「B1まで最短期間で上がる」ヴェルカ・伊藤拓摩GM兼監督 現場熟知、絶大な信頼

アウェー岩手戦で指揮を執る伊藤監督。「クラブとして正しい一歩目を踏めた」と実感を込める=盛岡タカヤアリーナ

 有言実行のリーグ優勝だった。ゼネラルマネジャー(GM)を兼任する伊藤拓摩監督はこの日、就任当初から掲げてきた「B3からB1まで最短期間で上がる」という目標の一つ目をクリアした。選手一人一人の調子や成長を見極めた起用法、チームのモチベーションを上げる雰囲気づくり-。常に現場に立ち、選手から絶大な信頼を受けた39歳は、最後まで隙を見せずに第1章を完結させた。
 インサイドの選手も含めた全員が3点シュートを狙え、攻めるようなディフェンスでボールを奪って先手を取る。その積極性と展開の速さは、チーム発足当時から掲げてきた「見ていてわくわくするバスケット」そのものだった。逆に強過ぎることでファンが安心してしまい、それが集客面などで悩みの種になるほどだった。
 現場を熟知したGMとしての手腕も、他の追随を許さなかった。Bリーグ元年に東京五輪代表の田中大貴(長崎西高出身)が所属するA東京の監督を務めるなど、豊富な経験、人脈を生かして選手を招集。それもスターをそろえるのではなく、必要な人材を的確に選んでチームをつくった。
 集まった選手の実績はさまざまだった。B1で活躍してきたガード狩俣、フォワードのギブスのほか、ガード松本、タリキらがトライアウトから加入。その一人一人が欠かせないピースとして活躍した。全員がチームの主役だった。
 スタッフ陣の力も引き出した。選手の体のケアなどは「僕はそこは素人だから」と、全幅の信頼を置いて任せた。意気に感じたスタッフ陣は、選手一人一人が役割に応じた体づくりができるように全力を傾注。結果、最後まで大きな故障もなく、指揮官が求める「40分間激しくプレーするスタイル」を追求できた。
 “遊び”も忘れなかった。長いシーズン、どうしても緊張が張り詰めたり、気持ちが落ちたりする時もある。そんな時は自ら道化役となって、チームを和ませた。
 昨年10月末、B1勢と戦った天皇杯全日本選手権。ハロウィーンと重なった移動日のバスに、突然「殿様」の格好で乗り込み笑いを誘った。チームは前々回王者でB1の渋谷に1点差で競り勝つ金星を挙げた。
 三重県出身で中学卒業後に米国留学。そこで指導者を志し、また一つ、結果を出した。だが、ここはあくまでも通過点。「クラブとしては正しい一歩目を踏めたけれど、B2は今のように勝てない。でも、強いチームをつくることに変わりはないし、戦術もレベルアップさせる」。若き名将の進化は止まらない。


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