担当者。防衛研究所図書館にある資料には「所在地の市町村名または誤解されないような所在地近くの著名な地名をつける」とする原則が記されており、この原則によって近くの宿場町だった「厚木」の名が付いた可能性が高いといわれているそうだ。

 江戸時代に「小江戸」と呼ばれ、大山の参拝客が宿泊する宿場町としてにぎわい、相模川の河川交通の要衝としても栄えていた厚木。基地周辺の村の中ではいち早く、1889年に厚木町となった。だが、そうした歴史になじみがなさそうな米軍内では、戸惑う人もいるのだろうか。英語表記でも「Naval Air Facility Atsugi」(米海軍厚木航空施設)と名が入っている。米軍広報に尋ねてみた。

 担当者によると、同基地に赴任してくる際に名称と所在地が違うことを説明していることもあってか、特に不便を訴える声はないという。さらには「終戦後、マッカーサーが降り立った歴史的な基地である『アツギ』の名は海外でも知られています。そのため、今になって名称を変える必要性を感じている人は少ないのでは」とも推測した。

◆当の「厚木市」どう受け止め

 基地がないのに地名が使われていることを、当の厚木市はどう感じているのだろう。過去の本紙をめくると、2006年7月当時の厚木市長・山口巖雄さん(79)が、騒音訴訟などで全国に知られる同基地について「(全国的には)誰もが厚木市にあると思い込んでいる」と述べた記事があった。全国市長会議では勘違いで基地問題で声を掛けられたこともあるようだ。当時の心境を聞こうと、山口さんを探し出した。

 「他市の市長に限らず、全国どこに行っても、厚木というと『マッカーサーが降りた基地の場所』という印象があるようで、特に高齢者には基地があると間違われました」。そう振り返る山口さんは県議時代、防衛上の懸念もあって基地の名称変更を訴えたという。だが関心のある議員は少なく進展しなかった。

 一方、「基地名になったことで地名が広く知れ渡ったという面は確かにある」と山口さん。ストッキング大手「アツギ」の本社も海老名市にあるが、まさにマッカーサー進駐で有名になったという理由で名が冠された。

 ちなみに小田急線・JR線の厚木駅も海老名市にある。「厚木市中心にあるのは本厚木駅なのに、間違えて降りてしまう人が多い。こちらも駅名を変えてほしかったが、費用面などで難しいと言われた」(山口さん)。厚木市にとって、名称を巡る問題は基地にとどまらない。

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